29:不安定な魔王
カルロの様子がおかしい。
帰ってきてから、何か気配を感じ取ったのだろう。
彼はフィオレが来たことを分かっているみたいだった。
ヌシである私を誰にも渡さないなどと言いつつ、お姫様抱っこで自分の部屋に運んでいる。
なんだか、いつものカルロではなくて、私はひたすら困惑することしか出来なかった。
「モエギ、やっぱり洞窟の外は危険だ。この部屋から出ない方がいい。私以外の誰の目にも触れさせたくないんだ」
「……カルロ?」
「このまま部屋に閉じ込めてしまえば……」
「不穏なことばっかり口にしないで!」
ベッドに下ろされたので、私は枕を持ってボフボフとカルロの頭を叩いた。早く目が覚めてくれるといい。
もともとカルロは、私をダンジョンに閉じ込めようとする気があったけれど、今日はそれが一段と酷くなった感じだ。
一体、彼に何があったのか不安になる。
「モエギにとっても、ここにいるのが一番いいと思う」
「んなわけあるか! 本当に閉じ込めたら怒るよ?」
ボフッと、もう一度カルロを枕で叩いた私は、満足して寝台から降りた。
「そんなことより見て、魔王の部屋を増築して、二階が出来たわ!」
「……こんなにも心配しているのに『そんなこと』扱いなのか」
「しかも、地下も出来たの。全部LEDの照明をつけているから、明るいのよ」
<城建設メニュー(初期)>
増築:城の増築(+10平方メートルにつき気力10を消費する)
移動:城の移動(1回移動につき気力を10消費する)
水道:レベル5(水道を設置する。蛇口1つにつき、水は気力10、湯は気力20を消費する)
照明:レベル10(照明を設置する。照明1つにつき、松明は気力5、電球は気力10、LEDは気力20を消費する)
模様替え:レベル2(床や壁を変更する。一部屋につき気力を20消費する)
<LED>(レベルにより種類が増えていく仕様)
・置き型A:◯
・平面型A:◯
・シャンデリアA・B:◯
・ネオンカラーA・B:◯
<壁紙・床>
・大理石
・木目
・レンガ
もともと豪華な内装だったので弄っていないが、気分転換に模様替えも出来るみたいだ。
地下が岩壁だったので木目調に変更してみたのだが、温かい雰囲気になったので気に入っている。
「私を閉じ込めたら、ダンジョンでの仕事が出来なくなるわ。料理だって誰が作るの?」
「……私が作る。モエギの作業を見ていたから、出来るはずだ」
「無理しないで……ん?」
ふとステータスを見ると、変化が起きていた。
■ステータス■P1
<ダンジョン>
ダンジョン:<名称未設定>(レベル3)
ヌシ:モエギ(レベル20)
体力—200/200
気力—220/220
特性—創世神の加護(ダンジョン内・自由カスタマイズ)
装備—
性質—ダメージ無効(ただしダンジョン内に限る)
面積:4000平方メートル
拡張—レベル20で可能(+100平方メートル)
地形:洞窟・岩山・砂地・川
<モンスター>
魔王:カルロ(レベル120)
ウルフ:ブルーノ(レベル30)
■ステータス■P2
<スキル>(レベルによりできることが増えていく仕様)
畑作:レベル20(畑で日本の作物を育てられる。四季は関係なく収穫の早さはレベルによる。消費する体力は作物によって異なる)
勧誘:レベル2(下級モンスター1体をダンジョンへ呼び寄せることができる。体力を15・気力を15消費する)
整備:レベル完(ダンジョンを整備する。体力を消費しない)
召喚:レベル10(3回限り、前世にあったもの(無機物)を1つ呼び寄せることができる。体力10・気力20消費する)
城建設:レベル10(魔王の城「小」を建設・移動する)
結界:レベル1(ダンジョンに結界を張る。体力を100消費する)
色々頑張ったからか、ダンジョンのレベルが3になっていた。
しかも、結界が……念願の結界が表示されている!
「レベルが上がって、結界が使えるようになったわ! カルロ、私を閉じ込めなくても大丈夫!」
「……結界があっても心配だ」
駄目だこりゃ。
どんな状況になっても、彼は私を外へ出す気自体がないのだ。
交渉するだけ無駄らしいと悟った私は、少しむっとしてカルロに抗議した。
「カルロ。あなた、過保護すぎるわよ。私のこと、少しは信用してほしい」
「モエギは一人でも、どんどん逞しくなっていく。だが、ふとした時に、私の手の届かないところへ行ってしまいそうで……」
「ここのヌシは私で魔王はあなたでしょ? ダンジョンを放り出して出て行ったりしない。本当に大丈夫? 今日のあなたはいつも以上に変だわ」
カルロは、少し迷ったそぶりを見せた。
「私は、モエギを失いたくないだけだ」
「さっきも、同じようなことを聞いたわよ」
「そして、それはモエギがここのヌシだからではない。私が……」
小さく息を吸ったカルロは一息に言葉を紡ごうとし、ややあって口を閉じてしまった。
「なんでもない」
おかしな様子の彼は、沈んだ表情のまま自分の布団に潜ってしまったのだった。
何が言いたかったんだ?




