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2:妖艶魔王にロックオンされた

 そうして、再び意識を取り戻したのだが――

 どういうわけか、銀髪に蒼い目をした、この世のものとは思えないような、妖しい美貌の持ち主が上から私を眺めている。


(これは一体、どういう状況……?)


 ぼうっとしていると飲み込まれてしまいそうな、誘惑に満ちた毒々しい美。

 私が目にしたことのないような生き物がそこにいた。


(誰なの?)


 まったく見覚えのない男性だし、そもそも日本には銀髪に蒼い目の人間などいない。

 ウイッグや染髪とカラーコンタクトで綺麗にコスプレはできるが、よく見れば日本人だとわかる。

 今時のカラーコンタクトの縁は虹彩より大きいものが多いし、黒髪を染めるのはパサつきやムラが出やすい。ウイッグも髪質が違うので判別できる。


 だが、目の前の彼の顔は作られた外見ではなく、明らかに天然物だった。全てが自然で完全な調和の取れた美しさなのだ。

 ……などと考えつつ、謎の人物を観察していると、突如彼が跪いた。


「あなたが、このダンジョンの新しいヌシか?」

「ふひ?」


 突然のことだったので、変な声が出る。

 相手の問いに答えるべく、私は目覚め立ての頭を整理して直前の記憶を思い返した。


(大きなヒヨコに『ダンジョンのヌシになって欲しい』と言われたような……)


 ダンジョンというのは、『ゲームでお馴染みのモンスターの湧く迷路のような空間』のことだろう。


(でも、『ヌシ』というのは何かしら?)


 緩いゲーム知識しかない私には、よくわからなかった。


「はじめまして、だな。私がこのダンジョンの魔王だ。これから世話になる」

「……魔王? 世話?」


 戸惑う私に構うことなく、男性は普通に話を続ける。


「ああ、そうだ。私は以前も、この地で魔王をしていたが――ダンジョンが崩壊して、しばらく眠りについていた。新しいヌシが来ることになって再び目覚めたのだ」

「眠りについていて、目覚めたの? あなたは魔王なの?」


 ――ダメだ、まったくわからない。


(しかも魔王だなんて、冗談よね?)


 答えあぐねて困っていると、不意に私の上着の中がもぞもぞと動いた。

 脱いでそれを揺すると、ポテッと何かが転がり落ちる。

 綿毛のような黄色の物体……手のひらサイズの小さなヒヨコだった。


(あの大きなヒヨコが吐き出した子だわ)


 ヒヨコはポテポテと歩き回ると、私の目の前で停止した。


「ピヨッ! おはようございます、ヌシ様!」

「喋った!」


 驚く私をよそに、ヒヨコは綺麗にお辞儀をしてみせる。ふわふわした黄色の毛の間から覗く、黒い瞳がじっとこちらを見つめていた。


「私は、チリと申します。ヌシ様はダンジョン初心者ですから、創世神様よりサポートするよう仰せつかりました」

「サポートって? 私を助けてくれるということ?」


 ヒヨコは「そうだよ」と言うように、首を前に突き出している。


「ええ、早速ですが。今、ヌシ様の目の前におられるのは、このダンジョンの頂点であるモンスター、「魔王」です。これからは、この魔王と協力してダンジョンを拡大・発展させてください。とはいえ、このダンジョン……崩壊して長いので色々と荒れております。まずは、ダンジョンの整備をオススメします」

「言っていることが、やっぱりわからないわ。あの、私は日本に戻れないのかしら?」

「戻っても、あなたは死んでいますよ? 創世神様にもそう言われていたでしょう?」

「信じられないわよ。そんな……」

「もしかして、自殺をご希望ですか? なら……」

「え、ち、違うけど……!?」

「では、話を続けます」


 小さなヒヨコは、私よりもだいぶ冷静な性格だった……


「聞くよりも、実際に動いた方がわかるかと。ヌシ様には『元の世界に生きて戻る』という選択肢はありませんからね。帰還=死ですので、お忘れなきよう」

「っ……!」


 やはり、大きなヒヨコの言っていたとおりなのだ。

 私はあの後、駅のホームで頭を打って死んでしまったらしい。

 人生二十年――実にしょうもない最期だった。


(きっと、今回継続して生きられたのは、あの大きなヒヨコのおかげなのね。でも、代わりに言うことを聞かなきゃならない)


 座ったまま頭を整理していると、これまで黙っていた魔王がいきなり私を抱き起こした。

 美形の顔がアップになって、思わずのけぞってしまう。


「あ、あの?」


 殺人級の美しい笑みを浮かべた魔王は私の無知ぶりを理解したのか、小さなヒヨコの話を継いで説明を始めた。


「私は以前もこの地で魔王をしていた。だが、前のヌシはダンジョンの運営が下手で……たった五十年ほどでダンジョンは朽ち、私はお役御免になってしまったのだ。だから、今度のヌシには期待している。私に出来ることがあるなら。なんでもしよう」

「いや、あの……えっと?」


 透き通った蒼い瞳が間近に迫る。


(地味にプレッシャーをかけるのは、やめてください! そして毒のように美しすぎる顔を近づけないでください!)


 モゴモゴしていると、突然ヒヨコが私に指示を出した。


「ヌシ様、スマホを出すのです! 創世神様が一緒に転移させたはずなので、ポケットに入っていると思います」

「え、スマホ!? スマホって、こっちで使えるの?」


 死ぬ前のままなら、上着のポケットにスマホがあるはずだ。

 バッグは持ってこられなかったが、服はそのまま身につけている。


「よいしょ……」


 ポケットを探ると、本当にスマホが出てきた。私が生前持っていたものだ。

 見ると、勝手に何らかのアプリが起動しているようで……表示されている四角い画像内に青白く光る文字が映し出されていた。


「これって」


 ロールプレイングゲームなどでよく見るステータス画面だ。


■ステータス■P1

<ダンジョン>

ダンジョン:<名称未設定>(レベル1)

ヌシ:モエギ(レベル1)

   体力—20/20

   気力—50/50

   特性—創世神の加護(ダンジョン内・自由カスタマイズ)

   装備—

   性質—ダメージ無効(ただしダンジョン内に限る)

面積:500平方メートル

   拡張—レベル2で可能

地形:荒れた洞窟

<モンスター>

魔王:カルロ(レベル60)

ウルフ:1体


 荒れた洞窟というのは、この場所のことだろうか。

 ようやく周囲を観察する余裕が出てきたが、ここはゴツゴツした岩に数個の松明が設置されているだけの薄暗い場所だ。

 少し肌寒いし、不気味な上に湿気た匂いもするし、できれば長居したくない。

 魔王やヒヨコは、私のスマホを凝視している。


「ああ、過去に比べると色々減っているな。面積も、モンスターの数も」


 ステータスを見た魔王が、蒼い目を伏せ少し寂しそうな様子で呟いた。


「『朽ちた』と言っていたけれど、このダンジョンの規模は小さくなっているの?」

「もともと、大して大きくはなかったが、眠っている間にかなり縮小されてしまった。モンスターも見当たらない……ダンジョンとして終わっているレベルだ」


 面積が縮小されたので、それに伴いモンスターも出て行ってしまったのかもしれない。


(レベルが1だし、見捨てられたのかも……)


 そして、それを発展させる役目を負ったヌシとして、私がこれから働かなくてはならないのだろう。


「ヌシ、よろしく頼む」


 毒々しく甘い笑みを浮かべた魔王が、逃がさないぞと言わんばかりに私の肩に手を置いた。


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