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28:異変を察知した(魔王視点)

 ゴブリンの巣を破壊し、群れの大半を掃討したカルロたちは、一旦攻撃を中止した。

 残ったゴブリンたちは、一目散に森の外へ逃げて行く。戦意を喪失したみたいだ。

 馬たちが、勝利を誇示するように嘶く。

 森の外では火馬たちがゴブリンを草原から離れた方向へと追い払っており、しばらく戻ってくることはないだろうと思われた。

 経過を見守っていると、馬種の代表であるヴァレリが話しかけてくる。


「これで全部逃げて行ったな。女王も潰したし……助かったぜ、カルロ」

「私が出る幕ではなかったのでは? 大して何もしていないが」

「いや、馬種は細かいことが苦手だからな。ゴブリン女王の探知や巣から出てくるゴブリンを攪乱させてくれたのは助かった」


 ゴブリンは、女王さえ潰してしまえば、まとまりのない集団になる。

 かつて魔王をしていた時代にもゴブリンの襲撃はあった。

 知能が低い彼らは、平気で上位種に喧嘩を売るような真似をするのだ。

 群れ独自のルールを持ち、群れの女王以外の命令に従わない彼らは、他種からも嫌われている。

 森から出ると、不意にヴァレリがとんでもないことを言い出した。


「そうだ、カルロ。モエギには心に決めた相手がいるのか?」

「……は?」


 思ってもみなかった質問に戸惑いつつ、口を開く。


「見ている限りでは……いないはずだが」

「なるほど、じゃあ、番になってくれって頼んでみるか。強くて可愛い雌は好みだ」

「……はぁっ!?」


 衝撃を受けたカルロは、思わず言葉を失う。

 機嫌良さげに去って行くヴァレリを眺めつつ、カルロは動揺した状態から立ち直れないでいた。


(モエギを番に……だと!?)


 そんなことは、断固反対だ!

 あの可愛らしいヌシを他のモンスターの手に渡してなるものか。他の魔王の傍らにモエギが立っている姿を想像したカルロは、ぶんぶんと首を横に振った。

 さらに、他人の番になったモエギを想像して心に大ダメージを受ける。


 そうして、ふと自覚してしまった。

 モエギのことがヌシとして特別なのではなく、異性として特別に見ていたのではないかと。


「私は……」


 混乱したまま岩山へと戻る。

 無自覚のうちはよかったが、自覚してしまうと気恥ずかしく、モエギに合わせる顔がない。

 そんな思を抱えながらカフェ付近まで戻ってきたのだが……何か様子が変だ。

 他のモンスターの気配が色濃く残っている。種族柄、他人の気配に敏感なのだ。


(モエギは……!?)


 急に不安に襲われ、洞窟の方へと急いだ。


「大丈夫か、モエギ!!」


 しかし、カフェに駆け込むと、モエギは普通に食器を洗っている。


「あら。お帰りなさい、カルロ」


 先ほどまで、食事をしていたようだ。

 ウルフのブルーノは留守で、ヒヨコのチリはテーブルの上でうたた寝している。

 カフェの中にも、他のモンスターの気配が色濃く残っていた。


(なんなんだ、これは……)


 モエギは火馬の母子と会うと言っていたが、その気配とは別で強い種の魔力の残滓がある。


「怪我はない?」

「……ああ」

「ゴブリン退治から無事に戻ってくれて良かったわ!」


 中に入ったカルロを出迎えるモエギは、変わったところもなく普通だ。


「なあ、モエギ。私が留守の間に変わったことはあったか?」

「えっ……?」

「誰かが、このダンジョンに足を踏み入れた痕跡がある。それも、強力なモンスターが」


 問うと、モエギは首を縦に振った。


「そんなことまで分かるんだ。すごいわね」


 感心している場合ではない。

 カルロは、のんびりしたモエギが心配でならなかった。


「火馬のエレノアとソーレが遊びに来たわよ。あと……荒れ地のダンジョンの魔王が勧誘に来たのだけれど、お断りしたわ」

「……!? 他の魔王が、ダンジョン内に来たのか?」

「ええ、お酒を飲んで帰って行ったわよ」

「だから、この場所に気配が残っていたのか……」


 こちらの気も知らないで、モエギはほわほわした笑み浮かべている。


「本当に、何もなかったか?」

「心配性ねえ。ちょっと勧誘がしつこいから撃退したけど、大丈夫じゃないかしら」

「しつこい勧誘だと!?」


 モエギはなんてことのないように言うが、一歩間違えると危険な状況だったと推察できる。

 彼女には、他の魔王の情報など与えていなかった。

 まだ少し、モエギを自分だけの手元に置いておきたくて、情報を制限していたのだ。


 きっと、火馬親子か荒れ地の魔王自身が話したのだろう。

 向こうのダンジョンの魔王とは面識がないが、留守中に、こんな事態になるなんて思わなかった。


「モエギ、本当になんともないのだな?」

「ええ、平気よ? ダンジョン内での私は、加護のおかげで強いもの」

「…………」


 耐えきれず、カルロはモエギを抱きしめる。

 今はただ、モエギを身近に感じて無事を確認したいのと、彼女の体に残った他の魔王の痕跡を消したい気持ちでいっぱいだった。


「……カルロ、あの、ご飯食べる? それとも、お風呂? あの、離してもらえないと準備が出来ないんだけど」

「モエギは、誰にも渡さない」

「ちょっと、どうしちゃったのよ?」


 困惑するモエギを抱き上げて、洞窟の奥へ向かう。

 彼女を誰の目にも届かない場所へ閉じ込めてしまいたかった。


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