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26:川と蛇と逆勧誘と

 エレノアが帰ってしまったし、カルロはまだゴブリン退治中だ。

 することがなくなった私は、今日も低レベルなダンジョンを改良していく。

 モンスターの勧誘はカルロが一緒でないと怖いので、ウルフやチリと共に他の作業を中心に行うことにした。拡張、整備、畑作などだ。


(ええと、確か……東が平原、南が沼地だっけ? 峡谷が北側……)


 とりあえず、西に向かって限度まで拡張を進めてみる。というのも、ダンジョンで採れる野菜の種類が一向に増えないからだ。やはり栽培場所が洞窟や岩場では限界があるようで、作物は限られたものだけだった。

 西に向かって進んでいると、恐ろしく透明度の高い大きな川に行き当たった。

 その周辺は岩場ではなく砂地である。

 ポケットにいたチリが小さなくちばしで川の水を飲んでいる。生水を飲んで大丈夫なのだろうか。


「チリ、お腹を壊すわよ」

「問題ありません。生水に当たるのは、ひ弱な人間くらいなのです」

「……」


 とりあえず安心した私は、ヒヨコを放置して砂地に植えられる作物を調べてみた。最近同じような野菜ばかり食べているので、そろそろ違うものが食べたい。

 スマホで畑作メニューを開いてみると、思った通り新しい地形に対応した作物がある。


<畑作メニュー(砂地)>

砂ニンジン:レベル1(砂地に生えるニンジン。1日で収穫出来る。1株につき体力を2消費する)

砂ダイコン:レベル1(砂地に生えるダイコン。1日で収穫出来る。1株につき体力を2消費する)

砂ナガイモ:レベル1(砂地に生えるナガイモ。2日で収穫出来る。1株につき体力を2消費する)

<畑作メニュー(川)>

川レンコン:レベル1(水中に生えるレンコン。2日で収穫出来る。1株につき体力を2消費する)


 早速それらを数株ずつ植えてみた。

 ここ、モンスターの大陸の気候は穏やかだ。日本でいうと春から夏にかけての気温で過ごしやすい。


「ここで魚、釣れるかなあ?」


 もし、釣ることが出来れば……肉類、魚類が著しく欠乏している食卓の救いになる。

 大豆でタンパク質を補おうにも、毎日だと辛いものがある。


 しばし川を見つめていると、ゆらゆらと大きな……見覚えのあるものが横切った。

 ここの川は、それなりの深さがある。日の光を浴びた大きな体は、キラキラと光って見えた。


 それは水中を泳いで私の前まで来ると、ザバアッと水面へ顔を出す。

 水色の皮膚に金色の瞳を持った美しい大蛇の登場に私は思わず息を呑んだ。


(強敵出たぁ〜! しかも、カルロのいないときに!!)


 今の私は拡張したダンジョンの中にいるし、無敵状態である。

 だが、怖いものは怖い! 大蛇怖い!!

 いつの間にか川から戻ったチリが、いそいそと私の服のポケットに潜り込んでいる。

 こういうときは、頼りにならないヒヨコだ。


『お久しぶり〜、不味そうな人間の子』


 かなり軽いノリで話しかけてきた神々しい大蛇は、バシャバシャと尻尾を振っている。

 その反動で、水面がぐらぐらと大きく波打った。


「お、お久しぶり? 何しに来たの?」


 こちらは警戒モードだ。あの蛇は、以前私を沼の中に攫った。


『やっぱり、ここに出来たばかりのダンジョンのヌシだったんだね。レベルが低そうだから、すぐに分かった!』


 何気に失礼な相手である。確かに、弱小ダンジョンだけれども!


『そう警戒しないでよ。今日は挨拶に来たんだから』

「挨拶?」

『そう。ご近所のダンジョン同士、仲良くしましょうって!』

「ご近所……ということは」


 私の脳裏に火馬のエレノアとした会話が蘇る。

 南の沼地を越えた先、荒れ地には、大蛇のダンジョンがあるという。

 やはり、この蛇はそこからやってきたのだ。


『僕は水蛇のフィオレ』

「私はモエギといいます。あなたは、大蛇のダンジョンの人?」


 人というか蛇だが……

 私の問いに、フィオレは鎌首をもたげて頷いた。


『大蛇じゃなくて水蛇のダンジョンって言って欲しいな。確かに、この体は少々大きいかもしれないけど』

「ん……?」


 彼の言葉に私は首を傾げる。大蛇じゃなくて水蛇。フィオレの体は大きい……


「もしかして、あなた、荒れ地のダンジョンの魔王だったりする?」

『うん、そうだよ〜』


 軽〜い感じで答えが降ってきた。


『こっちの魔王が不在みたいだから、様子を見に来たんだけど……面白いことをしてるねえ。畑作?』

「そうだけど」

『東側には、奇妙な建物も建っていたね』

「ああ、カフェとか諸々のことかな」

『暇だから、ここのダンジョンを観察していたんだけど……面白いね。ヌシの君に俄然興味が湧いてきたよ』

「はあ、そうですか」


 異世界ではあのようなカフェが珍しいのかもしれない。

 なんだかんだで、モンスターの暮らしは原始的だ。


『そうだ、モエギ。もしよかったら、僕の下で働かない? 魔王として、君の力が欲しいなあ』

「私の魔王はカルロなので、お断りします」

『そう、残念』


 いつの間にやら、フィオレの周囲には小さな蛇がウヨウヨと湧き始めている。


(ちょっと、ヤバくない?)


 いくら私がチートでも、あの小さくうねる蛇の群れに囲まれたら追い払いづらい。


「あの、そろそろヌシの仕事に戻るので」

『え、もう? 仕事熱心なんだね。ついていっていい?』

「えっ!? いや、その体だと大きすぎて入らないわよ。それにカルロに無断で余所の魔王を招くわけには」


 断り文句を探し、私は適当に言い訳した。


「別に攻め落としに来たわけじゃないんだし、いいじゃん。余所のダンジョンを見てみたいんだよ。うちにも招くからさ」

「いや、そういうことではなくて……」

「じゃあ、このサイズなら、文句ないだろ?」


 そう言うと、フィオレはシュルシュルと縮み始めた。

 蛇って縮むものなの!? ……と仰天していると、蛇の体が全てバシャリと水に沈む。

 再び川から上がってきたのは、水色の長髪に金色の瞳を持つ人型の青年だった。

 カルロが妖艶系だとすると、こちらは清廉系とでも言おうか……彼もまた美形だった。


「……あの、もしかして、フィオレ?」

「うん、そうだよ。この姿なら小さいから、ダンジョンに入ってもいい? あの変な建物の中に入ってみたいんだ」


 馬といい蛇といい、ここのモンスターは簡単に人型を取りすぎだ。

 断る理由がなくなってしまった私は、案内だけという条件で彼を招き入れる。


(招き入れると言っても、結界がない今は誰でも入り放題だけどね! この蛇だって、その気になれば私を無視して入り込めちゃうだろうし……それなら近くで監視しつつ見学させた方がマシかも)


 相手が危険な行動に出たら、殴り飛ばせばいいだけだ。

 私は、さっさと彼を案内し、帰ってもらうことにした。

 洞窟内じゃなければ、入れてもいいよね?


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