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18:勧誘とピンチ

 岩山を越え、枯れた木々の立ち並ぶ沼地へ到着する。

 真っ赤で湿った泥が大地を覆い、ところどころに水溜まりが出来ている。

 向こうには、大きな茶色の沼が見えた。


「モエギ、足下には気をつけるんだぞ」

「分かった」


 家から長靴を履いてきたが、これでは足を取られそうだ。

 カルロに手を繋がれて進んでいると、水溜まりをぴょんぴょん跳ねる生き物が見えた。


「ねえ、あれは?」

「……スライムだな。水辺に多く生息している」


 緑色に透き通っているゼリーのような生物には、二つの目がついている。

 大きさは中型犬くらいで、少しだけ気味が悪い。


「とりあえず、勧誘してみるわ」


 後ろから、そっと近づき、スマホのステータス画面を開く。


■ステータス■P1

<ダンジョン>

ダンジョン:<名称未設定>(レベル1)

ヌシ:モエギ(レベル7)

   体力—70/70

   気力—90/90

   特性—創世神の加護(ダンジョン内・自由カスタマイズ)

   装備—

   性質—ダメージ無効(ただしダンジョン内に限る)

面積:1700平方メートル

   拡張—レベル8で可能(+200平方メートル)

地形:洞窟・岩山

<モンスター>

魔王:カルロ(レベル72)

ウルフ:ブルーノ(レベル9)


■ステータス■P2

<スキル>(レベルによりできることが増えていく仕様)

畑作:レベル5(畑で日本の作物を育てられる。四季は関係なく収穫の早さはレベルによる。消費する体力は作物によって異なる)

勧誘:レベル1(下級モンスター1体をダンジョンへ呼び寄せることができる。体力を15・気力を15消費する)

整備:レベル5(ダンジョンを少しだけ整備する。体力を5消費する)

召喚:レベル4(三回限り、前世にあったもの(無機物)を一つ呼び寄せることができる。体力10・気力20消費する)

城建設:レベル1(魔王の城「小」を建設する)


<城建設メニュー(初期)>

増築—城の増築(+10平方メートルにつき気力10を消費する)

水道:レベル1(水道を設置する。蛇口1つにつき、水は気力10、湯は気力20を消費する)

照明:レベル1(照明を設置する。照明1つにつき、松明は気力5、電球は気力10、LEDは気力20を消費する)


 いつの間にか、レベルが上がって体力が回復していた。

 ポケットから出てきたチリが、画面を見つつ説明する。


「スマホの写真画面をモンスターに向けて、ボタンを押すのです。向こうにその気がない場合、勧誘が失敗することもありますが、気を落とさずに頑張って下さいね」


 私は頷いて、スマホ画面を見つめた。


「よし、勧誘……っと」


 スマホをモンスターに向けると、写真を撮るような画面になった。

 他の項目が消え、勧誘の文字が下に移動している。

 そこをタップすると、前方にいたスライムがビクリと反応した。

 ゆっくりこちらを振り返ったスライムはプルプルと体を揺らすが、しばらくするとプイッと反対側を向いて去ってしまう。


「い、今のは……?」

「失敗したようですね。気を落とさず、地道に勧誘しましょう」


 チリに励まされながら、次のモンスターを目指した。

 幸いモンスターの数は多いらしく、すぐに次の獲物に出会うことが出来る。

 ふわふわとした白い生き物だ。


「アレは何?」

「ラビット種だな……ラビット種には、シザーラビットなど凶暴なものもいるが、あれは普通のフットラビットだ。強力な蹴りを放ってくる場合があるが、痛いだけで死にはしないだろう」


 カルロの説明を聞き、私はこのフットラビットを勧誘することにした。

 フットラビットは、その名の通りウサギである。

 大きさはスライムと同じくらいで、足だけが大きい。


「モエギ様、スマホの右下をタップすれば、モンスターの説明が出ますよ」

「……親切な設計ね」


 もう一度、スマホをウサギに向けて勧誘ボタンを押してみる。

 フットラビットは、スライムと同様にピクリと反応した。

 しかし、またもやプイッと後ろを向いて去ってしまった。


「なんで……?」

「勧誘はレベル1ですからね。失敗しても経験値はたまっているはずですので、レベル2になるまで頑張りましょう」


 その後もモンスターを発見しては失敗した。

 一匹も勧誘できず、カルロに申し訳ない。

 大きな沼の傍で謝ると、カルロはユルユルと首を振った。


「成功率が低いのは、私の責任でもある。ダンジョンが未熟だったり、魔王が若かったりすると、モンスターは集まりにくいのだ。しかも、一度は崩壊したダンジョンだから信用度も低いのだろう」

「何か、コツがあればいいのに。とりあえず、何度もトライして勧誘のレベルを上げてみるわ」


 そう言ってカルロに微笑みかけた時、何かが足に巻き付いた。


「え……?」


 考える暇もなく、後方へと引きずられる。


「モエギ……!」


 カルロの慌てた声が響くのと私が沼にドボンと落ちるのは、ほぼ同時だった。


 沼地の水は濁った茶色で水もドロドロしている。

 私は目に泥が入らないように、両目を固く閉じてしまっている。

 やがて、何か固いものが全身に巻き付いた。


『珍しいものが来たと思って捕獲してみたら。ただの人間じゃないねぇ……』


 頭の中に声が響く、それに水の中のドロドロ感が薄れてきていた気がする。


『目を開けて、息をしても大丈夫だよ』


 声に従いそっと目を開くと、自分の周りの水が澄んでいる。

 息もそろそろ限界だと思い口を開けてみたら、確かに呼吸が出来た。

 そうして顔を上げると、目の前に大きな水色の蛇がいる。本能的に恐怖を覚えた。


『怯えなくていい。長年生きてきたけど、君のようにマズそうな人間は初めてだから。気にはなるけどね。何者?』

「ええと、私は……」


 答えようとすると、私のすぐ近くの水が大きくうねった。

 そうして、馴染みのある美しい腕に抱きかかえられるのが分かった。

 蛇の拘束は外れている。


「カ、カルロ……? 助けに来てくれたの?」

「モエギ、大丈夫か? 怪我は……!?」

「ないわ。なぜか息も出来るし、声も出るの」

「スネーク種の縄張り内だからだ」


 大きな蛇は、カルロを見てウンウンと頷いている。


『魔王が来たか……ということは、君はどこかのダンジョンのヌシだね。こんなところまで、何をしに来たの?』

「モンスターの勧誘」

『……勧誘に励まなければならないなんて、まだ小さなダンジョンなのだろうね。それで、成果は出たのかな』

「うっ……」


 図星だが、なんだかくやしい。

 複雑な気持ちの私を蛇は同情的な目で見ている……蛇に表情はないが、何故かそんな気がした。


『なるほど。沼地の雑魚に相手にされないということは、ヌシになって日が浅いのかな……何にせよ、低レベルなダンジョンみたいだ』

「放っておいて。あと、私は勧誘を続けたいから、地上に戻してくれると嬉しいんだけど」

『それはできない。せっかく、面白そうな獲物を見つけたんだから』


 巨大な蛇がそう言うと同時に、どこからともなく何匹もの小さな蛇がやってきた。

 長さは一メートル前後だろうが、数十匹はいそうである。

 蛇たちは、私やカルロを囲むように迫ってきた。


(小さいけど、ウミヘビみたいに毒があったらどうしよう!)


 獲物などと言うくらいだから、大きな蛇はモエギたちに危害を加える気なのだろう。

 なんとか逃げなければと焦っていると、カルロが私を抱きかかえて水の中を上昇し始めた。

 しかし、大量の蛇が澄んだ水の中を追ってくる。

 その動きはなめらかで、すぐに追いつかれてしまいそうだ。


「カルロ……」

「大丈夫だ、私に掴まっていろ」


 言われたとおりにすると、カルロは風の刃のようなものを蛇に向かって飛ばした。

 籾殻を飛ばしたときよりも鋭く早い魔法だ。水の中だというのに、刃は速さを損なうことなく蛇たちに迫る。

 そして次の瞬間、大量の蛇が切り裂かれ、水中が赤く染まった。

 隙を突くように、カルロが私を抱えながら上昇する。

 真っ赤な水の向こうを見ると、巨大な蛇が面白そうに目を細めて私たちを眺めていた。

 しかし、追ってくる様子はなさそうだ。


 カルロは澄んだ水の空間を突き抜け、元の沼地の泥の中を進み……やっと水面へと辿り着いた。

 私もカルロも泥水のせいで服が茶色く染まっている。洗濯でも汚れが落ちないかもしれない。

 沼の手前の岩陰に隠れていたチリが、私たちを発見して駆け寄ってきた。

 どうやら、ずっとここに隠れて待っていてくれたようだ。

 両手でヒヨコを拾い上げた私は、それを大事に肩へ乗せる。ポケットが、びしょ濡れだったからだ。


「モエギ様〜! ご無事で何よりです!」

「チリ、あなたも無事で良かったわ」


 話していると、カルロが私を抱え空へ飛び立った。チリは慌てて私の胸元へ潜り込む。

 履いていた長靴は、沼の中に落として来てしまったようだ。


「モエギ、ここは危険だから移動する。それに、このままだと体を冷やして体調を崩すかもしれない」

「そ、そうね。一匹も勧誘できなかったのが残念だけど」

「気を落とさなくていい。まだ、これからだ」

「うん……」


 しかし、帰り道で気付いたことがあった。


「あれ、勧誘のレベルが2に上がってる……」


 失敗したものの、何度も挑戦したので経験値が溜まったようだった。

 レベルが2になれば、少しは勧誘の成功率が上がるかもしれない。

 次こそは成功させようと、私は心に誓ったのだった。


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