14:魔王城を作ろう
「さて、今から二度目の召喚をしようと思うの」
一度目は、部屋を呼び寄せた。
そして、次に呼び寄せるものも決まった。精米機である。
さすがに手作業で毎日麦をつくのは、半日以上かかってしまう。
部屋の前まで戻った後、前にチリに教えてもらった手順で精米機を召喚してみた。
目当てのものを思い浮かべながら「精米機」と入力し、召喚の文字をタップすればいいはずだ。
召喚すると、部屋の外に精米機が現れた。
しかも、業務用の大きいものだ。
「やった! 成功だわ」
召還後には、ステータスも変化している。
■ステータス■P2
<スキル>(レベルにより出来ることが増えていく仕様)
畑作:レベル4(畑で日本の作物を育てられる。四季は関係なく収穫の早さはレベルによる。消費する体力は作物によって異なる)
勧誘:レベル1(下級モンスター1体をダンジョンへ呼び寄せることが出来る。体力を15・気力を15消費する)呼び寄せるだけで住まわせるとは言っていない。
整備:レベル5(ダンジョンを少しだけ整備する。体力を5消費する)
召喚:レベル3(2回限り、前世にあったもの(無機物)を一つ呼び寄せることが出来る。体力10・気力20消費する)
スキルのレベルが上がったようで、召喚のレベルが3になっていた。
今度は二つも召喚出来るみたいだ。
ついでなので、籾殻を飛ばす送塵機と粉を作る製粉機を召喚する。
このダンジョン内では電気やガス、水などが無限に使えるので、後々のことも考えて二つとも機械にしてみたのだ。
とりあえず、小麦を精米だけして袋に保存しておいた。
すると、私のステータスのレベルがまた上がる。
■ステータス■P1
<ダンジョン>
ダンジョン:<名称未設定>(レベル1)
ヌシ:モエギ(レベル6)
体力—60/60
気力—80/80
特性—創世神の加護(ダンジョン内・自由カスタマイズ)
装備—
性質—ダメージ無効(ただしダンジョン内に限る)
面積:1500平方メートル
拡張—レベル6で可能(+200平方メートル)
地形:洞窟・荒れた岩山
<モンスター>
魔王:カルロ(レベル70)
ウルフ:ブルーノ(レベル8)
■ステータス■P2
<スキル>(レベルにより出来ることが増えていく仕様)
畑作:レベル5(畑で日本の作物を育てられる。四季は関係なく収穫の早さはレベルによる。消費する体力は作物によって異なる)
勧誘:レベル1(下級モンスター1体をダンジョンへ呼び寄せることが出来る。体力を15・気力を15消費する)呼び寄せるだけで住まわせるとは言っていない。
整備:レベル5(ダンジョンを少しだけ整備する。体力を5消費する)
召喚:レベル4(3回限り、前世にあったもの(無機物)を一つ呼び寄せることが出来る。体力10・気力20消費する)
城建設:レベル1(魔王の城「小」を建設する)
<畑作メニュー(洞窟)>
洞窟キノコ:レベル5(洞窟に生えるキノコ・光る。0日で収穫出来る。10株につき体力を5消費する)
岩マメ:レベル3(洞窟に生えるマメ。0日で収穫出来る。5株につき体力を5消費する)
岩カブ:レベル3(洞窟に生えるカブ。2日で収穫出来る。3株につき体力を5消費する)
岩トマト:レベル3(洞窟に生えるトマト。2日で収穫出来る。2株につき体力を5消費する)
岩カボチャ:レベル1(岩山に生えるカボチャ。3日で収穫出来る。1株につき体力を10消費する)
植えられる作物の種類が変わっている。
岩麦は岩山でしか育たず、洞窟キノコは洞窟でしか育たないらしい。
「……ん?」
そして、見慣れない項目が増えている。
「城建設? 魔王の城?」
カルロの家ということだろうか。
確かに、ワンルームで二人と二匹はかなり手狭だ。普段は城へ移ってもらうと助かる。
「ねえ、カルロ。新しく城の建設が出来るようになったみたいなんだけど……」
近くにいるカルロに告げると、彼はキラキラした目をこちらへ向けた。
「ありがとう、モエギ! やっと、城が復活するのか」
嬉しそうな魔王を見て、私は彼に質問する。
「『復活』ってことは、もともと、ここには城があったの?」
「私が眠っていた場所があっただろう。あそこには小さな城が建っていたのだ……というかこの洞窟全体が城だった」
そう言うと、魔王はまだ少し寂しそうな表情になった。
こういう顔を見せられると、なんとかしてあげたい気持ちに駆られてしまう。
そうこうしているうちに、チリがやってきた。
このヒヨコは食事をした後で二度寝を満喫していたようだ。
「モエギ様、レベルアップの気配を察知して『城建設』の説明に参りましたよ。方法は簡単、最初は何も考えずタップするだけでございます」
「そうなの?」
言われたとおりにしてみると、ゴゴゴとダンジョンを拡張したときのような音が鳴った。
だが、特に周囲に変化はない。
「もしかして……」
思い立って魔王がずっと眠っていた場所へ向かうと、湖の手前に大きな扉がそびえている。
開けると、綺麗に改装された部屋があった。
岩の床や壁は黒い大理石風に、天井も白い石造りに変わっている。
湖は小さな泉ほどのサイズになり、泉の周囲も白い石で綺麗に縁取りされていた。水底は水晶のままだ。
石の寝台も何故かキングサイズのふわふわなベッドに巨大化し、天蓋付きの豪奢なものになっている。
さすが王様仕様……三人くらい眠れると思う。
「ものすごいリフォームね。変化は、この場所だけかしら」
私の問いには、後ろからついてきたチリが答えた。
「はい、まだ最初ですので。これから徐々に拡張していくものと思われます」
「そうなの。でも、カルロの部屋が出来て良かったわね。私の部屋の同居だと、なにかと狭いから……」
同じく後ろからついてきたカルロにそう言うと、彼は心外だと言わんばかりに眉をひそめる。
「何を言っている。モエギもこれからは、こちらで寝るのだぞ?」
「えっ……?」
「モエギのベッドは、少し傾いている上に酷く軋む」
「そ、それは……」
安物のベッドの枠を日曜大工が下手なモエギが無理矢理組み立てたらああなったのだ。
DIYは不器用な人間が手を出してはならない。
ベッドのマットレスは兄のお下がりで古く、スプリングもガタが来ている。壊れるのも時間の問題だった。
布団だってもともと安物だったものを、さらにセールで買ったという母のお下がりという具合で……
だから、カルロの言葉を否定出来ない。
「それにしても……これは、元の部屋よりも格段に質が良くなっているな。広さはまだ足りないが」
カルロは周囲を見渡して、しみじみと言った。
そして、「さすがモエギだ」と、私の頬を両手で挟み、にっこりと魔性の笑みを浮かべる。
こうして、私は魔王のベッドで眠ることになり、私の元ベッドはヒヨコとウルフに占拠された。
(まあいいか。異性とは言え、モンスターと人間は感覚が違うみたいだし)




