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11:孤独とウルフとヌシの行動(魔王視点)

 カルロはソワソワと落ち着かない気持ちで洞窟の奥までやってきた。

 泉で、モエギと一緒にウルフを洗うためだ。

 ブルーノと名付けられたウルフはカルロが昔拾ったモンスターで、とっくにダンジョンを出て行ったと思っていたが、律儀に洞窟に残りカルロの眠りを見守り続けていたらしい。


「シャンプーはかなり薄めたし、これでブルーノを洗おうね。ついでにチリも……」


 モエギからの思わぬ飛び火に、チリは全力で抗議している。


「チリは綺麗ですぅ! 臭くないですぅ! この体は仮初めのもので……」

「はいはい、洗うわよ」

「ピィィィーーッ!?」


 ヒヨコのチリは否定的だが、ブルーノは喜んで自分から湖にダイブし犬かきしていた。

 ウルフは水嫌いな者が多いのだが、彼は平気なようだ。

 陸に上がってブルブルッと水滴を飛ばすと、ウルフはモエギの傍まで近づいてきた。


「あらあら、ブルーノは良い子ねぇ」


 モエギがヨシヨシとブルーノの体を撫でながら、良い香りのする泡で洗っていく。

 チリは既に洗われた後で、地面の上でぐったりしていた。

 洗い終わったブルーノは再び泉に飛び込んで陸に上がり、ブルブルと水を飛ばした。


「帰ったら、ドライヤーで乾かしてあげるわね」


 最初はモエギを警戒していたブルーノだが、早くも彼女に心を開き始めている。

 カルロもチリを拾い上げてモエギの部屋を目指した。


(モエギ……)


 ブルーノを誘導しながらカラカラと笑う彼女から目が離せない。


 カルロは、ずっと独りになるのが怖かった。

 以前のヌシと過ごし、あれだけ絶望したにもかかわらず、他人との交流を望んでしまう。

 本当は以前のヌシとも分かり合いたかったし、一緒にいたかった。

 けれど、現実は残酷で……カルロの願いは全く叶わなかったのだ。


 数十年前――徐々にダンジョンは廃れてモンスターは一体、また一体と減っていった。

 ダンジョンの面積も狭まり、ヌシを失ったカルロは一人取り残される。

 親とはぐれた子供のウルフを拾って傍に置いたのも気まぐれではなく、孤独を恐れていたからかもしれない。


 だから、洞窟の出口のことをモエギに知らせなかった。

 彼女が前のヌシのようにカルロを否定し、ここを出て行くことが怖かったから。

 もう二度とあんな思いはしたくない。するくらいなら――モエギをダンジョンに閉じ込めてしまおうと思った。

 どこへも逃げられないように。優しく厳重に囲って。


 あの小さなチリという鳥の雛は、創世神とモエギとのやりとりを補填する役目を持っているが、このダンジョンの地形には疎いようだ。

 さらにあの鳥は、モエギの身の安全や意思よりも創世神の意向を尊重しているように思える。

 カルロがモエギを閉じ込めたところで、ダンジョンさえ機能させていれば問題なさそうだった。


 モエギ自身はヌシとして全くの初心者で、御しやすい存在だ。

 だから、これ幸いとカルロは出口がないということにしてしまったのだった。


 再び創世神にもらえたチャンス。今度こそ、きちんとダンジョンを発展させたい。

 あの日、何も持たない孤独なカルロに創世神は言ってくれたのだ。「お前こそ、魔王に相応しい人材だ」と。


 モエギに気付かれたときは焦った。

 それこそ、今までの割と良好な関係も崩れてしまうのではと恐れた。


 けれど、彼女がダンジョンを出て行くことはなかった。

 外に出るときもカルロの同行を許し、その上、部屋に戻ろうと……洞窟の中へ帰ろうと自ら言い出したのだ。

 その言葉を聞いたときの気持ちは言い表すことが出来ない。

 モエギを大切にしよう、何からも絶対に守ろう。

 今度こそ失うわけにはいかない。

 ――そう心に誓った。

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