04「依頼人の両親は」
「まったく。どこをほっつき歩いてるのかと思えば。昨日の散財で、大赤字ですよ。今月は手取りが少ないと思って、覚悟しておいてくださいね」
応接セットを準備しつつ、ラッセルはソファーに座っているオリバーに向かって文句を垂れた。するとオリバーは、機嫌を宥めるように準備を手伝いつつ、話しかける。
「そう怒るなよ、ラッセル。新米が、うっかり外で俺の身の上を話さないようにするための必要経費だったんだからさ。それに今日は、ちゃんと依頼があるんだ。メアリーとジャッキーは予防接種で午後出勤だから、頼むよ」
「ハイハイ。粗相の無いように心得ますよ」
「よろしく。オッ、来たな。――ドアは、開いてます!」
控え目なノックの音に対し、オリバーがソファーから立ち上がりながら威勢よく応えると、ドアの向こうから金髪で瑠璃色の瞳を持つ折り目正しい狐耳の青年が現れ、淀みの無い澄んだ声で挨拶する。
「おはようございます。オリバー所長というのは、あなたでしょうか?」
「そうだ。まぁ、立ち話もなんだから、座りなさい」
「はい。失礼します」
ローテーブルを挟み、オリバーと青年が向かい合って座ると、ラッセルはアルミ製の丸盆にグラスに入った水を載せて運び、二人の前にコンと置いて自席に戻る。
オリバーは、グラスを手にしてひと口飲み、青年に無害であることをアピールしたあと、手帳とペンを手にして話を切り出す。
「ピーターくん、だね?」
「はい。ピーターです」
「ずいぶん若く見えるけど、歳はいくつなんだい?」
「十二歳です。この秋から、パブリックスクールに進学します」
ピーターがそう言うと、オリバーは手帳に少しばかりペンを走らせながら続ける。
「なるほど。依頼内容は失踪者探しということだけど、誰を探してるんだい?」
「マ……、母親です。小さいときに離婚して、それっきり連絡が付かなくなってしまって。父親にも訊いたんですけど、どこで何をしてるか、まったく知らないと言われました。それでも、どうしても入寮する前に、ひと目会いたくて。周囲からは、マザコンだと馬鹿にされてるんですけどね」
「そうか。それは、さぞかしツライだろうね」
オリバーがピーターに共感していると、ピーターの真後ろにある自席に着いているラッセルがわざとらしくゴホゴホと咳払いをし、オリバーに帳簿を掲げて見せる。
「あのさ、ピーターくん。大変言いにくいことなんだが、その、我々も慈善事業者ではないんだ。だから、学生の君に依頼料を払えるかどうかという懸念があってね」
「お金のことなら、心配いりません。父親から、それで気が済むなら好きなだけ使えと言われて、クレジットカードを渡されてますから」
「そう。そう言われると、断る理由は無さそうだが、一応、親父さんの仕事を教えてもらえるかな?」
「はい。シティーバンクの頭取です」
アッサリと言うピーターに対し、オリバーは手帳にメモをする手を止め、一瞬、ピーターの死角で目を丸くして驚いているラッセルを見たあと、平生を取り繕って話を続ける。
「ピーターくん。君、もしかしてフルネームは」
「ピーター・スカーロイです。父の名前は、フィリップ・スカーロイです。――これが、その証拠です」
そう言って、ピーターはブレザーの内ポケットから生徒手帳を取り出すと、そこに挟んである名刺と一緒に、オリバーに見やすいように向きを揃え、二つ並べてローテーブルに置いた。
「ご丁寧に、どうも。拝見します」
オリバーが手帳とペンを脇に置き、いささか恐縮気味にそれらを手に取り、紛れもない本物であることを検めると、ラッセルを呼び寄せ、黒い獣耳にそっと耳打ちする。
「いくらにする?」
言われたラッセルは、二の句が継げないまま困惑の表情を浮かべた。そのあいだ、ピーターはグラスを手に取り、優雅に喉を潤していた。




