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01「拾われたのは」

「こっちのほうだと思ったんだけどな」


 耳をピコピコと前後に動かしながらジャッキーが立ち止まって首を傾げると、あとをついて歩いているオリバーも立ち止まり、疲れを滲ませた声で言う。

 

「君が方向音痴なのを、すっかり忘れてたよ。期待しないで訊くが、事務所があるのは、どの方角だか分かるかい?」

「それくらいは、分かりますよ。あっちです!」


 ジャッキーが自信満々に右方向にある通りを指差すと、オリバーは、その手首を持ち、ジャッキーの身体を中心点にして百二十度ほど腕を回し、別方向にある通りを指差させて言う。


「シティー七区は、こっちだ」

「それじゃあ、環状線は、あっちですね?」

 

 ジャッキーが手首を握られたまま左斜め後ろにある建物を指差すと、オリバーは、その手を九十度ひねって別の建物を指差させながら、呆れた調子で言う。


「国鉄の路線は、こっちだ。迷子札を用意したほうが良いかもしれないな」

「その心配は、いらないですよ。住所と最寄り駅は、覚えましたから。四十三番地十八号メトロビル五階で、セントラル二十九丁目駅から徒歩三分ですよね?」

「その通りだが、それで、どうしていつも遅刻するんだ?」

「それは、道行くおばあさんの荷物を持ってあげたり、公園で一人で遊んでる子供の相手になってあげたりしてるからで。――ワッ!」


 詰問口調のオリバーに対し、ジャッキーが明後日の方向に目を泳がせながら答えていると、さきほどジャッキーが指差した通りから色褪せたシャツを着た少年が全速力で駆けてきて、ジャッキーと衝突する。ジャッキーは、それに気づいて振り返ると、尻餅をついている少年に手を伸ばし、腕を引いて立たせる。


「大丈夫? ほら、引くから立って」

「イテテテ……」

「ちゃんと前を見ろよ、タヌキ少年」

「ヒッ。ごめんなさい」

 

 立ち上がった少年はオリバーの存在に気付くと、彼の鋭い視線を避けるようにジャッキーの背後に回り、彼女を盾にして距離を置いた。ジャッキーは、自分の背後に立つ少年に優しく声を掛ける。


「別に、所長は怒ってるわけじゃないのよ。心配してるだけ。――あっ、そうだ。このあたりで、三毛猫が捨てられてたと思うんだけど、覚えてないかな?」

「三毛猫?」

「そう。白地に茶と黒の斑があるメス猫だ。この前の雨の日に、ひろってくださいと書かれた段ボールに入れられてたらしいんだが、知らないか?」


 オリバーが努めて明るく尋ねると、タヌキ耳の少年はポンと手を打ち、何かを思い出したように興奮気味に話しはじめる。


「あぁ! それなら、向こうの孤児院の前に居たよ。拾ってあげようとしたんだけど、うちには動物を飼う余裕が無いから元の場所に戻してきなさいって言われちゃって。その猫が、どうしたの?」

「この新米くんが拾って、今、事務所で飼ってるんだが、どこで拾ったのかと思ってね。孤児院というのは、聖トリニティー教会のものかい?」

「そうそう。たしか門のところに、そんな文字が書いてあった」

「ありがとう。それだけ分かれば、充分だよ。――行こう、ジャッキー」

「えっ? あぁ、はい。――それじゃあ、またね。気を付けて歩きなよ」

「ハーイ」


 少年は元気よく答えると、オリバーが指差した通りに向かって駆けて行き、オリバーは、少年が走ってきた通りに向かって早足で歩き始め、ジャッキーは、どこか腑に落ちない顔で耳の上にクエスチョンマークを量産しながらも、オリバーのあとに続いた。

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