18「一匹狼としての強み」
「よぅ、兄弟。元気か?」
「オリバー! また会えて嬉しいよ。真犯人は見付かったかい?」
スプリングが軋む耳障りな音を立てながら、粗末な簡易ベッドに横になっていたジャッカル耳の青年がオリバーに飛びつくと、オリバーは、そのタックルを両手を広げて受け止めると、青年の後頭部をワシワシと乱暴に撫でながら、小気味良く話しはじめる。
「その話なんだが、良いニュース悪いニュースがあるんだ」
「セオリーなら、悪いニュースから聞くところだけど、選べないんでしょう?」
「あぁ。まず、良いニュースのほうだが、もう間もなく、真犯人は逮捕できそうだ」
「良かった。それで、悪いニュースは?」
「その真犯人が、俺たちの恩人だってことだ」
「えっ! それって、まさか、――ンブッ!」
オリバーは、真犯人の名を口にしようとした青年の口を片手で塞ぐと、首を縦に振ってから答える。
「おおかたの予想通りだが、俺もショックだよ。二十年以上前に世間を恐怖の渦に巻き込んだ殺人鬼、アルフ・ブラッドリー・コリンズの正体が、そんな身近に潜伏してたなんてな」
「オリバー。事件の話は、それくらいにしてちょうだい」
オリバーが振り返ると、胸元に六芒星を光らせた女がつかつかと歩み寄り、オリバーの腕を引いて部屋を出たあと、後ろ手にドアを閉めてから素早く施錠しつつ、射貫くような鋭い目つきでオリバーに刺々しく言う。
「あなたは、私に何枚の始末書を書かせたら気が済むわけ?」
「捜査に協力してやってるのに、ずいぶんな言いかただな」
「便益を上回る負担が発生する行為を、世間一般では協力と言わないの。覚えておきなさい」
「はいはい。それより、逮捕令状は準備できてるのか?」
「申請は済ませたわ。でも、諸々の罪状の裏を取らなきゃいけないから、すぐには踏み込めないわ」
「そんなもの、ひっ捕えてからで良いじゃないか。嗅ぎつけて逃げられるぞ?」
「あのね、オリバー。私たちは、あなたと違って公の組織で動いてるの。もし、これが誤認逮捕だったら、保安署全体がマスコミから叩かれるんだからね」
「ケッ。市民の安全より、御身が大事なのかよ。こうなったら、この件は俺ひとりでケリをつけてやる」
「ちょっと、何をしでかす気よ? 待ちなさい!」
愛想を尽かして廊下を駆けだしたオリバーを、女は急いで追いかけて行こうとしたが、途中で同じバッジを付けた男に呼び止められ、追跡は断念せざるを得なくなってしまった。




