14「おてんば娘のアイデア」
オリバーがメトロビルの前の通りに戻ると、獣耳山の人だかりが出来ていた。そしてビルはメラメラパチパチと紅蓮の炎に包まれている。地上から消防隊が放水しているが、なかなか五階の火は消えそうにない。開け放たれた窓からは、モクモクと上がる黒煙が立ちのぼっている。
つい小一時間ほど前とはうって変わった変貌ぶりに愕然とし、オリバーは、ただ薄ぼんやりと生気の無い眼で燃え盛るビルを眺めていた。
このとき、野次馬のあいだを潜り抜け、白髪で燃え盛る炎と同じ色の瞳をしたオオカミ耳の大柄の人物がオリバーの横を通り過ぎたのだが、オリバーをはじめ、誰一人としてその人物に気付くことは無かった。
「オリバー。絶望して燃え尽きるのは、まだ早いわよ?」
聞き慣れた声に気付き、オリバーが背後を振り返ると、そこにはメアリー、ジャッキー、それから、フェレスを赤子のように大事に抱えているラッセルの姿があった。
「所長。この通り、みんな生きてますから。元気を出してください」
「フェレスも含め、事務所の所員は全員、避難完了しています」
「ナーゴ」
「古いビルで、エレベーターはありませんけど、火災報知器は正常に作動しましてね」
「いきなり大音量でベルが鳴り響いたものだから、驚いたフェレスが抱きついてきて大変だったんだ。ねっ、ラスティ―?」
「だから、ラスティ―と呼ぶなと。――エホン。命あっての物種ですからね。死傷者を出さなかっただけ、儲けものだと思いましょう」
「ナーゴ!」
三人と一匹が、それぞれにオリバーに向かって報告と励ましを含めた感想を述べると、オリバーは調子を取り戻し、片手の握り拳を上げて勇ましく宣言する。
「よーし。こうなったら、俺たちの手で真犯人を突き出してやろうじゃないか!」
「オー!」
ジャッキーが協調して同じように握り拳を高々と掲げると、それに水を差すようにラッセルが現状の問題点を提示する。
「しかし、事務所が燃えてしまっては、活動拠点がありませんよ?」
「そうね。どこか、仮の事務所が必要ね」
「それじゃあ、手始めにテナントを探すか。不動産屋に行くぞ!」
「イエッサー!」
オリバーとジャッキーが陽気に走り出そうとしたのを、ラッセルとメアリーが引き留める。
「ちょっと待ってくださいよ、二人とも。そう簡単に手頃な空き物件が見付かるなら、入居三ヶ月前から下見をはじめるという暗黙のルールが、シティーのデファクトスタンダードになりませんから。言っておきますけど、いま以上にテナント料の高い事務所は、空いてても借りられませんからね?」
「そうよ。もっと現状に即して、別のアプローチを考えないといけないわ」
「おいおい、やる気を削がないでくれよ。だったら、どうすれば良いって言うんだ?」
不満げに口を尖らせつつ、オリバーが難色を示してばかりのラッセルとメアリーに突っかかると、頭の上に裸電球が灯りそうな勢いで、ジャッキーが一つの提案をする。
「お金をかけずに事務所を開く方法なら、私に、とってもいい考えがある! 今すぐコインパーキングから車を出してください、所長。あと、メモも」
「車を出すのは構わないが、どんな方法なんだ?」
オリバーがパーカーのポケットからメモとペンを渡すと、ジャッキーはそれを手に取り、スラスラと一つの住所と最寄り駅を書きはじめた。




