第六話 苦難
天夢君がまだあんまり卓球でいいとこ見せてないので、早くそういうシーンを書きたいんですがなかなかそうもいかないです…ごめんなさい
桜東は順調に勝ち進み、準々決勝を迎えた。実力は桜東のほうが上。しかし相手はパワフルな卓球が持ち味で、当たり始めると怖い存在であった。
団体戦は二台進行。天慈はエースとして一番で起用された。相手も一番にエース格をぶつけてきた。まさにガチンコ対決である。パワーで押してくる相手と、回転と緩急で攻める天慈。柔と剛の激しくぶつかり合う試合は非常に見応えのあるものになった。相手を上手くいなし、要所で厳しい攻めを続けた天慈が、まずは2セットを連取した。
迎えた第3セット。相手は吹っ切れたのか、広角のドライブが決まるようになり、リーチのない天慈は左右に振られる展開となった。しかしそれでも的確にボールを返し続けて粘り、決して相手の有利にさせなかった。
6-5で天慈リードの場面。相手天慈のサーブをいきなりチキータでバッククロスに打った。天慈はギリギリで手を伸ばしてそのボールを返す。それを相手はガラ空きのフォアクロスへ打ち込む。そこまで読めていた天慈は瞬時にフォアへ動き、足を伸ばして、ボールに触った
はずだった。
ラケットにボールが当たるカン、という小気味良い音の代わりに聞こえてきたのは、「バギイッ!!」という鈍い音と、
「がああああァァ!!」という天慈の悲痛な叫び声だった。
ちょうど天慈の右隣でやっていたのは相手チームの左利きの選手。何たる不幸か、その選手の渾身のフォアドライブが、フォアに飛びついた天慈の右肘辺りに当たってしまったのだった。監督と、仲間たちがすぐに駆け寄る。しかし天慈は立ち上がることができない。程なくして救急車で天慈は運ばれていった。
結果は、右肘の骨折と、筋肉断裂。もう、復活は不可能だった。
天慈が運ばれた後、すぐに試合は再開した。天慈は3試合目のダブルスにも出ることになっていたが当然そこは棄権。チームで踏ん張り、なんとか5試合目まで持ち込んで勝利した。
しかし続く準決勝は、天慈がいない穴は大きく、ストレートで破れた。
県大会には抜けていたものの、一勝も上げられないまま終わってしまった。復活の桜東、と呼ばれた天慈の代は、そんな形であっけなく終わってしまった。
病院に見舞いに行った天夢は、兄にこんな言葉をかけられたのを鮮明に覚えている。
「なあ天夢。兄ちゃんは悔しいよ。だって、だって、勝てたかもしれないんだ、県でも、表彰台を狙えるところまで行けたかもしれないんだ。それなのに…それなのにっ…戦うことすら、挑戦することすら出来ないなんて…。変えたかったのに…。桜東の歴史を。変えられたかもしれないのに…」
この言葉を聞いて、天夢は決意した。自分が兄の無念を晴らそうと。兄が変えようとした桜東の歴史を、自分が動かしてやろうと。自分に卓球を教えてくれた、大好きな兄のために。
しん、と卓球場が静まりかえる。皆、天夢の話に聞き入っていた。涙ぐんでいるものもいた。皆、天夢の言葉に胸を打たれていた。天夢の目の前に仁王立ちしている、この男を除いては。
「随分と感動的な話をありがとう。君が並々ならぬ思いと覚悟を持っていることはよく分かった。ただね、それに協力する義務は我々には無いんだ。言った通り、勉強をしなきゃいけないからな。まあ、とりあえずその話は一旦持ち帰らさせて頂こうか。また何かあればいつでも来るといい」
そう言う宇野の表情は優しいままであったが、その語気は明らかに変わっていた。この男を納得させられなければ、何も成し遂げられない。そのことはすぐにわかった。そして、それは今日は無理だ、ということもよく分かった。悔しい気持ちを押し殺して天夢は、ではまた今度宜しくお願いします、といって、その場を離れた。
ふと振り返って視界の端に映った宇野の背中は、なぜかひどく寂しげであった。
「さて、どうしたものか…」
その答えは、到底見つかりそうになかった。
次の日も、次の日も、天夢は同じように卓球場に行き続けた。やや周りからの目が憐れむような目に変わったのが気になったが、そんなことよりも、どうやってこの状況を打開するかが最大の問題だった。
「恐らく話を聞いていた他の連中は、それなりに俺の話には納得してくれてる。ただ、あの部長さんを納得するのに協力しようと思ってるやつは誰もいねぇだろうな。どうする…同じように一人で説得しに行ったところで結果は見えてる。あの部長が引退するまで待つか?いやそんなんじゃ時間がもったいなさすぎる…」
一縷の希望にかけて、泰や晴馬に頼んでみたり、先輩に頼んでみたりしているのだが、芳しい返答は返ってこなかった。
その日はどうしても卓球をする気にならず、授業が終わり、掃除をして、そのまま帰途につこうとした。いつもと歩く方向は逆。なんともいえない悲しい気持ちであった。
「ハァ…ハァ…ハァ…あ、あの…ハァ…天夢君、大和天夢君ですよね?ゲホッ…」
「えっ?、ああ、そうだけど…大丈夫かお前」
「いやあお気になさらず…教室から全力でダッシュしてきた程度でこのザマです…ハァハァ…ウッ!…」
「ちょっとまず落ち着け!」
五分ほど休憩すると、その女はようやく呼吸が整ってきた。
「申しわけありません、お見苦しいところをお見せいたしました!」
「いきなりそのテンションで来るのか?まあそんなことはどうでもいいんだ。そんなぜーハーなるまで走って俺を追いかけて、何か用でもあんのか?」
「大有りですよ!何のためにこんな限界突破するまで走ったと思ったと思ってるんですか!
簡潔にいいます!私、あなたに惚れてしまいました!」
「えっ?あっ、ん?…
ええええええ!?」
桜が、ついに満開宣言された日だった。
ああ…こんなふうに走って追いかけて
「ハァ…あの…待って…!」
みたいなのやりたかったなああ