その3
HRがいつ終わったのか、どうやって帰ってきたのかも記憶にない。
気付けば私は家にいた。
隣には片目のとれたオスカーがいた。
私はオスカーを抱き締めると、子供のように泣いた。あまりの打たれ弱さに自分でも馬鹿みたいだと思った。
けれど、友人もいない私が文化祭の実行委員を務め上げられるとは到底思えなかった。
涙と一緒に悔しさを流すことで、少しは冷静になれた。
その頭で、登校拒否を決めたのだから、自分の選択に少しも後悔はなかった。
そう思っていたのに、一年後、学校をサボって駅前のカフェでのんきにショコラテを飲みながら、読書を楽しんでいたある日、渡辺先生がふらりと店に入ってきた姿を見て、罪悪感という名の杭で心臓を打たれたような痛みを覚えた。
雷に打たれたような衝撃とはこういうことかと変に納得した。
私はどうやら二年生に進級できたらしいがあれから一度も学校には行っていないので、詳しいことは知らない。だが今日が平日で学校があるということは知っているし、何なら自分がこんなところでお茶してはいけない身分であることも知っている。
とにかく、一年の間に祝日が増えたとかでなければ、今日は授業日である。
それなのに、渡辺先生は見慣れぬスーツ姿でカウンターに並んでいる。見間違いかと思ったが、見れば見るほど間違えようがないくらいにそっくりだった。
どうして、こんなところに先生がいるのか意味が分からなかった。
渡辺先生は注文を終えると、テイクアウト用の紙コップを持って振り返った。
目を逸らしたが、逸らす間際に渡辺先生が驚いた顔を浮かべたのが見えた。そのまま出て行って下さいと祈ったが、足音は確実に近づいてきていた。