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旧バージョン 私の幼馴染が女装でハリウッドスターになった理由

作者: あやぺん

幼馴染の佐藤修平こと、修ちゃんがついにハリウッドデビューするらしい。


端役ではない、毎日宣伝される映画内容、街中に貼られたポスター、映画のCM、その中心。


ど真ん中。


「バドン監督の最新作観たい!」


「なんて映画?」


「フランケンシュタインの花嫁。」


絵里ちゃんが見せたスマホの画面。


ネジや釘の刺さった茶髪の美女。肌は土色に鉛色に灰色の特殊メイク。唇は血のように赤く塗られている。それから蜘蛛の巣のような白いレースのついた黒いドレス。


愛くるしくも少し凛々しい化物女。


メイクを差し引くと、まぎれもなく修ちゃんの顔だった。


主演女優Xの表記


私はあんぐり口を開けて固まった。


「オーディションで大抜擢の謎の美少女だって。」


幼い頃からSF映画やファンタジー映画が大好きで、出演したいと努力し、目指すはハリウッドだとついには高卒でアメリカへと旅立った修ちゃん。


有名海賊映画のちょい役を掴めるかもとメールが来たのは留学したばかりの頃。


それがどうしてこうなった?


「美緒、どうしたの?」

「えっと……私今日早く帰らないとだったから!この映画観に行こうね!」


私は急いで駅へ向かった。



***



第2の実家佐藤家


多忙な両親に代わり、赤ん坊の頃から自宅のように過ごしてきたお家。


「おばちゃん、修ちゃんが!デビューだよ!知ってた⁈」


鼻歌交じりに台所に立つ仁菜おばちゃんがきらりと目を輝かせた。


「美緒ちゃんどこで知った?早く聞きに来ないか待ってたのよ!修からのサプライズよ!」


「ネットで見たの。謎の美女って……。」


「例の海賊のオーディションで目をかけられて名前のある役を掴めるかもって言ってたのよ。」


「うん知ってる。」


「オーディション内容がバドン監督の耳に入って気に入られたらしいのよ。」


「それで何で女装?」


「さあ?私に似て可愛いからかしら。」


歳を重ねても美少女の面影が消えない仁菜おばちゃんがウインクした。この遺伝子を受け継いだ修ちゃんの女装姿が、美しいのは当然だった。


むしろ何度も見てきた。


嫌がっていても与えられれば演じる修ちゃんは、たびたびヒロイン役をしてきていた。


でもいつも嫌々で、おまけに女と間違われるのが大嫌いな修ちゃんが望んで女装でハリウッドデビューするとは思えなかった。


告白されて激怒し、ストーカーされて激怒し、女装すれば完璧に男を口説き落とすのに後で相手に見抜けと激怒する。


チャンスを不意にしてでも断りそうなのに。


だって修ちゃんは野心と努力と、そして強運で新たなチャンスをきちんと掴める。


そういう星の下に生まれてきたのだから。


「いつかはと思っていたけど、もうデビューなんて凄いわよね。映画の宣伝で監督や出演者が来日するから、当然帰国。盛大にお祝いしなくちゃ!」


満面の笑みを浮かべる仁菜おばちゃんが私を抱きしめた。嬉しいよりも不可解が先行してうまく喜べない。



***



修ちゃんは常々映画俳優、それもハリウッドスターになると言ってはばからなかった。

一度は劇団に所属するも、ヒロイン役や娘役ばかりに腹を立てて1年で辞めてしまったけれど。


私も両親も、佐藤家の家族もみんなそれが実現すると信じていた。


それはもう夢に猪突猛進だった。


近隣ご近所なら知ってる修ちゃん伝説



その1

祖母はフランス人、母親はハーフの美女、その遺伝子を一番濃く引き継いだのが修ちゃんはアイドル以上に可愛い。近所の男の子はだいたい修ちゃんが初恋相手。


その2

容姿で目立つのが嫌だとお遊戯会も学芸会でも悪役希望。1人だけ本格的な芝居で1番目を引いてストーリーが崩壊。


その3

劇団に入るとすぐに見た目の愛くるしさから芸能界へスカウトされた。(でもなぜか断った)


その4

テーマを決めてその役になりきる。中学生になった途端に始まった修ちゃんの演技練習。期間はまちまち。どうしてそんな事を始めたのかは誰も知らない。



特に面倒だったテーマを一部抜粋

例 不良

仁菜おばちゃんは学校からの呼び出しと、修ちゃんへの説教で疲弊した。ご近所さんも愛くるしい修ちゃんに悪態つかれて涙ちょちょぎれた。


例 遊び人

服とメイクと髪型を変えて、近隣高校の男子を口説いてまわる。推定数十人もの被害者が突如消えた彼女に傷を負わされた。


例 博愛

ホームレスを家に連れてきて世話をし、佐藤家から現金と貴金属を盗まれた。(生活を立て直して謝罪と返済に来たけれど)

他人に善行を伝えていくという映画と同じ事をしたかったらしい。


例 狂人

中学3年生で異例の生徒会立候補。卒業まで独裁政治を執行した。



その5

語学だけは熱心。映画を教材に独学。英語はペラペラ。訛りだとかも身につけている。それから祖母直伝のフランス語に中国語。今はイタリア語に挑戦中らしい。


※修ちゃんの勉強は授業中も含めてほぼ語学に割いているので、英語以外の勉強は軒並み赤点。

高校受験の時だけは本気を出して私と同じ進学校へ入学した。集中力と吸収力が異常に高い。


その6

日本人ハリウッド俳優と仲良くなって留学支援してもらった。病気で療養していた彼に押しかけて弟子になっていたのを家族が知ったのは留学の話が出た時だった。

あり得ないけど本当の話。


日本で俳優経験のない修ちゃんが例の海賊映画出演のオーディションを受けれることになったのはこのおかげ。



留学という名の世話係。

世話係という名の支援。



***



お祝いの言葉に友達と2人で映画を観に行くとメールをした。どうして女装なの?も入れておいた。


返信の代わりに、エアメールでプレミアム試写会の招待状が2枚届いた。メッセージカードに書かれたどちらかというと下手くそな文字。


【特等席だから絶対来い。】


それだけだった。


修ちゃんがアメリカに旅立つ少し前にした、私との約束をすっかり忘れているらしい。


「もう命令しない。」


物心ついた時から修ちゃんは親分で、私は子分だった。あれをやれ、これをしろ、何は駄目、知らない人についていくな、寄り道するな、などと何でもかんでも兄貴風。見た目的には姉貴風。


背丈もあまり変わらない。


確かに実の兄妹のように育ったし、実際ほとんどその関係なのだが留学前に大喧嘩した。


「アメリカに行くならせいせいする!」


命令だけではない、修ちゃんといるといろんなやっかみに合って大変だった。


急に居なくなる寂しさと、やっと解放される喜びでぐちゃまぜな私の放った一言。


その叫びに寂しがり屋の修ちゃんが、捨てられた子犬のような目になった。


それで仲直りとして約束したのだ。


「 約束を守らないなら絶対行かない」 そうメールを送信した。


物凄い速さで「来てくださいお願いします」と返信が届いた。


私はこれはついに立場逆転だとほくそ笑んだ。




***




死者蘇生を夢見る科学者と元捨て猫。


恩人の孤独をうめる為に奮闘していてた猫は、ある日保存されていた遺体と共に雷に打たれた。


話せることに、二足歩行の姿に猫は喜んだ。


しかし中途半端に蘇ったフランケンシュタインの恋人を受け入れられない科学者。


生前とは性格がまるで違う。


無邪気で活発なフランケンシュタインの恋人に振り回される。


「もう1度恋に落ちた。」


科学者はフランケンシュタインを花嫁に望む。


修ちゃんはまさに完璧すぎる程、フランケンシュタインだった。おぼつかない会話に仕草も目つきも人外。なのに愛嬌たっぷりで不気味な見た目が、だんだん可愛く思えていく。


科学者だけでなく研究員が魅了されていくのも納得だった。


死が2人を隔ててしまい行われなかった結婚式が実行に移された。


どうみても化物なのに純白のウェディングドレスに包まれたフランケンシュタインは、修ちゃんは美しく可憐だった。


科学者がヴェールをあげる。


2人がそっと唇を寄せ合った。


異形に変わっても愛しあえた2人。


祝福の嵐。






ラブストーリーの締めくくりに相応しい、儚くも綺麗な光景が、雑音とともに歪んだ。


チャペルに悲鳴が轟いた。


噛みつくように口づけをしたフランケンシュタインが科学者の頭をそのまま喰らい尽くす。


鮮血で染められたドレス姿のフランケンシュタインの前に、彼女そっくりな男が現れた。


鮮やかな血に染まった花婿の衣装を纏った男が嬉しそうに微笑えむ。


すらりと背が高く、どうみても女には見えない逞しい体。可憐さも愛らしさも綺麗さも無い凛々しい男。


私の知っている修ちゃんではない。


「ずっと慕っていたよ。やっと手に入った。僕の花嫁。」


ぼんやりとして虚ろな目をした花嫁は男に手を引かれて去っていく。


生前、科学者の恋人が子猫を拾い抱きしめるシーンで映画が終わった。


絵里ちゃんが結婚式のシーンで号泣していたのに、今は凍りついた顔つきでエンドロールを見つめている。


私は別の意味で青ざめた。



***



クレジットはshu


試写会後に登場し、インタビューに応じたのは男の姿の修ちゃんだった。タキシード姿がキマっている、どこからどうみてもイケメン。隣の主演俳優にも全く見劣りしない。


「昔からよく女の子に間違われていました。バドン監督作品の主役と女装を天秤にかけたらまあしますよね、女装。」


時折私に向ける視線が表情が、悪戯っぽく笑っている。


「それに僕の心は女なんです。でもどんな役も、もちろん男の役にも挑戦したいです。見た目は立派な男ですから。」


なんて白々しい嘘をついているのだろう。


「最後の台詞は監督に頼んで付け足してもらったんです。ずっと慕ってた、あれが最後のシーンに上手くリンクしたと褒めてもらいました。」


たった一言の時だけ修ちゃんは私から目を離さなかった。


それからまたニヤリと微笑む。


一生に一度の華々しいデビュー。


それは自惚れていいなら、私に対する罠であり挑戦状で、贈り物だった。


意識しろと言わんばかりの変貌。


盛大すぎる告白。


やっかみを払いのける戦略。



それが……私の幼馴染が女装でハリウッドデビューした理由













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