ハントとトラブル
一部修正
雑魚敵相手に奮闘しての数日後、例の鍛冶屋から連絡が入り、行ってみたんだけどさ。
何か知らないけど、どうにも変てこりんな防具もどきが出来上がっていた。
兜もどき やかん(注ぎ口欠損不良品)
鎧もどき 寸胴鍋(穴開き不良品)
盾もどき フライパン(持ち手曲折不良品)
持ち手を外して注ぎ口の手前からスッパリ落としたやかんとか、底に1つ横に2つ穴の空いた寸胴鍋とか、持ち手がUの字に曲がったフライパンとかである。
やかんの中にタオルを入れて被ってみると、それっぽい感じだけど声が妙に響くなこれ。
叩かれたら音が中で反響して大変な事になりそうだ。
てかこれ、弱くないか?
オレは別に鎧だけの注文のつもりだったのに、何を思ったのか一式拵えていた。
こんなの全部着けたら、チンチンドンドンって昔の街頭宣伝要員みたいじゃないかよ。
鍋だけならまだ、フードコートか何かで誤魔化せると思っての事なのに、フルセットとか勘弁してくれよな。
倉庫の死蔵品になりそうだけど、折角の品なので全て引き取る事になった。
「それで、いくらになる? 」
「ああ? 良いって。その職じゃまともに金も稼げないんだろ。カンパしてやるよ」
上から目線なのが気になるけど、この職は稼げないと思い込んでいるみたいだし、仕方が無いから酒を1本渡しておこう。
(誰かから貰った酒かよ。しっかしあんな職、よくやっているよな……おりょ、妙に旨いな、この酒。てかこれ、こんなの出回ってんのか? 聞いた事無いぞ、こんな酒)
試作品のフルーツブランデーだ、味わって飲んでくれよ。
~☆~★~☆
さすがに鎧もどき以外を着ける勇気はないんだけど、フードコートがあるからやかん兜と寸胴鍋鎧をを着けた怪しい存在になって狩りをする。
ハサミの片割れを投げて誘導し、寄って来た魔物にこれまたハサミの片割れを振りかざす。
なんかさ、攻撃って言うよりダダこねている感じだよな。
両手で片割れを持って魔物を叩くイメージをしてみて欲しい。
まるで肩叩きのように魔物を交互に叩くんだけど、ハサミの片割れを持っているから傷だらけになる敵。
もうね、狩りって感じじゃないよ、これ。
傍目には殴り合いの喧嘩をしているようにしか見えないんだけど、雑魚敵とエルフがそんな事していると凄くシュールだよな。
だから人の居ない場所でやりたいんだけど、雑魚敵は人里近くにしか居ない。
フードを深く被ってやかんを隠し、コートも前を閉じて寸胴鍋を隠す。
だけどそんな風体で魔物と殴り合いをしている変質者とか言われたら、そのまま逃げたくなるぐらいだ。
それでも少しずつでもレベルは上がるようで、それに従ってMPも増えていく。
散々狩って疲れたので一度帰ろうと思っていた矢先、背中に何かが当たる音がする。
寸胴鍋よ、ありがとう。
まさか相手もさ、フードコートの中に鍋があるとは思わなかったみたいでさ。
それと言うのも普通はフードコートの中に鎧なんて着ないから、フードコートを見て投擲で簡単に倒せると思ったんだな。
相手は赤いネームの人なんだけど、初撃で倒せないのにのこのこ出て来るなんて自信満々なんだろうね。
「くそっ、浮浪人の癖に防具とかチートかよ、この野郎」
いやこれはただの寸胴鍋だ。
「引くつもりは無いみたいだね」
「当たり前だろ。防具は何かのカラクリだろうが、武器も持てない職が街から出るんじゃねぇよ」
ハサミの片割れをヒョイと投げると意表だったのか、顔面直撃って間抜けだろ。
さあ、逃げろや逃げろだ。
森の民舐めんな。
森の中なら隠れるのも有利だし、このままやり過ごしてやろう。
でも、念の為に高濃度のエチルアルコールの瓶を用意して怪我対策もしておこう。
「くそ、何処に行きやがった。武器も使うチート野郎が」
あれは単なる雑貨だけどな。
「このオレから逃げられると思うな」
そこまで言うなら仕方が無いね。
頭上から瓶の中身を落としてやり、火の魔法で攻撃しました。
いやぁ、派手に燃えるよな、エチルアルコール+火魔法ってのは。
そこら中転げまわった挙句、光の柱になって消えました。
あれ、もしかして倒した?
そしてレベルが上がった?
更に何かのアイテム取れた?
持てそうにない武器がいくつかと、金がたんまりだ。
後は見知らぬアイテムをいくつかと、毒や薬の瓶がそれなりだ。
それは良いんだけど、うっかりキルしちまったんだよな。
これで粘着とかされたら厄介な事になりそうだけど、これからどうしようかなぁ。
本当は街から出る予定じゃなかったのに、どうにも野宿しか道が無さそうで。
でも意外と言うか何と言うか。
《背景》ってさ、じっとしていたらPKにも探知されないのな。
探索魔法でも使っているだろうに、頭上の枝に居たオレをさ、探知出来なかったみたいなんだ。
今も使っているんだけど、目の前をヘビの魔物が横切っていくんだ。
ほら、背景だからさ、ヘビも背景には何もしないよね。
しかし困ったな。
夕方になったからとっとと帰るつもりだったのに、あんな余計な事に巻き込まれた挙句、木の上で夜更かしする羽目になるなんて。
この森は夜になると魔物が活発になるから注意しろと言われていて、本当なら入るつもりじゃなかったってのに。
このまま朝まで待機するのは良いんだけど、匂いが出るからうっかり酒も飲めないんだけど、どうすっかな。
「出て来い、この野郎っっ……うわぁぁぁ、くそっ、離れろっ、こいつ、くそっ、痛い痛い、ぐぁぁぁ、あああ……」
あいつ、頭、弱かったんだな。
この森で夜にあんなでかい声とか、襲ってくれと言っているのも同じだ。
しかもまだデスペナ中だろうに、ご苦労な事だ。
夜になったら狂猿が出るって散々言われているのに、知らなかったのか?
獲物に対して見境が無く、見つけたら総勢で奪い合いするらしい。
その狂ったような狩りの仕方から、付いた名前だと言っていた。
まあ、武器無し防具無しの浮浪人を狙うような奴ならではの事か。
いかんな、下にその狂猿がたむろしているんだけど、とっととどっかに行ってくれないかな。
頑張れ背景……試しにエチルアルコールの瓶を落としてみる。
音にびっくりして全員がビクンとなるも、見慣れぬ物体を見つけて拾って開ける。
アルコールの匂いに誘われて、どうやら瓶がターゲット認定されたようで、途端に奪い合いが発生する。
『焚き火』
中身が散らばり、そこいらの狂猿に振りかかっていた状態での火魔法で、あらかたの狂猿が火だるまになる。
パニックになった彼らは暴れ回り、仲間をも道連れにしていく。
深夜の森の中での火祭りのように、狂猿達の死の舞踏は全てが光の柱になるまで続けられた。
追加でエチルアルコールをぶっ掛けてやったのが良かったのか、全部倒せたとかラッキーも甚だしいな。
気付けばレベルはもうすぐ20とか、やけに増えているんだけど良いのかな。
でもこれならセーフティゾーンへの道は余裕かも知れない。
後は無事に村まで帰れると良いんだけど。
水魔法でそこらのくすぶりを消した後、魔力が回復するまで木の上でのんびりする。
おっとまたヘビか、背景背景。