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悠々自適

一部修正しました。

  

 酒の独占状態が半年過ぎた頃、遂に運営のテコ入れが成される事になった。

 浮浪人最大のピンチである。


 どんなテコ入れかと言うと、レアスキルの公表だ。

 つまり、所持者の少ないスキルの公表であり、その中にはちゃんと載っていたんだ。


 《酒造》 1人


 あーあ、やってくれたな、本当に。

 いかに誰も見つけられないからと言って、そういうのはずるいよな。

 でもさ、このスキルって上級スキルな訳で、融合させたから《酒造り》は消えた状態なんだよな。

 それでも酒のスキルがあると分かった以上、果実酒造りへの意欲の果てに、きっと誰かが覚えてしまうだろう。

 それが《酒造り》だったとしても、やっていればそのうち《酒造》に至るのも至極当然の話だ。

 どのみち醸造スキル持ちが主に造ろうとするだろうから、酒造りが20になった頃には醸造も20は越えているはず。

 だから自然と酒造スキルへの融合が成され、オレのテリトリーは一気に荒らされる事になるだろう。

 ただでさえNPCと取引の出来ない職なのに、大勢でガンガン作られたらもう、オレの出番は消えちまう。


 やれやれ、いよいよ趣味の世界になっちまうか。


 今まで散々、原材料を集めまくって在庫は大量にあるけど、巷に酒が氾濫する事になったらこの工房も返さないといけなくなる。

 いよいよ田舎の村に引っ越しての悠々自適な趣味的酒造りな生活になりそうだ。

 将来が暗く感じていたが、スキルが生えて掲示板に載るまでは何とかなるだろうと日々の酒造りに熱中していたんだ。

 そうしたらレアスキル発表から1ヶ月もしないうちに、酒造りスキルの取得方法が掲示板に公表された。

 やはり果実酒をひたすら造る方法で、失敗の連続の果てに生えたと書かれていた。


 その人は贅沢にも樽で試行錯誤したらしく、負債総額はかなりになったと嘆いていたが、小さな壺でも可能らしいとも書かれていた。

 確かにオレは数粒ずつの噛み酒でのスキル獲得だから少量でも構わないはずだけど、何回で生えたかは覚えていない。

 ただ、酒造スキルへの変換の方法だけど、スキル融合をしたら元のスキルが消えてしまうんだな。

 つまり調理人にとって醸造スキルが消えるという事は、味噌などの調味料作成がやれなくなるって事だ。

 だから酒造りスキルの取得者が増えたにしても、酒造スキルの取得者は増えていないのが現状だ。

 巷に各種の酒の生産者が増える中、それでも熟成酒は相変わらず独占になっていたが、それも遂に終わる日が来る。


 新職業、造り酒屋の登場である。


 調理20と酒造り20で成れる職らしいが、基本スキルに《酒造》が付属している。

 つまり料理人からの転職の場合、料理の腕前はもう上がらないものの、酒造りの先が望める職という訳だ。

 しかも《醸造》が融合で消えないから調味料作りには問題が無いとあって、料理人からの転職者が多くなると予想された。

 さすがに浮浪人からの転職は無理だ……就労不可だし。


 そんなオレは今、工房を彼に返した後、田舎の村の空き家を接収し、趣味の酒造りを楽しんでいる。

 村長さんに酒を貢ぎ、空き家の使用を暗黙で認めてもらい、今は悠々自適に過ごしている。

 かつては独占だった酒造りも、各地で盛んになった今ではそう珍しい物では無くなったけど、それでも田舎の村では重宝されている。

 村の催しには欠かさず寄贈しているオレの酒は、毎回好評のようだ。

 今日もまた趣味の酒造りの中で、稀なるランクが出来たらいいな。


 そういや、昨日から村にパーティが宿泊しているけど、この辺りに攻略するような場所があったかなぁ?

 序盤のお使いクエストぐらいしか無いはずの田舎の小さな村には珍しい、高レベルパーティってのも不思議な話だ。

 実はこの村の近くには珪素の鉱脈があって、ガラス製品が村の産物になっているんだけど、ガラス工房との物々交換をやっているのが現状だ。

 すなわち、ブランデーやウイスキーの瓶を作ってもらい、それと交換で現物の酒を渡す取引だ。

 最初はそんな店も無く、NPCの何でも屋だけしかなく、直接取引がやれないせいで、村長さん経由になっていた。

 つまりこの村長というのも職業のひとつであり、田舎の村の長になるクエストをクリアして、プレイヤーが村長をやっている村なのだ。


「ランクの高い酒はあるか? 」

「パーティさん? 」

「そうなんだよ。全く、こんな田舎でAランクの酒を出せとか言われてもよ」

「ブランデー? ウイスキー? 」

「お、あるならブランデーを頼む」

「何本必要かな」

「どんだけある」

「そりゃ何百とあるけどよ」

「ならな、3年分の家賃で12本でどうだ」

「取引成立だな」


 とは言うものの、前納での酒でもう何十年分も渡してはいる。

 だから単なる社交辞令のようなものであり、進呈に近い状態だ。

 趣味の酒造りに儲けは不要だが、タダで渡すのも何だと、前納みたいにしているだけだ。

 12本のAランクブランデーを渡して、3年分前納の書類を受け取る。


 また倉庫の肥やしの書類が増えた。


 ガラス工房のヌシはウイスキーが好物で、30年物の熟成酒1本で空瓶50本と交換してくれる。

 コルクの製造業者は50年以上のワインが好みで、1本渡せば500個ぐらいはコルクをくれる。

 樽造りの業者は酒なら何でもって雑食だけど、うちの酒との交換でいくらでも交換してくれる。

 実はオレがここに越して来てから、ガラス工房とコルク作りと樽作りの生産者が越して来たんだ。

 どうやら村長さんが誘致したらしく、悠々自適な趣味的生産がやりたい奴らを集めたらしい。

 オレの酒を手土産にしたところ、すぐさま集まったとの話だ。


「おい、酒くれ」

「空き瓶いくつある」

「250本だ」

「なら5本だな」

「2本で良いからよ、50年物あるか? 」

「1本で良いなら90年物があるぞ」

「うおおおお、くれくれっ」


 交渉成立で熟成酒を渡し、空き瓶を大量に獲得する。

 またこれでしばらく楽しめるな。

 出来の良い樽から瓶に入れて冷暗所に並べ、時送りを掛けて熟成開始となる。


 さて、次はどんな酒を造ろうか……レシピには無いはずの、清酒の魔改造をチビチビと飲みながら考える。

 こいつはオレの秘蔵の酒として、今まで市場に出した事は無い。

 事が日本酒ならとことんリアルに造れると、ひたすらリアルを追求して造った酒だ。

 

 ふうっ、旨いな……

 

  

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