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白き獣

   

「カチョウがぁぁ、生意気なぁぁぁ」

「カチョウの分際でぇぇぇ」

「フウゲツを見習えぇぇぇ」


 あれ、カチョウって課長じゃなかったの?

 花鳥風月の花鳥だったの?

 てかその名前何?


「ああ、あれね、例の4神獣に関わっているんだけどさ、女神は花鳥風月って4柱居てさ、花鳥の姉妹と風月の姉妹でいつもつるんでいるのよ。でさ、例の白虎の管轄が花鳥の姉妹でさ、捕らえられないものだからそれはもう、罵詈雑言と言うか、貶める発言をしてくるんだよ。ただでさえ余計な支出を強いられるのに、何かに付けてこっちの神経を削るような文言にさ、しまいにはキレて暴れる人達も出るんだけど、それで全滅したら更なる赤字になるでしょ。だから必死でこらえてここで思いっ切り発散しているって訳なのよ」


 何と言うかもう、運営に遊ばれているんじゃないの? 攻略組。


「あはは、ここって異世界体験ゲームっぽいでしょ。だからきっとそんな先々まで攻略せずにのんびりしろって運営のメッセージかも知れないって話もあってね、だからかな、最近じゃ他の事をやり始める人達も増えているんだけど、やっぱり人の前に立ちたい人は途切れないと言うかさ」


 それであの獣を捕らえる話になったのか。


「君だけなのよ。まがりなりにも接触したって人は。確かに遠目での画像はあるけどさ、あんな至近距離での画像とか、あれで色めき立ったのよ」

「ううむ、知っていたらそのまま連れて来るんだったな」

「そうしていたら今頃は大変だったわよ」

「ほえっ? そのまま手渡して終わりだよな」

「他の神獣もそうだけど、捕らえた人に懐くと言うか、いわゆる召喚獣みたいになるようでね、他の3神獣のあるじ達も抜けるに抜けられないようになっていてね、だからうっかりと捕らえるともう、攻略組に骨を埋める事になっちゃうのよ」

「うわぁぁ、もう行かない、絶対に行かない」

「あははっ」


 やれやれ、そんな罠があったとは、油断も隙も無いな。


 一通り、作業を終わらせて、何時ものようにロッキングチェアに揺られて秘蔵の酒を飲む。

 傍らにはあれからまた購入した、イカ兄弟特製のホタルイカの一夜干し甘タレ風味。

 そうしていると妙な眠気が訪れて、気が付いたら小皿の中の一夜干しが無い。


 うえっ、何でだ……まさか。


『やっと見つけたぞぃ』

「お前、どうしてここに」

『我のあるじになっておいて、どうしてとは酷い言い草よの』

「捕まえてないだろ」

『あれ程に我の身体をいじくり回しておいて、よくそのような事が言えるの』

「とにかくさ、オレは攻略とか興味無いんだからさ、他の奴にしてくれ」

『我もそのような事には興味を持てぬぞ。我の興味はあの食物よ。さあ、もっと出すがよい』


 ホタルイカの一夜干しの事か?

 試しに出してみると、風のように白いモノが動いたと思ったら、小皿の中のイカが消えていた。


『おお、これよこれ、これこそが我が贄に相応しきモノじゃ』

「ならさ、時々それをやるからさ、出張してくれるか」

『誰かに従えと言うのかの』

「仮で良いからさ、全部揃ってないと女神が協力してくれないらしいんだ」

『花鳥の姉妹なれば、挨拶しておくゆえに心配するでない』

「その場に居ないとダメみたいなんだ」

『煩いのぅ。そのように騒ぐでないわ。ほれ、もっと出すのじゃ』


 オレの一番のお気に入りの肴だぞ。

 高いんだからな、あの肴は。

 全くもう、贅沢な獣に懐かれちまったな。


 仕方が無いから小分けする大本の壺を出し、小皿に……貴様、その眠気を止めろぉぉぉ。

 気付くと壺の中のホタルイカの一夜干しがそっくり無くなっていて、ついでにあの獣も消えていた。


 うおおおおお、あの野郎ォォォ。


 ~☆~★~☆


「……ってな事があってね」

「あはは、それは災難だったね」

「でな、悪いが、10壺良いか」

「そりゃいくらでも回すけどさ、あれはかなりの人気だからさ、何かの見返りが欲しい訳よ」

「みなまで言うな。吟醸酒で良いんだろ」

「ランクBが出来たらしいね」

「まだ8本しかないんだぞ」

「そうだねぇ、全部くれたら最優先で回すよ」

「そ、それは」

「今期のアレだけどさ、126壺あるんだよ。そのうちの80壺を回しても良いんだよ」

「10壺で1本か」

「もちろん料金とは別だけどね」

「足元を見るな」

「くっくっくっ、それで、何本出してくれるの? 」


 なけなしの最新のランクB吟醸酒を全部出す羽目になったうえに、かなりの大金を支払う羽目になりはしたものの、大量に仕入れる事になった。

 今度は盗られないようにしようと、小皿に全部仕分けて大量の小皿をインベントリに入れる事になる。

 そりゃ容器は構築すればいくらでも作れるけど、大量にとかもう大変だったんだ。

 ただ、入れてあった壺の使い道が見つかったのだけは良かったと思っている。


 おもむろに空の壺を置く⇒白い風が走る⇒急いでフタをする⇒攻略組に走る⇒手渡してそのまま攻略組は出発⇒出番になったら壺のフタを開ける⇒否応無しにイベントが開始され、4神獣が揃った事で女神達の協力が得られる⇒そのまま攻略していく。


 こういう流れになるんだ。


 ただ、毎回、壺は破壊されてしまうけど、元は80壺だったからまだまだあるんだ。

 んであいつは壺の中のタレを舐め尽くし、お代わりが出ると思って外に出て、強制イベントに巻き込まれて戻って来て暴れるんだ。

 だから結局、一夜干しは出す事になるんだけど、毎回、引っ掛かってくれてありがたいと思っている。


『次こそは引っ掛からぬからの』

「次は本当に入っているかも知れんぞ」

『うぬぬぬぬ、足元を見おってからに』


 ホタルイカの一夜干しが好物だなんて、本当に変わった獣だよな。

 うん、旨いな、やっぱり。


『それを渡すのじゃぁぁ』


 あいつの分は渡したと言うのに、さっさと食べてオレの分に近付いて来る。

 本当に好きなのは分かるけど、頼むからオレにも食わせてくれよな。

 小皿に近づく獣を掴み上げ、そのままもふもふの刑に処する。

 少々賑やかだけど、左手の獣はなすがままになっていて、オレは秘蔵の酒と一夜干しで今日の作業の締め括りをする。


『しかし、変わっておるの、おぬしは』

「何がだ」

『このような処で地味に暮らしておるが、ここはおぬしの場所では無いのかの』

「もう違うさ」

『全てを譲り渡すのは良いが、人は約定を破る生物ぞ。そうなった時におぬしの行き先はあるのかの』

「そうだな。そうなったらお前の住処のあの洞窟にでも行くか」

『あのような寂しき場所なぞ、我は戻りとうない』

「なのにどうして人に従わなかったんだ。他の者達のように」

『あのような欲の権化になぞ従えるか』

「オレも人だぞ」

『おぬしは他の人とは違うじゃろ』

「同じさ」

『そうか』


 ロッキングチェアで揺られて問答をしているうちに、共に眠ってしまう事になる。

 浮浪人なあるじと白い獣は、気持ち良さそうにゆらりゆられて夢の中。

 傍らには妙に甘い香りの小皿が散乱していて、白い獣の口からも匂っている。

 名残惜し気に口をもぐもぐとさせながら、白い獣はあるじに抱かれて気持ち良さそうにしていた。


 そうしてログアウトのその時まで、しばしの時を共に過ごす事になるのだろう。

 

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