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平穏な日常

 

 やはりこれはゲームであり、本当の異世界ではない。


 だから自分達だけが利益になるような、そんな行為は推奨されないようだ。

 あれからまた税吏が来る事になり、開拓地の代表を農夫の彼に委ね、国に所属する羽目になる。

 それと共に今後、同じように開拓した場合でも、結局は国に所属になる事になった。

 いわば国に代わって開拓してやっているようなものだが、武力を背景とした封建社会とはこんなものなのだろうか。

 まるであちらの世界の過去のものがたりのように、長いものには巻かれないといけないようだ。

 それでもいくらか税の軽減措置が図られるのと、各ギルドへの通達と誘致斡旋が成されるようだ。

 すなわち、開発して発展してくれれば双方共に利益になるので、そういうのは優先的に行ってくれるとか。


 オレは生産はしても開拓地の経営とかは分からないので全て委ねたままであり、やる事はただ新酒の開発と従来の酒、それと秘蔵の酒の追及だけだ。


 それにしてもつらつらと考えてみるに、もし親父が酒蔵を閉めなかったとしても、オレに経営のノウハウなどは無く、どのみち破綻していた可能性が高い。

 造り酒屋の実態などにも思いもよらず、ただ旨い酒を造れば売れると思っていた節がある。

 過去の拘りを捨てて世間を眺めれば、もう手造りの酒なんかの時代じゃない事は明白だった。

 友との飲み会での酒も合成酒であり、それを当たり前のように飲んでいたなんてな。


 遺伝子の組み換えも今では当たり前になっていて、この小氷期の中でも豊作になっているとか。

 かつて、21世紀頃にはそれを忌避する人も居たらしいが、そんな事を言っていたら不作で飢饉になっていただろう。

 バイテク養殖魚や合成酒や、遺伝子組み換えで寒冷に強くされた様々な収穫物。

 リアルの世の中はかつて近未来の産物と言われた、様々な食物が当たり前に流通している。

 この24世紀の世の中は、昔と比べて便利になっているのだろうか。

 だけど味気無いと思うからこそ、仮想世界でのあれこれが人気を呼ぶのかも知れない。


 かく言うオレもそうだけどな。


 ~☆~★~☆


 セーフティエリア裏の開拓地はエリア内での狩りの根拠地となり、今では酒造りとゴム製品を特産とする地方自治体へと進化している。

 あれから酒造りの同行の士が集い、ちょっとした銘酒の産地みたいな事になっている。

 そのせいか、ここの名前をちなんだ名前にしようと少し揉めたらしいが、さすがに『ナダシティ』とかリアルから苦情が来そうな名前で却下になった。

 結局、無難な名前に落ち着いたが、それでも銘酒の産地としてそれなりの知名度を得ているようだ。

 酒米の水耕栽培のノウハウもあちこちに知られ、特許という訳ではないけど先駆者として知られるようになる。

 海鮮レストランも誘致され、港町との提携で美味しい魚料理が何時でも食べられるようになった。

 熱帯に近い気候は結界で弱められ、ちょっとした観光地の様相を呈している。

 そのせいかNPCの観光客も訪れる地方都市になりつつあり、ゆくゆくは観光都市になるのかも知れない。


 農夫の彼はゴム林の管理と共に出荷を受け持っていて、開拓地の経営は彼の友人達と共に行っているとか。

 そういうのが好きな人に委ねた訳だけど、それでもオレは元祖開拓者って事になっていて、ちょっとした敷地と建物を暗黙で借りている事になっている。

 例の村長さんの村とも提携し、野菜や麦を買い取る代わりに酒やゴム製品を売っている。

 村長さんが誘致した面々だけど、どうにもうちの開拓地に来たいらしく、村長さんと折衝なんかもやっているとか。

 なのでもし、村長さんも来るなら、彼に開拓地の運営を任せても構わないと思っている。

 そういうのが好きな人に任せるのが一番と思うが故だ。


 そう言えば最近オレは釣りにはまっている。


 特に投げ釣りが面白く、狙ったポイントに投げられるように練習もやっている。

 実はこれも狩りに応用出来ないかと考えた末の話であり、錘で攻撃ってのもやれそうな感じだ。

 ともかく、武器以外のアイテムを武器にすれば良いだけなので、それを探したり開発したりするのが面白いのだ。

 色々なスポーツ用品も武器の代わりになるようで、バットとかゴルフクラブのような道具も武器になりそうである。

 実はあれから後輩とも言うべき、浮浪人もいくらか出てきて、主に生産職に従事している。

 そんな彼らともたまに狩りに出かけたりしての交流もやっていて、試行錯誤の武器もどきは彼らとの共同開発になる事も多い。

 投擲ハサミと殴りフライパンは彼らも所持していて、狩りの時には皆で魔物タコ殴り合戦になるんだけど、ちょっと魔物が可哀想になる。


「カチョウの、バカタレがぁぁ、くたばれぇぇぇ」


 どうにもリアルで嫌な事があったらしい。

 実はフライパン攻撃がストレス発散になると、それもあって広まった武器もどき。

 あっちでもこっちでも、リアルの役職や変な仇名の人の名を叫びながら魔物を殴っている。


「アンタ、剣はどうしたよ」

「これなら長く攻撃がやれるだろ。ミサカの野郎、思い知ったかぁぁぁ」

「尻に敷かれた旦那は仮想で鬱憤を晴らすってか」

「おらおらぁ、土下座して謝れぇぇぇ」


 どうにも不毛だけど、それで本人の気が済むならいいや。

 そう思っていたんだけど、奥さんも参加者だったのね。


「くすくす、後が楽しみね」

「あれ、もしかして」

「うん、旦那は知らないけどね」

「くわばわ、くわばら」

「くすくす」


 後は皆が好きにすれば良いと、オレは早々に引き上げる。

 毎回参加はしているものの、彼らの目的は発散のようなので、オレとはテンションが違い過ぎて疲れるのだ。

 あれ、ここは何の店だ。

 店先にフライパンが並んでいて、台所用品の店のようだけど、どうにも様相が違うような。


「へいへい、発散にはフライパンだよ~」

「台所用品の店なのか? 」

「いやぁ、そうじゃなくてね、戦闘職も発散になるって言うもんでさ、フライパンリースを始めたんだ」


 機を見るに敏と言うか、商人ってのは行動力が凄いんだな。

 見れば様々な道具を店先に並べ、武器の代わりになると喧伝している。


「実はさ、これはまだ検証中なんだけどさ、武器以外の道具で倒したら少し優遇があるみたいでさ」

「それも浮浪人優遇かな」

「うん、ここの運営ってさ、どうにも浮浪人を優遇しているように思えるでしょ」

「そりゃあ今でこそそう思うけど、序盤は本当にゴミ職扱いだったからな」

「先駆者のコウさんのお陰っすよ、今の浮浪人人気はさ」

「え、何時人気職になったのさ」

「浮浪人の生産職のレア発生確率、あんなの知ったらみんな転職するって」

「転職でも専門スキルもらえるのかなぁ」

「ああ、それは無いらしいよ。やっぱり最初からやらないと完全なる優遇にはならないみたいだね」

「この店気に入った、縄張り」

「うわ、止めて、ああ、所有者が認めた事になっている。書き換えないと」

「書き換えはすぐ終わるんだろ」

「いやいやそれがね、役所で申請しないと変更出来ないのよ」

「そりゃ悪かったな」

「いやまぁ、別に承認のままでも良いけどね」

「じゃあここに来た時に一度書き換えたのか? 」

「うん、全部君の縄張りになっていたよね」

「ああ、だから税吏が来る事になったのか」

「えっ、まさか、それが原因なの? 」

「相手にされないって事はね、その縄張りも無視されるって事なのよ」

「うぇぇぇ、自業自得かよ、参ったなぁ」

「今更だけどね」


 うん、それが分かったのも最近なんだ。

 だから本当に今更の話なのさ。


「これ、書き換えないとどうなるの? 」

「内緒だぞ、騒ぎになるから」

「まさか、本当に脱税やれたり? 」

「縄張りも永遠じゃないからな。効果時間が過ぎたら衛兵の知るところとなり、捕縛命令の名の元に」

「綱渡りかぁ、なら無理だね」


 どのみちそんな長時間保つスキルじゃないから、付きっ切りで追加スキルとかやってられん。

 だからそこのところを言い含めておいたんだけど、なんでこんな仕様にしているんだよ、運営さんよ。


「右や左の旦那様、美味しいお酒は如何ですか? 」


 おいおい、そっちの方向性かよ。

 どうにも同類は方向性が怪しい奴が多いな。

 人気とは言うものの、変な奴が多いんじゃ、ネタ職扱いは変わらないような。


 まあ、それでもかつての待遇とは全然違うんだけどね。

 

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