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新たなる定住地

   

「新酒が出来たと聞いたけど」

「新クラスと言うべきかな」

「え? じゃあ清酒の先が完成したんだね」

「吟醸ランクCの酒だけど、飲んでみる? 」

「うん、是非」


 ぐい呑みを構築して手持ちの酒を注ぐ。

 香りを嗅いで後、口に含んで味わっているけど、みんな利き酒に参加でもしているのか、味わい方が堂に入っている。


「凄いね、これ。清酒ランクAは味わった事はあるけど、それより上は確実だね。さすがは新クラスだけの事はある」

「山谷四季、精米歩合50パーセント、製造30日、環境温度3度」

「え? 短縮してだよね」

「いーや、短縮無しでじっくり拵えた酒になる」

「それも含まれるんだ」

「多分、吟醸酒の判定基準は相当に厳しいと思う」

「だろうね。清酒Sランクは未だ無いものの、それが最終形だと思われているしね」

「こいつはフレンドリスト専用になる」

「それは光栄だね。で、何をすれば良いのかな」

「くっくっくっ、話が早くて助かるよ」


 セーフティゾーンの後ろ側に、土塀を築いてもらって広い空間を獲得する。

 魔物が入れないようにして、そこに特製結界を更に構築して酒蔵を造る予定になる。

 確かにセーフティゾーン内を改変出来る職なのは良いけど、今は良いけどそのうちきっと何か言われるようになるだろう。

 そりゃ狩人達の為の仮住まいの小屋は拵えてあるけど、公共の場所の占有を言わないはずはない。

 だからそうなっても困らないように、フィールドに安全地帯を新たに構築しようという試みだ。

 計画を話すと大仕事だね、と言いつつも、3合瓶がたくさんあると言えば、やる気が出ると早速、作業に取り掛かる彼。


 誰だよ、土魔法が地味とか言う奴は。

 他の魔法じゃ全く役に立たないぞ。


 広大な荒地につらつらと土塀が連なって、セーフティゾーンの後方に安全地帯を確保する。

 その中を設計図通りに畑にしたり基礎工事をしたり、彼は実に精力的に働いてくれている。

 そういや、もうじき他の面々も来る頃と、待っていると続々とやって来る面々。


「カーフィ、やっているな」

「ああ、ノムトさん。貴方も呼ばれたんですか? 」

「酒の匂いを嗅がされては、断る選択肢はあるまい」

「あはは、確かにそうですね」


 お、来た来た。


「ヨーランドさん、またお願いします」

「これはまた広いな。かなりの結界素子が必要になりそうだが」

「素子1つで新酒1本」

「それはいくら何でも。せめて3本にしてくれ」

「そこを何とか」

「なら、2本だな」

「それで、どれぐらいやれますかね」

「そうだな、中央に結界術式の本体を置いて、ざっと12ヶ所かな」

「25本で」

「もう一声」

「弱ったな。他の人の報酬も同じ酒なんですよね」

「聞いたぞ、2500本の空瓶を受け取ったそうじゃないか」

「ああっ、オレノさん、酷い」

「くっくっくっ、30本、良いな」

「ういっす」

「よーし、言質取ったぞ。さーて、いっちょうやりまっかいな」


 計画書に従い、次々と人がやって来て、交渉の果てに作業に取り掛かる。

 2500本の酒はこうして消費される事になったが、それでも有意義な使い道だったろう。

 新しい住まいと醸造所はそこに拵えられる事となり、スロープ式水耕栽培も大々的に据えられる。

 何もかも仮住まいだったセーフティゾーンから、もうじき撤退する事となるだろう。

 そうなった時、建屋だけを残し、狩人達へ提供する予定になっている。


 今現在、既に今期の収穫は終えて水耕栽培は止めてあり、新しい場所に運ばれる事になっている。

 土魔法使いだけに可能な方法だとは聞いたけど、まさかそっくりゴーレム化するとは思わなかった。

 上半身が水耕栽培のスロープなゴーレムは術師の指揮の元、設置場所まで誘導されていく。

 まるで落とし穴のような穴にはスロープが付けられ、そこをゴーレムは進んでいく。

 そして設計図のままにゴーレムは次第に背を低くしていき、設置場所に旧来のスロープが設置される。


「実に鮮やかですね」

「これを確立して以来、家ごと引越しって依頼も来るようになってね」

「こんなのがリアルでやれたら業者涙目だろうな」

「くっくっくっ、確かに」

「後は拡大を頼みます」

「収穫量が増えれば酒も増えるか」

「ええ、そのうち定期的に渡せるようになると思います」

「それはありがたいね」


 皆が皆、酒だけを目当てに動いてくれている訳じゃないだろうが、表面的には酒を目当てにしているかのような言動を見せる面々。

 さすがは仮想世界と言うべきか、リアルなら何年も掛かりそうな工事が即日で終わってしまう。

 そうしてセーフティゾーンの残骸は狩人達の仮住まいの場所として再構成され、畑も水耕栽培も新たなる場所で広範囲になっている。

 実は農夫職ってわざわざ仮想世界でやるような事かと思うけど、リアルでやれない農業がやりたいって人も居るようで、その彼らが移住して来る事になっている。

 その為の住居も作られていて、ちょっとした新規開拓村の様相を呈している。


 しかしここに村長は居ない。


 オレは敷地全域に『縄張り』を使い、うろうろしても不思議に思われない存在になっている。

 一応、土地の所有者を決めなければならないが、浮浪人じゃNPCが無視するから手続きがやれない。

 なので名義だけゲイルさんに貸し出し、実質的な所有者はオレって事になっている。

 王都住まいのゲイルさんの別荘地の扱いで、そこを暗黙の了解で借りている事にしてある。


 それでいけると思ったんだけどな。


「おい、ここの長は誰だ」


 やれやれ、国にも困ったものだよ。

 荒地のうちは何も言わず、こうやって村の様相を拵えたら上前を撥ねに来るんだから。


「何か御用ですか」

「ここの上がりを半分寄こせ」

「その場合、施工費用はそちら持ちにしてくれますよね。国の所有地を主張するなら、それぐらいは当然では」

「何だと貴様」

「だってそうでしょう。ここは元々荒地だったんですよ。そこを整備して人が住めるようにしたんです。そこに税を掛けるなら、整備費用はそちらが持つのが当たり前。そう思いませんか? 」

「くだくだと、貴様、牢に入れられたいか? 」

「おーい、何とかしてくれ、こいつ」

「はいはい、私が所有者ですよ」

「……」

「おーい、税吏さーん」

「……」

「殺しちゃって良い? 嫌なら嫌と言ってくれ」

「……」


 反応が無いのでフライパンでしばく。


 吹っ飛んだ税吏はキョロキョロするものの、やはりオレは見えない事になっているようだ。

 そのまま胸倉を掴んで引きずっていき、魔物のテリトリーに叩き込む。

 後はどうなろうと知った事では無い。


「くっくっくっ、普通なら犯罪者だぞ」

「反応しないほうが悪い」

「ある意味、無敵だな」

「まあ、一方的に攻撃出来るけど、攻撃力はお察しだし」

「でもあのフライパン攻撃はかなりだぞ」

「時々、肉を焼かないと武器にされそうなギリギリの道具なのよね」

「くっくっくっ。どうだ、今度一緒に最前線、行ってみるか? 」

「どうにも足手まといになりそうですけど」

「心配無用だ」


 そういや《叩く》ってスキルが生えたんだった。

 

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