短編小説・みえてしまうよりも
不思議な短編小説です
お時間ありましたら読んで頂けたら幸いです!
宜しくお願いします!
私の知り合いに幽霊が視えてしまう人が結構いるせいか幽霊に対して免疫がついたのか話を聞いても恐怖する事は少ない。
そんな私が小学生の頃に遭遇した話。
もしかしたら今までで一番怖いと思った出来事かもしれない。
人見知りながらも、それなりに友達も出来たくらいにクラス代えが行われた。
運が良かった私は仲良しの友達と再度同じクラスになった。
だが新しいクラスに馴染めない様子の子もいる。
私が一番気になったのは『山田さん』という女の子だった。
誰かと話している姿を見た事がなく、いつも一人。
休み時間は本を読んでいるようだった。
そんなある日の給食の時間。
私の小学校では6人か7人に班分けされたグループで給食を食べる決まりになっているのだが『山田さん』だけは教室の隅で一人で給食を食べていた。
担任の先生も、その事に触れる事はない。
まるで『視えていない存在』のような扱い。
私がおかしいのか、視えないものが視えているのか…そんな感覚に捕らわれた。
名簿を確認しても確かに存在しているし席もある。
それなのに誰も『山田さん』を視ていない。
『山田さん』はいつも一人だった。
怖くなった私は友達に『山田さん』を仲間に入れてあげようと話したが、はぐらかされ聞き入れてもらえない。
それ以来、さらに『山田さん』の話をするのはタブーのような空気になった。
放課後、図書室に寄って帰りが遅れた私は教室にランドセルを取り行った。
教室では『山田さん』が一人、本を片手に窓の外を眺めている。
いつもと同じ表情。
泣く事も笑う事もない、まるで仮面のような子供とは思えない顔。
「何の本読んでるの?」
私は唐突に話掛ける。
『山田さん』は顔色変える事なく言葉を発する事なく、本の表紙を見せた。
『ハムレット』
その頃の私はまだ読んだ事のない作品。
今思うと『山田さん』らしい作品のような気がする。
「友達になろう。」
私は手を差し出した。
『山田さん』の表情が初めて変わった。
とても嬉しそうな悲しそうな何ともいえない表情。
「お断りするわ。」
それが『山田さん』の声を聞いた最初で最後になった。
友達と二人っきりの時に『山田さん』は何故、無視されているのか尋ねてみた。
「そんなの知らないよ、ただ…あんな風にはなりたくないじゃん。学校ではアイツの話しない方がいいよ。」
友達はそう言った。
私は怒りのあまり近くの壁を思いっきり殴った。
友達の言葉に対してではない。
もちろん周りの人間に対してでもない。
視えない相手に対して何も出来ない自分に怒りを覚えたのだ。
その怒りを私は壁にぶつける事しか出来ない程に子供だった。
それから卒業まで私が知る限り『山田さん』はずっと一人。
今はどうしているかも分からない。
ただ私では駄目だったけれど『山田さん』を誰かが救っている事を願う。
視えないものが視えるよりも、見えるものが見えない。
そんな希薄な人間関係。
盲目な世界。
それが私には何よりも怖い。
そして、あの時に『山田さん』が私の差し出した手を握ってくれた事を私は一生忘れない。
私たちは確かに『友達』なのだから。
読んで頂きありがとうございました!
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