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異世界の塩事情  作者: ペリヱ
採鹹編
8/20

後異世界の塩事情◆中編

 岩塩が主流と言われるヨーロッパにあっても、採鹹(さいかん)煎熬(せんごう)を避けて通ることはできません。ヨーロッパに於ける採鹹(さいかん)についてもおさらいしておきたいと思います。ちなみにこの文章内におけるオススメ度も、あくまでも異世界に持ち込んだと仮定した時のものですので、その点ご了承ください。



◆天日塩田法

◇海水の場合

 オススメ度★★☆☆☆

 海水の汲み上げ:ポンプ

 海水の散布:-

 採鹹(さいかん):-

 煎熬(せんごう):太陽熱&風力


◇人工|鹹水(かんすい)の場合

 オススメ度★★☆☆☆

 海水の汲み上げ:-

 海水の散布:-

 採鹹(さいかん):人力または電力

 煎熬(せんごう):太陽熱&風力


◇天然|鹹水(かんすい)の場合

 オススメ度★★★☆☆

 海水の汲み上げ:-

 海水の散布:-

 採鹹(さいかん):-

 煎熬(せんごう):太陽熱&風力


 最も伝統的かつエコな水分除去法の一つ。そのため工夫や管理次第ではどこででも行えるようだが、「砂漠のような乾燥地域」で最も真価を発揮する。「蒸発池(日本で言うところの『塩田』や『流下盤』のようなもの)」を準備して海水を引き込むところまでは「雨の多い日本の塩田法」と同じだが、海水を利用した天日塩田法の場合、太陽熱&風力によって完全に結晶化までさせてしまうため、採鹹(さいかん)という意識自体が存在しない。


 海から汲み上げた海水(岩塩を溶かした人工鹹水(かんすい)や、地下塩泉や塩水脈などの天然鹹水(かんすい)の場合もあり)を「蒸発池」に溜め、文字通り水分の蒸発を待つ。蒸発していくうちに硫酸カルシウム(石膏)が析出して沈殿していくので、上澄みのみを次の池へと流すことで分離する。次の池へ次の池へと水路を流れていく間にも太陽熱や風力によってどんどん水分を蒸発させて塩化ナトリウムの濃度を上げ、「結晶池」で結晶化させる(1つの池で最初から最後まで行なう場合もあり)。採塩は苦汁(ニガリ)成分が結晶化する前に、苦汁(ニガリ)液を排出してから行われる。規模によっては採塩船を利用する場合もある。最終的には洗浄して乾燥させる。


 でき上がった塩の品質は「製塩作業地域の降雨量」に拠る。


 砂漠のようなほとんど降雨のない地域では、結晶池中の塩の層が厚くなりやすく、一枚でも広々とした面積を誇る大塩田を作りやすい。できる天日塩は空気中の砂塵が混ざりやすいものの、塩の層が蓋の役割を果たすため、池底からの泥の汚染は比較的少なく、大きな硬い結晶になりやすい。そのため溶けにくい塩に仕上がる。


 このタイプの天日塩が輸入塩として日本で直接流通する場合、一般的には大粒の不定形に破砕された状態で流通しているため、岩塩と勘違いしやすいらしい。


 降雨が多くなるにつれて塩の層を作れなくなっていき、一枚一枚の塩田の面積も小さくなっていく(その分は枚数でカバーという展開になりやすい)。中にはレンガやタイルを駆使して池自体からの泥の浸入を阻止しようと奮闘しているところもあるようだが、成功しているとは言いがたい。そのため鹹水(かんすい)自体が泥水状になってしまったり、採塩時に泥が混入してしまったりと、衛生上問題がある場合が多い。結晶もあまり大きくはならない。そのためやや溶けやすい塩に仕上がる。


 上記のことから、先進国と呼ばれる国々では一般的に「天日塩をそのまま食用」とする例は少ないようで、飽和食塩水で徹底洗浄するか、溶解して不純物を取り除いた上で煎熬(せんごう)し直すかしている。ただし日本では、家庭用に小口で輸入されたものについては、泥などが混入していても「むしろ自然でよい」と宣伝してそのまま販売している場合がある。


 海水の質が塩の質に直結してしまう点や、周囲の環境が場合によっては塩の質に結びついてしまうことがある点(例えば花粉のような空気中の浮遊物が塩田に降り注いだりしないのかという意味で)は要注意。異世界に持ち込む場合にはさらに、「蒸発池」や「結晶池」といった拓けた水場の安全性を長期にわたって確保できるのかという点でもかなり不安が残る。場合によっては、草食動物の格好の「塩舐め場」と化してしまったり、それを狙う肉食動物を呼び込んでしまったりする可能性なども捨てきれない。


 大規模な塩田としては、メキシコのゲレロ・ネグロ塩田(世界最大。結晶池だけでも東京23区に匹敵する広さ)、フランスのジロー塩田(ヨーロッパ最大)、スペインのトレビエハ塩田(塩湖をそのまま塩田に転用)、イタリアのチェルヴィア塩田などが有名。



以下は塩田の狭さを枚数で補っている例。


◇マラス塩田【Salinas(サリネーラス) de(・デ) Maras(・マラス)

 南米ペルー共和国クスコ県ウルバンバ郡マラス村の、ウルバンバの谷(インカの聖なる谷【Sacred(セイクリッド) Valley(・ヴァリー・) of(オブ) the(・ジ) Incas(・インカ)】とも)に作られた塩田。世界一の高高度を誇り、天空の塩田とも。渓谷の斜面に棚田状に作られた数千枚の塩田に、網目状に張り巡らせた溝を通じて塩分を含んだ地下水を引き込むことで塩を生産している。棚田状の塩田、略して「棚塩田(今決めた!)」は日本の棚田がそうであるように、村人がそれぞれ数枚ずつ所有しており、1枚につきいくら、という塩税を払っている模様。塩田での生産を行なうのは乾期(かつ農閑期)に限られ、農作物と塩との二毛作状態(塩田で農業はしないので、厳密には二毛作とは言えない)にあるらしい。ただしペルーではヨード添加前の塩の食用は禁止されており、マラスの塩もヨード化(ヨード添加)しないと食用としての販売はできない。




鹹水(かんすい)煎熬(せんごう)

 何らかの方法で採取した高濃度の塩化ナトリウム水溶液である鹹水(かんすい)を煮詰めることで塩を得る方法のこと。名称は今回の文章のための便宜上のもの。日本では見かけない、独自の採鹹(さいかん)法が見られることもある。


◇溶解採鉱法

 オススメ度★★★★☆

 海水の汲み上げ:-

 海水の散布:-

 採鹹(さいかん):人力または電力

 煎熬(せんごう):人力または電力


 一見無駄にも思える採鹹(さいかん)法。既に結晶化している岩塩層を水などに溶かしてしまうことで鹹水(かんすい)を得る。最初から飽和に近い鹹水(かんすい)を得ることができる。岩塩床のない日本では見られない採鹹(さいかん)法。地中の成分や環境が塩の品質に影響を与えてしまう場合がある点は勿論のこと、塩害などの形で逆に周囲に影響を与えてしまう場合がある点にも注意が必要である。


 岩塩層まで空気用と注水&採鹹(さいかん)用の二本の管を差し込むのが一般的。鹹水(かんすい)はポンプなどで汲み上げて使用する。使用した分だけ地中にぽっかりと穴が開いてしまう点は要注意。岩塩が硬すぎたり、不純物が多かったり、ヨウ素等の添加を予定していたりする場合に採用されることが多い。その後の煎熬(せんごう)に関しては、製塩所で火にかけて煮詰める方法が一般的。


 「サラン=レ=バンの大製塩所(フランス)」「アル=ケ=スナンの王立製塩所(フランス)」などが有名。



◇天然鹹水法

 オススメ度★★★★☆

 海水の汲み上げ:-

 海水の散布:-

 採鹹(さいかん):人力または電力

 煎熬(せんごう):人力または電力


 最も手間のかからない採鹹(さいかん)法。地下塩泉や塩水脈などがそれに当たる。名称は今回の文章のための便宜上のもの。鹹水(かんすい)と称しても差し支えないだけの塩化ナトリウム濃度を有する地下塩泉や塩水脈のある地域でのみ行えるチート的採鹹(さいかん)法。地中の成分や環境が塩の品質に影響を与えてしまう場合がある点には注意が必要である。


 地中で長い時間をかけて塩化ナトリウム濃度を上げた太古の海水を汲み上げ、実際にそのまま鹹水(かんすい)として利用するというお手軽採鹹(さいかん)法。溶解採鉱法による鹹水(かんすい)に比べると低濃度と言わざるを得ないが、採鹹の手間としては比べ物にならない。ちなみに塩泉の場合は製塩だけでなく、温泉地として活用できる可能性も出てくる。


 温泉リゾートとして知られるバート・ライヒェンハル(ドイツ)、ハンザ同盟の盟主として繁栄を誇ったハンザ都市リューベック(ドイツ)などが有名。

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