異世界の塩事情◆前編
異世界での塩事情、塩作りについて考える前に、まずはこの世界のそれらについておさらいしてみようかと思います。
この世界にはさまざまな塩資源があり、世界各国で塩を精製していますが、基本的にはどれも皆、海水が形を変えたものに過ぎず、「元をたどればすべて海水」だということになるようです(長野県大鹿村にある鹿塩塩泉のように、海だった地層がないのに何故だか濃い塩水が湧くという場所もあるようですが)。
資源別に塩の製法をおさらいしておきましょう。
◆海塩
海水の水分を蒸発させ、塩分を結晶化したもの。そのため塩化ナトリウム以外のミネラル分(いわゆるニガリと呼ばれるもの)が含まれる。フランスやメキシコといった少雨乾燥の地域では「天日製塩法」と呼ばれる海水の水分を直接蒸発させる方法を採ることが多いが、日本のような多雨多湿の地域では、海水を何らかの方法で一旦濃縮(=採鹹)した上で、水分を蒸発させる(煮詰める場合のみ「煎熬」と呼ぶ)という二段階方式を採ることが多い。この濃縮方法には「揚浜式」「入浜式」「流下式」「タワー式」「ネット式」「イオン交換膜製塩法」などのさまざまな工夫が見られる。ちなみに日本で作られる塩はほぼ100パーセント海水塩であると言える。
◆山塩
山でとれる塩ということで、基本的には岩塩のことを指すはずだが、山に湧き出した食塩泉(場合によっては海水より塩分濃度が高い)から作られた塩のことも指す模様。福島県北塩原村の大塩裏磐梯温泉、長野県大鹿村の鹿塩塩泉など。
◆岩塩
金属元素(Na)とハロゲン元素(Cl)とが結合した「ハロゲン化鉱物」の代表的存在。地殻変動や大陸の移動によって陸地に閉じ込められた海水のうち、水分が蒸発しきったことでいわゆる「塩分(Nacl)」が結晶化した蒸発岩。そのため塩化ナトリウムの純度が非常に高く、それ以外の成分はほとんど含まれていない。世界全体での推定埋蔵量は数千億トンとされるが、日本では産出しない。岩塩由来の地下塩水(岩塩が地下水に溶けて濃い塩水になったもの)まで含めると、世界の塩の生産量の約3分の2が岩塩から作れていると言える。採掘法としては「乾式採鉱法(そのまま掘る)」と「溶解採鉱法(水に溶かして汲み上げる)」に分かれる。異物の心配があることから、食用のものは基本的にはいったん水に溶かして精製したり、再結晶化したりすることが多い。
欧米で市販されている岩塩の多くは一度水に溶かしてヨードを添加した上で、再結晶化されていたヨード化塩(ヨード添加塩)である。価格は海水塩の半額程度。
◆湖塩
地殻変動や大陸の移動によって陸地に閉じ込められた海水のうち水分が蒸発しきらずに湖として残ったもの、岩塩の溶けた河川や地下水が窪地に留まることで湖となったものなどを塩湖、水分が蒸発しきったものを塩類平原と呼ぶが、それらの塩湖及び塩類平原から採れる塩。死海やカスピ海、またロシアのバスクンチャク湖などが有名。湖そのものを天然の塩田と見ればよいわけで、塩の採り方は基本的には海塩に準じる。ただし湖によっては既に結晶化しているものを採るだけの場合もある。
塩の質はさておき、塩そのものの採掘法、精製法は色々あることが再認識いただけたかと思います。
勿論、「味気ない岩塩に飽き飽きして、ミネラルの種類が豊富で味も勝る海塩を積極的に選んだ」とか「国内に岩塩床がなく、他国からの輸入に頼っているが、資源外交への不安から海塩開発に手を出した」とか「既にあった海塩作りに、前世の聞きかじりながらできる範囲で助言してみた」とかそういう説得力のある背景が楽しめるんなら、海塩でぜんぜん構わないんです。
でもそれでここまで「右へ倣え」の状態に本当になるんだろうか? という気がして仕方がありません。
たまには「乾式採鉱法だった岩塩の採掘方法を見直して、質を飛躍的に上げてウハウハ」とか「前世の知識を活用して岩塩に色々添加することで、健康被害問題を解決してヒャッハー」とかあってもいいと思うんですが。
大々的に施設を建てて云々するよりずっとずっと労力や知識が少なくて済んで、いかにも何とかできそうな気がするんですが、どうでしょう。
「領地に塩湖があって大喜び」というシチュエーションで書いてくださった方がいらっしゃったかと思いますが、そういう塩と地形が結びついた感を醸し出してくださるのが少数派なのが寂しいところです。
新たに異世界物を書こうとしている皆様、「にがり成分高めの塩泉を持て余している、真水の一切出ない、燃料となる木材もまともにない、ないない尽くしの寒村で、前世の知識を活用して塩作りを行い、一気に村を裕福にしてウハウハ」とか書いてくださっていいんですよ。