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いつか来る日  作者: 鈴木太一
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「ずっと好きでした。付き合って下さい。」


「ごめんなさい。君とは付き合えません。」


またこんな夢を見た。

僕は特に誰かに恋をしているわけでもない。

無論、夢の中で僕が告白している相手が誰かは分からない。

クラス替えをしてから1ヶ月が経つが、この夢を見るのは5回目で少し慣れすら覚えてきた。


起きてからは日本中の学生と同じようなルーティーンで学校へ行く準備を進める。

歯を磨き、朝食を食べ、制服に着替える。

「行ってきます。」

玄関で呟く。家の中には誰もいない。

別に悲しい事ではない。

両親は僕が小さい頃から共働きだし、姉は大学1年から一人暮らしを始めてもう2年が経つ。


僕の通う高校までは歩いてで10分程度だ。

県内の公立高校で偏差値は55。所謂ごくごく普通の高校である。

イヤホンを付けてiPodで音楽を流し、学校へと向かう。

新学期が始まった頃は登校ルートに桜が満開に咲いていたので、花に興味のない僕でも綺麗だなあと思ったりした。

しかしもう5月になりすっかり桜は散ってしまった。


家から近いということもあって教室に着くのはいつも一番早い。

特に何かするでもなく、椅子に腰をかけ音楽を聴く。


「おはよう!今日は何聴いてるの?」

いつものように隣の席の金田さんが問いかける。


「今日は、やなぎなぎ。」

僕は答える。この会話も最早作業のようになった。

「分かんないな〜。相変わらずマニアックだね柏木君!」

別にマニアックじゃないと思うんだけどとは返さず、愛想笑いで誤魔化す。


だいたい僕の次に登校して来るのは金田さんだ。

人見知りをしない人なのだろうか、クラス替え初日の朝からさっきと同じ問いかけを僕にして来た。

金田さんはサッカー部の成瀬と付き合っている。

成瀬は少女漫画の王子様のように凄く顔が格好いいわけでも、サッカー部のエースというわけでもない。

しかし身長は僕より20cmくらい高く、同じ部活に入り苦楽を共にしているが明るくていい奴だなとは思う。

2人は1年の時に同じクラスで仲良くなり、成瀬が告白して付き合ったんだという話を友達の河野から何度も聞かされた。

河野も彼らと同じクラスで、金田さんの事を可愛いと言っていた。

河野とは中学の頃からの付き合いだが、未だに彼女が出来たという報告は聞けない。


金田さんは確かに可愛い。おまけに性格もとてもいいらしい。

確かにクラスの誰とでも分け隔てなく話していると思うし、特に誰かの悪口を言っている様な感じもしない。

そんなに仲が良いわけでもない僕でもこう思うのならやはり性格はいいんじゃないかなと思う。

もしかしたら影では僕のようなあまり目立たないタイプの人間の事をボロクソに言っているのかもしれないが、別にそれはそれで構わないかなとも思う。


「おはよう、里菜、柏木君。」

「直人、金田、うぃーす!」

ぽつぽつとクラスメイトが登校して来て、金田さんと僕に声をかける。

専ら僕に対しては金田さんのついでなのだろうと考えつつも挨拶を返す。


正直僕はネガティヴな性格だと自分でも思う。

河野は昔から僕に「お前はチビだけどそれ以外のポテンシャルはあるのに!もっと自信持てよ!」

とよく言った。

身長は先月の健康診断で測ったら160cmになっていた。

入学した時は156cmだったからよく伸びたとは思う。

顔は小さい頃から可愛いねとよく言われるので、中性的な顔立ちなのだろう。

男の子に向かっての「可愛い」という表現は正直言って馬鹿にしているようにも感じる。


しかし河野がポテンシャルはあると言ったのは恐らく運動神経の事なのだろう。

小学校1年から今までサッカーを続けてきた事もあり、弱小校ながら中学、高校共にレギュラーになっていて、体育の成績もだいたい5だ。

別にサッカーも好きで始めたわけではなく、病弱だった僕を心配して、両親が始めさせてくれた習い事の中の1つだった。

サッカー、野球、水泳、体操と色々やらせてもらったが、ただ一番楽しかったという理由だけでサッカーをなんとなく続けてきた。

サッカーのおかげで友達も沢山出来た。

河野もその1人だ。

多分サッカーをやっていなかったら僕は「ぼっち」になっていたに違いないと思う。

その点ではとても両親に感謝をしている。


「うぃーす直人!」

8時29分に河野が登校してくる。

遅刻ギリギリなのは中学の頃から変わらない。








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