第8部:恨む者、願う者
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時間が無い。
未だ、成せていない。
これは、自分の責だ。罪だ。
時間が無い。
もう少しなのに。
ここまで漕ぎ着けたのに。
あと一歩を踏み出せず、約束を果たせずにいる。
原因など、とうに分かっている。
憎い奴のせいでも、愛おしいあの女のせいでもない。
嫉妬だ。
どうしようもなく醜い、嫉妬のためだ。
私怨だ。
勝手に抱いた、ぶつけようのない私怨のせいだ。
無くさせるわけにはいかない。
失くさせるわけにはいかない。
だけど、無くなるのは必然だ。
失くすのは、避けられない事象だ。
だが、そこで、全てを台無しにするわけにはいかない。
ちっぽけな私情で、何もかもを無かったことにする事は許されない。
急がなければ。
急がなければならない。
事態が要するのは時間であり、そのために立ち止ることは許されない。
刻限が迫っている。
凍える冬の入り、過剰に飾り付けられたヤドリギがそこかしこに立つ日。
そこに至るまでに、答えを。
答えを、出させねばならない。
全ては、終焉へと迫り。
自分の役目も、無くなりかけている。
それでも、約束を果たさねばならない。
最も憎く、近しい奴の尻を蹴飛ばさねばなるまい。
最も大切な、尊い人のための約束を、果たさねばならない。
時間が無い。
時間が無い。
残された時間は幾ばくか。
許される限りの力を尽くさねば。
物語が終わる、最後の時。
願わくは、全てをその時のために。