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10÷2≠5  作者:
9/17

5±5:5+5の男の子 2nd






「ほら」




買ってきたホットココアを手渡す。 「ありがとう」なんて千穂は嬉しそうに笑った。 俺は自分のコーヒーのプルタブを開けながら質問した。



「で? 結局何の用なんだ?」

「ん? なんのこと?」



両手でココアを持ちながら、不思議そうな顔をする。 そうだった、こいつは二つのことを同時にできないバカだった。



「まさか、二人で飲み物飲みたくて待ってたんじゃないだろ。 要件はなんだって聞いてるんだよ」

「あー。 んーと、その……」




大事なことじゃないのか? どれくらい待っていたかは知らないけど、わざわざ俺の帰るところを狙っていたのだから、それなりに重要な話だったはずだろ。 それをココアなんかで忘れんなよ、と心の中で思った。やがて千穂は顔を上げて話し出した。



「あの! 私、このたび結婚します!」

「知ってる。 さっきおめでとうと言っただろ。 足りないならもう一度言うけど?」

「あ、いや足りないとかじゃなく。 その…… と、透は最近どうなの、かなぁ……」


「働いて、それなりに遊んで、結構充実してる」

「そ、そっかぁ……」




そう言って、未だ手付かずのココアを見つめ出す。 話の意図が全く見えない、なんだ惚気たいのか? でも俺のこと聞いてきたと言うことは現状報告でもしたいのか?



「ココア。 嫌いになったのか?」

「え! あ、いやまだまだ全然す……」



俺の質問に慌てて、なんか言いかけてまた俯いてしまう。 千穂は回りくどい、言いたいことをいつも遠回しに伝えるやつだったな。 今もそれは変わってないようだ。



「はぁ……」



思わず漏れたため息。 それに千穂は反応し、口を開いた。


「……やっぱり、私のことめんどくさい?」

「いや。 ただそんなんで他の人と上手くいってんのかなとは思う。……てか、やっぱりって。 俺、お前にめんどくさいなんて言ったことあったか?」


「え。 い、いや、付き合ってた頃そう思われてたかなぁ、なんて。あ、あはは」

「思ってない。 ……正直、別れた時も嫌いじゃなかったから、意味は分からなかった」




言うべきか悩んだ。 元カノに、そんな話するのもどうかなって。 でも話すこともなかったし、千穂の目的も未だに分からないし。 だから聞いてみた。 なんであの時、千穂は「別れよう」と告げたのか。








「……怒ってる?」

「いや、知りたいだけ。 今しか聞けない気がした」


「そっか……」 そう言って、千穂は俯いた顔を上げてこちらを向いた。 その表情は、どこか覚悟を決めたように見えた。



「……迷惑かな、って思った。 ほら、高校は別々になっちゃったし、距離が離れちゃうな、って思って。 それに透だって、高校生になればまた新たな恋が出来るよなぁ、とかも思って……」


「それだけ?」

「え?」

「そんな、自分は彼氏のこと考えて行動したんだ、みたいな偽善が理由なの」



だとしたら、俺の今日までの時間はなんだったんだよ。







意味が分からなかった。 突然別れを告げられて、呼び止めても「ごめん」しか言わないし。 俺が千穂を好きって気持ちが、そんなんで冷めるわけがなかった。 高校入っても引きずって、彼女作る気にはなれなかった。 一回好きになった気持ちは、そう簡単には冷めない。 それを俺は高校3年間でなんとか冷ましたんだ。 お前とどこかで会った時、未練なんて残しておきたくなかったから。


それなのになんだ、そんな理由で俺と別れて、それでお前は好きな人と結婚すると。はは、俺は咬ませ犬ってやつなのかな。




「と、透?」

「……はは。 女って、怖いな」



俺はそう言って、立ち上がった。 もう話すことはない、というか話せる心境じゃない。もう目の前の女性は、俺が好きだった彼女ではない。 別の男と結婚する、ただの知り合いだ。



「透、待って!」



歩き出す俺を千穂は追いかけてくる。 それでも俺は止まることはない。 ついてくるな、話すことはもうない。



「と、透。 ご、誤解だから! そういう意味じゃないって!」



うっとおしいな。 素直に、そう思ってーー 俺は立ち止まり、千穂に告げた。




「あの時の約束も。 お前にとってはもういらない過去なんだろ?」


「え……」



「さようなら。 お幸せに」



その言葉に、千穂は固まる。 それを確認し、俺は歩き出した。 もう、会うこともない。 あの場所に行くことも、これで理由がなくなってしまったな。


俺の初恋は、5年経って、ようやく終わりを告げたのだ。




§






「忘れる、わけ……ないじゃん」



遠ざかる背中を見つめながら、私の涙は止まることが出来なかった。





§








14歳の少年と少女は、約束を交わしました。


二人が大人になった時、この桜の木の下でまた会おうと。


未来の自分たちにメッセージを送ろう。 少女がそう言ったので、二人はタイムカプセルを埋めました。


中には二つの手紙。 それを桜の木の下に埋めました。







大人になった少年は、一人その場にいました。 約束した少女の姿はありません。


少年は、1人タイムカプセルを掘り起こしました。 古びた箱を取り出し、蓋を開けると。


『透へ』 そう書かれた手紙を手に取り、中身を取り出しました。





『ずっと一緒にいますか?』



過去からの質問に、少年は涙を流しました。







それからしばらくして、大人になった少女もやって来ました。 少年の姿はありません。


どこか悲しそうな顔をした少女は、少年と同じようにタイムカプセルを掘り起こしました。



『千穂へ』 そう書かれた手紙を取り出し、中身を取り出しました。




『幸せにする』




過去の少年からの手紙。 少女は、少年と同じように涙を流しました。








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