4:5あまり1の男の子
「ゴメンですむなら警察はいらないから!」
君の口癖、好きだった。
§
高校2年の秋、君から告白された。 女友達、そんな感覚だったから俺はすごい混乱した。 仲は良かったけど、そんなそぶりは無かったし。 それに俺も恋をしたことはあるけど付き合ったことなんてなかったし、告白されるなんてなおさら経験なかったからさ。
だからすごい驚いたけど、すごい嬉しかったから即オッケーだった。 初彼女なんて浮かれてた。
付き合ったって言ってもお互い態度なんてあまり変わらなかったね。 でも確実に、二人だけの時間は増えていったね。 二人で帰ったり、どこかに行ったり。 そんな時間が大切で幸せだった。
俺が待ち合わせに遅れちゃって、笑ってごまかして。「ゴメンゴメン!」 なんて言ったら君は「ゴメンですむなら警察はいらないから!」って。 怒ってるんだけど、許すつもりの怒り。 そういう風に見えてすごく可愛かった。
こんな風に続くと思ってた、君との時間。
§
「別れよう」
高校3年の秋、君との時間が1年を過ぎた頃に、君は別れを告げたね。 俺は君に告白された時以上に混乱した。 突然だった、まるで今までの時間が一瞬で無くなったような気がした。
俺は頭良くないからさ、それが冗談とか思っていた。 ドッキリとか、そんなんだって思った。 正確には、無理矢理思い込んだ。
「いやいや、意味わかんないし」
無理しておどけてみた。
でも今考えれば俺はやっぱバカなんだと思う。 どこかで、別れは俺から告げない限りあり得ないと思ってた。 君から告白したんだ、君が俺のことを好きなんだって。 経験ない俺は天狗になってたみたいなんだ。
だからこそ、気持ちを強くできなかった。好きって気持ちを表現したり、言葉にしたり。 俺の気持ちは、君と仲良くなった日から減ることもなく、そして増すこともなかったんだ。 そんなことしなくても、いいと思ってたんだ。
それが、君を不安にさせたのかなって、今は思う。
「ごめんね」
君は俯いて、小さな声でそう言った。
「ゴメンですむなら警察はいらないって!」
あくまでおどけてみせた。 ホントにバカだよな、俺は。
「うん、ごめんね……」
君の決まり文句をマネした。 そうすれば、また二人で笑えるかなって。 認めたくない気持ちは、藁にもすがる思いだった。 でもね…… 君のあんな顔、それ以上見てられなかったから。 だから俺は別れを受け入れた。
§
君との時間を思い出してた。 それを思い出させたのは、君自身。 俺は夜空を見上げて一人呟いた。
「ゴメンですむなら、警察はいらない」
届いたメールを読み返す。
遅くにゴメン。 明日の朝、東京に向かいます。
さっき届いた、君からのメール。 君は東京の大学に進学すると聞いてはいたので、驚きはしなかった。
「がんばれ。」 打ち込んだ文字を送信しようとして、指が止まる。
これを送れば、君は過去になる。 いつかまた会えた時に、笑って話せる思い出になる。
「それじゃダメだろ」
一人呟いて、送ろうとしたバカな言葉を削除した。 これで終わり、そんな風に綺麗にできる程俺は大人じゃない。
今も変わらずバカだ、お調子者だ。君と付き合ってた頃と変わらない。 でも君への気持ちも変わってない。 むしろ、あの頃よりも……
不安にさせたなら、何度でも謝る。 だからまた「ゴメンですむなら警察はいらない!」なんて言って、笑ってほしい。 だってさ……
「ゴメンですむなら、涙はいらなかっただろ」
別れを告げた君の泣き顔を、俺は思い出していた。




