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10÷2≠5  作者:
2/17

1:9の女の子





「いやいや、ありえないから。」



飲み干したジョッキをテーブルに置き、右手を顔の前でブンブンと振った。



「えー? 全然ありでしょ?」



香奈はどこか納得行かない様子で冷奴を頬張っている。



「だってさ、10こ違うんだよ? 無いでしょー」

「いいじゃん、年の差。 最近流行ってるよ?」

「流行りとかじゃなくてさぁ…… あ、すいません。 同じの一つ」



香奈の意見を否定しながら、私はビールのお代わりを頼んだ。





仕事終わり、同僚で親友の香奈を居酒屋に誘った。 理由は一つ、恋愛相談。 私は今年で32歳、独り身歴が大学を出てからだから……10年程経っている。 そんな私に今、春がやってきているようなのだ。





「えー、村田くんはいーい物件だと思うけどなぁ。 真面目だし、まだ新人だけど覚えは早いし、なにより若い!」

「そー! そこでしょ1番の問題は!」



私は届いたビールを片手に香奈を指差す。そう、若いってのが問題なんだ。 そこが一番の壁なんだ。


「確かにね、真面目で一生懸命だよ。 その…… 私に対する気持ちもホントだと思うし、嬉しいけれど」

「だったらいいじゃん、断る理由なんてないじゃん」


「だーかーらー! 私32よ⁉︎ 村田くんまだ22歳! 10こも離れてんのよ⁉︎」

「だからぁ、年の差流行ってるって」


香奈はめんどい、と言った表情で今度は焼き鳥を頬張り始める。 私はなんだか悔しくてジョッキを一気に飲み干した。



「……ぷはぁ! あのね、10歳差よ、10歳! 分かる? つまり私が20歳の時まだ村田くんランドセル背負ってたのよ⁉︎ ダメでしょ、そんなのが恋愛になっちゃ!」

「別に〜? 今はお互い大人なんだしいいでしょ?」

「そ、そうだけど……」



だって10歳だよ? 一回り上ってことでしょ? だって要するに村田くん平成生まれってことでしょ? わ、私は昭和なんですよ? これだけで年代差を感じちゃうじゃん!



あれこれ考えて私は頭を抱えた。 そんな私に、ため息まじりに香奈は口を開く。



「真由、あんた彼氏いない歴何年?」

「……約10年」

「付き合った人数は?」

「……高校と、大学で一回ずつ」

「男性経験は?」

「……大学の時、酔った勢いでホテルに行ったことはある……らしい。でも記憶無いから確信は持てない。」



質問責めを終え、香奈は再びため息をーー 今度は先程より大きくついた。



「あのね、あんた少しは焦りなよ」

「あ、焦ってるよ!わ、私ももうアラサーだし……」

「焦ってないでしょー! 30過ぎたら結婚だの家庭を持つだの考えるの、普通は! それをあんたは恋愛するかしないかでウダウダと!」

「で、でもお互いの気持ちとか、大事でしょぉ……」

「そんなイチャついた恋愛をまだできると思ってんのかぁ! そんなんする暇ないわ、チャンスがあるなら掴み取って死守して旦那ゲットよ!」

「そ、そんな夢のないこと言わないでよぉ……」

「夢見たければネバーランドにでも行きなさい! 現実戻る頃にはヨボヨボの肌カッサカサになってるから!」




香奈はそう言ってジョッキを一気にからにする。 確かにね、そんな選べたりする歳でもないし、世間体とか親を安心させるとか色々あるのは分かるんだよ。 でもね、私だってさぁ……



「好きな人と、結婚したいよ……」

「だから村田くんでいいじゃん」

「だ、だからあれは一方的に!」

「理想通りでしょ、あんたのことを! 好きな人と結婚できれば」

「できれば……お、お互い好きでいたいなぁ……」

「なーにを学生みたいなこと言ってんのあんたは! 世間じゃ私らはもう『おばさん』の部類に片足突っ込んでんのよ⁉︎夢より現実見なきゃいけないの」




おばさん…… そうなのかなぁ。 まだ『お姉さん』くらいに踏みとどまれてると思うんだけどなぁ。 枝豆をものすごいスピードで食べる香奈を見ながら、一人物思いにふけってみる。 すると、テーブルの上の携帯が鳴り画面が明るくなった。 ……今話していた、村田くんからメールが届いた。



「村田くん?」



枝豆を食べるスピードを落とさぬまま、香奈の目がまるで獲物を捉えるかのようにギラギラしだした。 私は少しビクビクしながら小さく頷き、メールを開いた。




『お疲れ様です。 今度の日曜日、もし予定がなければ二人で何処かに行きませんか?』




真面目な文面、ただ内容はど直球すぎる。 れ、連絡先教えてまだ一週間程ですけど。 い、いきなりデートのお誘いですか…… さ、最近の若い子は即行動なの?



「なに、村田くんからお誘い?」

「え⁉︎ いや、その……」

「……あんた、本当恋愛経験少ないのね。そんな男からの誘いで顔真っ赤にするなんて」



香奈に言われて、咄嗟に顔に手を当てる。熱い…… わ、私今すごいドキドキしてるよ!



「こ、これはお酒のせいでーー」

「はいはい。 そーかぁ、村田くん意外とグイグイくるタイプなのかぁ。 大人しそうなのにねぇ」

「か、香奈ぁ。 他人事だと思って……」

「だって他人事だし」





ひどい。 親友が悩んでるのにそれはないんじゃないかな! なんて言ったところで香奈に口で勝てるわけないし。 正論を突きつけられて負けちゃうだけだ。



「でも…… いきなりデートはなぁ」

「いいじゃない。 言ったでしょ、チャンスは掴み取れって。 それにそこから村田くんの良さが見えてくるかもしれないしねぇ」

「そ、そうかな」


「てか、このチャンス逃したらマジで婚期逃す可能性高いからさっさとオッケーと返信しろ」




そ、そんなこと…… あるのかなぁ。




私は村田くんへ返信し、テーブルに身体を預ける。 恋愛、かぁ……







赤松 真由、32歳。 10歳年下の後輩くんに、なんだか好意を抱かれてるようです。




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