(10):0⇔5:5 の男の子
携帯電話の着信音。 表示された名前に僕の心臓がトクン、と脈打つ。
最近全然会えてない、そんな風に君は悲しそうな表情をする。 そんな顔、僕に見せちゃいけないんだって。 君を心配する気持ちは、いつからか淡い恋心になっていた。 君が大事な人を想う心を、視線を。 こっちへと向けたくなってしまった。
朝まで付き合ってと吹っ切れたように言う君。 聞かされるのは、僕にはなんの繋がりも無い彼の話ばかり。 それを僕は、ただ聞いてあげることしか出来ない。 泣いて、辛い顔をして、それでも君の気持ちは変わらない。
もう我慢するのはやめなよ。 辛いなら、僕が全部受け止めるから。 そう言えたなら、君を楽にしてあげられるのかな。
君は今目の前にいるのに、その手を掴む勇気は出なくて。 怒ってる顔なんて、彼との距離が離れるなら見ていられる。 泣いてる顔だって、僕との距離が近づくならむしろ見たくて。 トン、トンと音を立てて君への気持ちは積み重なり、 積み重なるほど切なくなる。
本当の気持ちは、君を愛してる。 でも伝えてしまったら、きっと全て無くなってしまう。 君が何処かへと消えてしまいそうで。 僕が涙を流す訳にはいかない、だから今は君の側にいさせてください。
君が泣きながら僕の部屋へと来た。 目を真っ赤にして、大声をあげて泣き止まない。
僕なら、こんな顔させない。 君に辛い想いなんてさせない、涙なんて流させない。 だから…… その瞬間、抑えていた気持ちは溢れ出した。
§
夜が明けて朝日が差し込む。 今日が始まる、明日にはもう戻れない。 横で子供のように眠る君。泣いてる顔や、辛そうな顔しか見たことがなかったから、綺麗だな、そう思えた。
こんな顔を眺められるのも、あと数時間だ。 君が目覚めれば、終わってしまう。 君が笑顔で目覚められるように、代わりに僕が泣こう。 君には笑っていて欲しいから。
眠る君の髪を優しく撫でる。 これが最後のわがままだから。
押さえ込んでいた気持ちを吐き出すように、僕の頬を涙が伝う。
これが君に伝えられなかった、僕の涙なんだ。