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10÷2≠5  作者:
14/17

0or10?: 1 の女の子






「あ……」


偶然触れた手に、似合わないけどドキッとした。 思わず手を引っ込めてしまう。


「えっと、どうぞ!」

「いえ、そちらが先でしたので。 すみません、僕もよく見ていなかったので」



そう言って、最後のプリンを私にくれた。 その表情は優しい物で、思わず見惚れてしまった。



「あ、ええと…… じゃ、じゃあ。 い、いただきます」

「この場で食べるんですか?」

「え⁉︎ あ、いやそのそういう意味じゃ!」

「…… ぷっ。 分かってますよ、ちょっと意地悪でしたね」



今度はイタズラっぽい笑顔。 再び私は見惚れてしまった。



こんな出来事が、彼と私の初めての出会いだった。








§







男勝り、そんな風に言われるくらい私はガサツというかなんというか、とどのつまり女子力が底辺である。 女の子らしくすれば可愛いのに…… なんて学生時代は言われたものだ。めんどくさいの一言でかわし続けたのを今では後悔している。 しかし、当時の私にとっては男だの付き合うだのが心底どうでもよかったのだ。



夢があった。 そして現在それを実現出来た。 声高らかに、私は夢を叶えたと叫べるのだ。 イラストレーター、響きが好きなんだ。 なにより自分の作品が世の中のちょっとした一部分になる。 そう考えただけで幼い私の心に火がついた。 そして今まで頑張って来たのだ。



まぁ実際、収入と生活スタイルの不安定さは否めないが、それでも好きなことを仕事に出来たのだから気にはならない。 そんな私も、もうすぐ27歳。




周りに変化が起こり始めている。 親しい友人は結婚をちらつかせ、中には子供まで……な近況。 そんな中「未奈子はどうなの?」と言う友人の質問にぎくり、とするようになった。




どうなのかと聞かれれば。 一人暮らしの独身女、洗濯物は溜まったらやります、掃除も落ち着いたらやります、仕事が来たら徹夜です、1日くらいお風呂入んなくても死にはしません。 ご飯は…… コンビニ行けばありますから。



そんな『女の子』らしさを経験してこなかった私に、最近転機が訪れているのかもしれない。




彼と会うのは、夜のコンビニ。



「こんばんは」

「こ、こんばんは」



挨拶だけでもなんだか緊張する。 男の人と話すことなんて、連絡事項くらいのものしか経験無いので…… これくらい世の女性達は平気なんだろうか、少なくとも私はなんかドキドキするんだよ。



挨拶をして、それからは…… お互い別行動。 そりゃそうですよ、他人と顔見知りの境目くらいの関係だし。 でもちゃっかり目でおったりしてみたり。 彼の前でお酒買うのはNGだなぁ…… と勝手に思って我慢してみたり。なんでかな、って。 自分でもよくわからないんだけど。 このコンビニの中じゃ、私の行動は彼に押さえつけられてるんだ。 そんなこと、彼が知るはずもないけれど。 それでも、ここに来れば彼に会える。 それだけでなんだか嬉しかったりするんだ。






§








今日は特別な日なので、依頼された仕事に区切りをつけてコンビニへ。




「うそ。 無いし……」



ショックは大きい。 今日だけは絶対に食べたかったのだ。 大好物の、焼きプリン。 何で無いの、今日朝の占い水瓶座は3位だったよ? 『たまには自分にご褒美でもどうですか?』 みたいなこと言ってたよ? なに? この歳で占い信じちゃいけないの?



「こんばんは」



落ち込む私に、予期せぬ不意打ち。 見れば、いつもと変わらぬ彼がいる。 しかし、今は顔を合わせられない。 だって泣きそうだから。



「こ、こんばんは」


見られないように、顔を下げながら挨拶を返す。


「…… そんなにプリン、好きなんですか?」

「へ……」

「だって、泣きそうな顔してますよ?」



心配してくれてる。 その優しさが嬉しくて、我慢してるのが辛くなって。 声を必死に抑えても、出てくる涙までは止められなかった。



「え、あ、あの…… だ、大丈夫ですか」

「……じょうび…… なの」

「え、なんですか?」






「きょ、う。 たんじょうび…… なの。 わ、私の……」




途切れ途切れに、私は何とかそれだけ告げた。




§







コンビニから少し歩いたところにある公園、そこのブランコに二人で並んで座っている。



流石にあのままコンビニにいるわけにもいかなかったので(というかもうあそこ行けない……) 彼に連れられるままここへ避難した。




「……誕生日だったんですか」

「はい…… お見苦しい所をお見せしました。大変すみません」



落ち着いたあと、込み上げて来たのは恥ずかしさだった。 27の女がコンビニで泣くなんて…… しかもたかがプリンで。 いやでもね、今日はいつもと意味が違うというかなんというか…… 自分で言い訳してみても恥ずかしさは消えない。




「失礼ですが、おいくつになられるんですか?」

「……も、黙秘で」



心配してくれて、なおかつあの場から脱出させてくれたいわば恩人にこんなこと言うのは心が痛む。 でも…… プリン買えないで泣く30手前のおばさん、とか思われたくなかった。



「…… すみません。 女性に年齢を聞くなんて、失礼ですよね」




いや、全然ですよ! こんなガサツな生き物を『女性』扱いしてくれてるなんて本当頭が上がらないくらいですよ! でも…… その、色々複雑な心境なもので。




「あ、あの…… ち、ちなみに。 あ、あなたは、お、おいくつなんですか?」



なんだかズルイな私は。 相手の質問はノーコメントで、こっちが聞きたいことは聞こうとしてるじゃん。



「……僕ですか? 24歳です」



そんな意地汚い私の質問に、彼はあっさりと返答する。 24、24かぁ…… 3つ違い、か。




「そ、そうですか…… お、お若いですね」

「……と言うことは、少なくとも20代後半ってことですね?」

「え! な、なんで……」

「分かりますよ。 顔に出まくりですし」




そう言って、楽しそうに笑っている。 だから、なんだか悔しいけど許せてしまう。







こんな感じなの? 男の人に惹かれる、とか。 いわゆる…… 恋愛? ってものは。 経験ないから分からない。 帰ったらネットで調べてみようかな。








このドキドキする気持ちは、一体なんて表現するのかを。





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