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10÷2≠5  作者:
11/17

0+1:0の女の子






「中野先輩かっこいいよね〜、爽やか系って感じ!」

「あたしは小川先生かなぁ、こう…… 大人って感じで!」

「えー、佐野くんでしょ。 あのベイビーフェイスは母性本能くすぐるわぁ!」




大学の友達があれやこれやと理想のタイプのお話中。 そんな中、私は黙々とお昼を食べてる。 うん、やっぱここのエビフライは格別だね。




「ねぇねぇ、琴美はどういう人がタイプなの?」



唐突に話題を振られて、若干焦る。 タイプって、言われてもなぁ……



「えーっと…… 健康で、普通な人?」


「えー、何それ。 夢ないなぁ!」




ぐむっ。 夢がないとは失礼な。



だいたいですよ、世間はイケメンだの美人だの言ってますけども、私からしたらあれは努力の結晶なんですよ。 頑張って頑張ってああいう見た目になり、内面を磨き上げた人なのですよ。 だから見てなさい、アイドルやらなんやらがヨボヨボになったら絶対にボロが出るんだから! ……なんて、心の中で反抗してみる。



私はいわゆる恋バナが苦手だ。 中学生の時や高校生の時は、そりゃ周りが付き合うだ別れただので騒がしかったから私もしてみようかな、なんて考えた時期もあった。 いわゆる恋に恋する、みたいな感覚。


でも実際、周りを見てて私には向いてないって思っちゃった。 こまめに見た目を整えたり、誰から聞いたか分からない噂話を気にしたり、可愛さアピールしてみたり。 同じ女として「うわぁ……」と引いてしまった。 そのせいもあって、男に対しても偏見が出来た。


そんなつもりないのかもしれないけど、優しい態度の人に「アピールしてんのか?」と思ってみたり、賑やかな人に「アピールか?」 と思ってみたり。 「やっぱ女の子だね」なんて言ってくる人に「見れば分かるだろ?」などと思ってみたり。



そんな歪んだ考えを抱くようになった私の結論は「私、恋愛、無理」だった。 もう世の中の男女は全て仮面を被っている、猫被ってるとしか思えなくなってしまったんだ。





女子トークの場にいながらもはや蚊帳の外の私は、何気なく辺りを見回した。 ふと窓越しに目に止まった、外を歩く一人の男性。



「あ、矢崎先生。 ……あの人、ほんと男を捨ててるよねぇ」

「分かる。 絶対モテないよねぇ」

「この間先輩から聞いたけど、私服ちょーダサいらしいよ!」




なんて友達は言っている。 こういうのが嫌なんですよ。 別に皆が皆、人目を気にして生きてるわけではないでしょ? いいじゃん、ありのままで。 あの先生はあれでいいと思ってるんだから、他人が口出しすることではないでしょ!



……などと口に出せるわけもなく。 友達付き合いに慎重な私は、そんな言葉を最後のエビフライと一緒に飲み込んだ。





§






……早く帰りたい。 それが心からの本音。 大学終わってからの飲み会、俗に言う合コンである。 合コンなんて彼氏彼女欲しいやつだけでやってよ、どうせ数合わせでしょ! ……なんて言ったら残りの大学生活がぼっち確定なので言わないでおいた。




「琴美ちゃーん、楽しんでる〜?」



なんて、おそらく先輩である男性に声をかけられ自然と肩に手を回された。


ちょ、誰ですかあなた。 初対面でいきなり名前呼びとか引くんですけど。 なにちゃっかり手を置いてんの? え、なにもう知り合いの雰囲気出してんですか、笑えないんですけど。



「あの。 まぁ、それなりに……」

「えー、なになに琴ちゃん人見知り? かーわいいねぇ!」



人見知りではなく怪しい人にはついて行かないと教育を受けたものでして。


「あの、先輩。 その、あまり飲み過ぎない方が……」

「え? 心配してくれてんの? うっわぁ、琴ちゃん優しいねぇ! 惚れちゃいそう!」




とりあえず酒臭いから離れて。 そして惚れないで。 やめて、さっきから友達が不機嫌な顔でこちらを睨んでるから。 ハントしてる暇あるならあちらの肉食獣に手を差し伸べて。 そして残らず食べ尽くされて。





はぁ…… これだから恋愛ってのは嫌いだ。 アピールして、誰が誰好きとか気にして。 それに加えて自分のことしか考えてない。 他人の恋愛など知りたがるだけで結局は自分勝手に動く。 時には親友さえも利用して、牽制し合う。


疲れないの? いくら好きとはいえ、自分を着飾って良く見せて。 そんなの本当の自分じゃないじゃん。 ありのまま、本当の自分を見せれるって人を好きになるのが正しいんじゃないの?







§





二次会行くぞ〜! の掛け声を私は「明日もあるので」 と華麗に回避し、一人帰り道を歩いてる。 もう、あんな場でお酒やご飯が美味しく食べれるかっての! なんて腹を立てたからか、それに応えるように『くぅぅ』とお腹が鳴った。 ……何か買っていこう。 そう思い、私は近くのコンビニに寄ることにした。







「あれ? 安田さん?」



ふとコンビニの前で声をかけられた。 ……コンビニの光でうっすらとしか見えないが、見覚えのある顔だった。



「……矢崎先生、ですか?」

「ええ、こんなところで会うなんて、奇遇ですね」



なんて言いながら笑っている。 手にはレジ袋、ご近所なのだろうか。



「買い物ですか?」

「ええ、コロちゃんのーー 飼い猫用の牛乳をきらしてしまって」



確かに。 近づいてみて分かったが、所々猫の毛のようなものが付いてる。 ……てか、上下スウェットですか。 なんか毛玉物凄いついてるけど。 大丈夫なんですか、色々な意味で。



「安田さんはどうしたんですか」


自分の見た目など気にするそぶりも見せず、矢崎先生はそう言った。


「飲み会の帰りです。 コンビニ来たのは、小腹が空いたので……」

「あー、合コンですかぁ。 いいですねぇ、若いとは素晴らしいですね!」

「……矢崎先生て、おいくつですっけ?」

「ははぁ、今年で28歳です」




まだ若いうちに入るでしょ。 なんて考えて、私はなんとなくベンチに腰を下ろした。 それを不思議そうに見たあと、ニコリと笑って矢崎先生も隣に腰掛けた。



「私、合コンとか苦手なんですよ」

「それはまたなんで?」

「合コンって、要するに彼氏彼女作りの場じゃないですか。 そういうのってちょっと……」

「いいじゃないですか、若いうちに経験出来ることは沢山しておいた方がいいですよ?」

「……合わないんですよ。 なんかああやって、一生懸命自分磨きするっての。 ありのままの自分じゃダメなの? ってなっちゃって」




あれ? なんだか私、愚痴ってるように聞こえてるかな。 馴れ馴れしいかな…… でもなんか、矢崎先生話しやすい雰囲気だしてるからつい……ね。



「安田さん、今日は星が綺麗です」



矢崎先生はそう言って、上を見上げてる。 星? どうしたんですか急に。 そう思いつつも私も夜空を見上げた。


「確かに。 綺麗ですね」

「でしょ? ……いいじゃないですか、一生懸命になったって。 強く輝けばその分見えやすい。 自分を見つけて! ってアピールすることは大事だと僕は思いますよ?」

「……先生も、そっちのタイプなんですか?」


「いえいえ。 僕はそんな前に出れるタイプではないですから。 小さく光ってるだけで精一杯ですよ」

「じゃ、私とおんなじですね」


「はは、そうですね。 ……でも、それでもいいんです。 たとえ小さくても、光続けていれば誰かが見つけてくれます。 だからいつかーー」






「ありのままの安田さんを見つけてくれる人、必ず現れますよ」




そう言って、矢崎先生は優しく笑った。 その笑顔に、なんだかドキッとした。





「……毛玉だらけで言われても」

「いやぁ、猫と戯れるしか喜びのない独り身ですから」

「……ご結婚は、してないんですか?」

「いやぁ、なにせこんなんですからねぇ」

「……気になる人とかは?」

「いませんよ。 僕みたいなのを引き取る人なんて、果たして現れるかどうか」





現れますよ!




……って、なぜか言いかけて飲み込んだ。 ん? どうした私。 なんか変だぞ?





「さて、では僕はそろそろ帰ります。 コロちゃんが待っているので。 安田さんも、気をつけて帰ってくださいね」




そう言って立ち上がり、矢崎先生は歩いて行った。









……猫好き、独身、私服ダサくて、恐らく自分磨きもぶん投げてる。 そんな人に、一瞬だけドキッとした。



ああいうのが、私のタイプ? いやいや、まさかぁ…… でも、私のタイプって一体なんだ? 着飾らない…… 人?




「はぁぁ……」



ダメだ! 普段考えないこと考えると頭痛くなる! ……やっぱり私は恋愛向いてないわぁ。






夜空を見上げる。 無数の光が輝いてる。 その中に見つけた、隣通しの小さい光。





「いつか私にも、見つけられるのかなぁ……」





なんて言いながら、隣り合う小さな光を掌で包み込んだ。









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