10:0の男の子
笑った顔、それを見た僕はすぐに片想いになった。
隣のクラスの川田さん。 頭に乗ったお団子が可愛らしくてついつい目が行ってしまう。 たまに僕のクラスに来て楽しそうに友達と話す、そんな彼女を僕は眺めてる。
眺めてるだけ、ではない。 これも偶然の産物なのか、聞き耳をたてれる距離だから話の内容も聞こえる。 たわいのない雑談でも、僕にとっては重要になってしまう。
そんな僕が、彼女に認識されてるわけもない。 そもそも直接話したこともないし。でもしょうがない片想いなんだから。 一方通行の気持ちをばれないように必死に隠して、伝える勇気を蓄えてる。 でも実際、溜まっていくのは好きって気持ちだけ。 勇気なんてこれっぽっちも蓄えられないや。
きっとこの恋は10:0のバランス。 僕の気持ちが全部のまさに片方の恋。 彼女が僕に対して恋心を抱くなんて、現状有り得ない。
でもね、こんな気持ちになったのは君のせいでもあるんだけど、などと少し八つ当たりしてみても。 好きな気持ちは膨らむ一方。
どうすればいいのかな? 僕が勝手に作ったこの気持ちは、僕一人には重すぎる。 君を見るたび気持ちが高まって、今日も何も無かったって一人で落ち込んで。 だからね、君が半分持ってくれたらすごく嬉しい。 そしたら5:5で、公平でしょ? なんて。
片想いは、両想いになりたいんだ。 一方的じゃなくて、お互いの気持ちが合わさって恋になりたいんだ。 そんな夢くらい見させてよ、こんな気持ち背負ってるんだからさ。
§
雨音のする昇降口。 片手には一人分の傘。 視線の先には空を見つめる君がいる。
「古谷くん?」
聞き慣れた君の声。 聞き慣れない僕を呼ぶ声。 嬉しさと、驚きとーー 好きって気持ちが暴れ出して、必死に隠すよう僕は俯き持っていた傘を手渡す。
そのまま僕は走り出した。 何か言ったのかもしれない、でも聞く余裕なんてなかった。
古谷くん。
雨音の中、僕の頭には彼女の声がうるさいくらいに響いていた。