自問自答
結衣を遼に紹介して正しかったのだろうか。
バスケコートの前で自問自答するアユミ。
結果的に遼が見違えるほど、回復してくれたのは良かった。結衣にはとても感謝している。彼女にはアユミが持っていない天性の明るさがある。それが遼にもいい影響を与えたのだろう。けれどもそれは翻せば、アユミが遼に対して何も出来なかったことを意味する。遼のことは何でも理解してたのに、どうして立ち直らすことが出来なかったのだろうと。
アユミがバスケを始めたきっかけは、遼の一言だった。あれは高校の入学式の帰りだった。遼から声を掛けられて、アユミは遼と一緒に帰ることになった。そこでアユミは部活のことについて聞かれた。
「部活は何に入るつもりなの?」
「私?特に決めてはいないけど」
「決まってないのなら、バスケやらない?今、女子で募集をかけているんだ」
アユミは中学までバスケをやったことがなかった。なぜそんな自分に声をかけてきたのかわからなかった。
「どうして私をバスケに誘うの?一度もやったことがないんだけど」
アユミの疑問に遼は即答した。そして目が輝いた。
「球技大会でバスケをやったでしょう。あの時、井上さんのプレイを偶然見ていたんだ。それでこれはいけるんじゃないかって思った。だから井上さんをを誘ったの」
遼とアユミは当時、別のクラスだったのに、まさか見られていたとは。
「でもあれは遊びだったんだよ。たまたま活躍しただけで。私は上手くなんかなれないよ」
「大丈夫。君ならすぐに順応できるよ。この僕が言うんだから、間違いない」
太鼓判を遼に押されて、アユミはバスケを始めたのだった。元から遼のことは気になっていたから、遼に近づけることも動機の一つになった。
でも実際始めてみると、甘くはなかった。中学の時から活動してきたメンバーとは、明らかな経験差があった。上手くいかない部分は練習で補うしかない。ほぼ毎日アユミは遅くまで練習して、レギュラーとの差を縮めていった。 練習には遼も付き合ってくれた。彼は彼なりにアユミを誘った責任を感じていたのだと思う。アユミもその期待に応えたかった。
「短い期間で上手になったね。やっぱりアユミには才能があったんだよ」
遼は私のことを絶賛してくれた。順調に成長していく中で、そんなアユミを当然面白くないと思う人がいた。
「中学ではバスケしていなかったんでしょう。ちょっと古川に誘われたらっていい気にな
らないでくれる?」
先輩のバスケ部員からこんな感じで、陰口を叩かれた。そんな時は試合で見返してやるしかない。試合のときは全力でぶつかっていった。少ないチャンスをモノにしていくことで、アユミは中心選手へ上がっていった。
「キャプテン、まだ練習しているんですか?」
後輩がシュート練習しているアユミを見つけて言った。後輩は今レギュラーを取れるか、ベンチか当落線上にいる子であった。日頃からアユミはこの子の相談に乗っていた。自分がされたことを、後輩にはさせたくない。風通しをよくすることが、自分の役目であると考えていた。
「この間の全国大会は初戦で負けちゃったから。今度の大会はもっと上に行きたいでしょう。だから練習しているの」
「すごいですね、先輩。私、尊敬します」
「一緒に練習する?」
「いいんですか」
後輩は目を輝かせた。一緒にアユミとシュート練習を始めた。
「キャプテンは正確ですね。ほとんどシュートを外さない。それに比べて私は……。これではレギュラーは遠いですね」
弱気な後輩に、肩を叩いて励ますアユミ。
「私も最初はこんな感じだった。私が出来たんだから、あなただって練習すればうまくなれるわよ」
アユミの励ましにうんと頷いた後輩。アユミは彼女が納得するまで、練習に付き添った。