遼からのプレゼント
遼が退院してから二ヶ月が経った。
この間に結衣は驚異的な回復力を見せた。担当医が驚くくらいだから、相当なものだったんだろう。しかし結衣は何とも思わなかった。遼のバスケ姿を見たいのなら、これくらいのことは当然だと思っていた。だから治療も苦にはならなかった。
「恋の力って凄いのね」
「凄いんですね。僕も初めて知りました」
退院の準備をしている結衣を見つめながら、母の直子と和久が感心するように言った。
「でも和久くんにはお世話になったわね。あなたがいなかったら、あの子退院出来なかったかもしれない」
「いえいえ、退院できるのは結衣の力です」
二人は話していると、結衣が手招きして直子を呼んだ。
「ちょっと結衣が呼んでいるから。行ってくるわね」
この2ヶ月の間和久は、結衣が元気になっていく姿をじっと見続けてきた。それに刺激を受けたのか、和久自身の体調も夏頃に比べると、良くなった。自分はまだ退院することはできないけど、いつかは結衣のようになれたらと考えるようになった。
「よし、これで退院の支度は完了。いつでも出られるよ、お母さん」
「本当に信じられないわ、結衣ちゃんが退院できるなんて」
先程まで笑っていた直子が、嬉しさのせいか涙を流していた。そんな母親を見ていて、結衣も感動していた。確かにここまでの道のりは長かった。退院できるのは昨年の秋以来となる。
「今までお世話になりました。和久には随分励ましてもらった。感謝している」
「いいえ、こちらこそ。僕も結衣からたくさんのパワーをもらったからね」
二人がお互いに握手をした。
「またお見舞いに来るから」
「おう、頼むわ」
結衣は和久と別れを告げると、久々の外へ出た。爽やかな秋風が吹いていて、とても心地がいい。結衣は深く息を吸った。
これから始まる高校生活を考えると、胸が高まった。入院生活で遅れた分を、取り戻さなければならない。
「退院おめでとう。よく頑張ったね」
出迎えたのは、遼だった。てっきりバスケの練習と聞いていたので、結衣は驚いた。
「どうしたの?今日はバスケの練習じゃなかったの?」
「何言ってんだよ。結衣が退院するんだぜ。練習どころじゃないよ」
結衣は感激した。そのまま遼の胸に飛び込む。彼は温かく抱きしめてくれた。
「元気になって良かった。これで練習見に来れるようになったね」
「うん、絶対見に行くから」
二人の様子を、直子は遠くから笑顔で見つめていた。この状態がずっと続けばいいと、直子は思った。
「結衣に渡したいものがあるんだ。手を出してごらん」
遼の言うまま、結衣は両手を差し出した。
「これ、結衣にプレゼントするよ。君ならきっとお似合いだと思うんだ」
結衣の両手に手渡されたものは、赤のガーネットだった。ブレスレットになっていて、石がいくつか散りばめられている。
「パワーストーン?とても綺麗。私に似合うかな」
初めてプレゼントで装飾品を貰った結衣は、どこかフワフワとして浮ついていた。
「似合うに決まっているじゃないか。ところで結衣は1月生まれなんだよね?」
「そうだよ」
「ガーネットは1月の誕生石なんだ。この石にどんな意味が込められているか知らないけど、結衣に相応しいんじゃないかと思って選んだ」
遼は照れていたが、構わず結衣はまた抱きしめた。何よりの嬉しい退院祝いになった。