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 膝は順調に回復して、リハビリも始まった。ようやく松葉杖を利用して、ゆっくりではあるが歩けるようになった。ケガした時はもうバスケはできなくなるかと思ったけど、この調子であればもう少しでプレイ出来そうだ。遼に希望の光が見えてきた。

 

 しかし一方で、遼は退屈な毎日を過ごしていた。夜は眠れないし、日中はリハビリ以外やることがない。アユミが持ってきてくれたゲームや雑誌で時間を潰そうとしたが、すぐに飽きてしまうのだった。そして遼を不機嫌にさせたのは、結衣があれ以来会ってくれないことだった。何度かアユミを通じて、直子さんに頼んでみた。しかし結衣は首を縦に振ってくれなかった。


「向こうから会いたいって言ってきたのに、こちらがお願いすると会ってくれない。これは嫌われたのよ。もういい加減諦めたら?」

 なぜか遼と同様、アユミも不機嫌だった。

「もういいよ。連絡先はわかっているんだから、退院したら俺がコンタクト取るから。それで会ってくれないなら、諦めるよ」

「そう、無理だと思うけど。私はお手上げだわ」

 アユミは両手を挙げてみせた。


 しばらくして個室のドアを叩く音がした。誰か面会に来たのだろうか。遼は母の奈津子でないことを祈った。

 アユミがドアを開くと、そこにいたのは見知らぬ一人の男性だった。とても細くて、遼とは対照的な人であった。


「ここは古橋遼さんの部屋ですか?」

「ええ、そうですけど」

 遼の代わりに、アユミが答えてくれた。

「僕は荻野和久といいます。結衣のことで話に来ました」

「結衣さんのこと?」

 アユミが目を丸くして言った。

「中に入ってもらってよ。ぜひ荻野さんと話がしたい」

 遼は二人に聞こえるように、大きな声で話した。

「失礼します」

 荻野は個室へ入ってしばらくの間、遼とアユミの二人をジロジロと観察していた。二人は動物園で飼われている動物のようになった。やがて荻野は独り言のように呟いた。


「なるほど。結衣が嫉妬するのはわかる気がする。あまりにお似合いの二人だ」


「何か言いました?」

 アユミは聞き取れず、荻野に尋ねた。

「いいえ、別に。それじゃお話しますね。内容は簡単なことなんです。遼さんにお願いがあります。」

「何でしょうか?」

「結衣と会ってほしいんです」

 アユミが怪訝そうな顔をした。遼がそれを目で抑える。


「結衣さんは会いたくないって聞いたんですけど」

「それは結衣の本心ではないんです。彼女は恐れているんです」

「恐れている?」

「これ以上は言えません。とにかく結衣と会って、安心させてほしいんです。彼女は病気を患っているし、臆病になっているのかもしれません。僕の話は以上です。結衣と会ってくれますか?」

遼の答えはもちろんイエスだった。

「もちろん、それは約束します。膝のケガが治ったら、すぐにでも」

「良かった。安心しました」

 安堵した様子で、荻野は個室を出て行った。出て行った後、アユミが遼に話す。


「結衣さんって幸せ者だね。次から次へと彼女のために、人がやって来る。結衣さんは人を惹きつける力があるんだね」

「確かに。僕も彼女から勇気をもらったからね」

 アユミは自分ではなく、第三者の結衣が遼を立ち直らせたことに寂しさを感じていた。アユミは誰よりも遼のことを理解していたはずだったのに。


「さあ、リハビリ頑張るぞ!」

 遼が右こぶしを挙げる。それでも遼が立ち直ってくれたことが、アユミは素直に嬉しかった。

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