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怯える結衣

 アユミから遼が会いたいと報告を受けた直子は、さっそくこのことを結衣に伝える。

「さっきアユミさんから連絡があって、遼くんが結衣に会いたがっているらしいよ。もちろんOKでいいわよね?」

 結衣はPCで小説を書いていた。例の遼をモデルにした小説だ。


「断っておいてよ。私、今忙しいから」

「どうしたの、結衣。あんなに遼くんに会いたがっていたじゃない」

「別にいいじゃない。私は今、小説作りに忙しいんだから」

 結衣の意外なリアクションに、直子は面食らっていた。結衣に何があったというだろう。この間は楽しそうに会話していたのに。

「本当に断ってもいいのね?」

「いいよ」

 あっさりと結衣は言った。そしてこのことは直子を通じ、アユミに伝えられる。


「結衣さん、遼と会いたくないんだって。この間何かしでかして、嫌われたんでしょう。遼は女の子に冷たいところがあるから」

 まさかの拒否に、遼は呆然としていた。この間結衣と会ったことを、思い返してみる。何か失礼なことでも言っただろうか。いや、別にないはずである。言葉は慎重に選んで話したつもりだったのに。それが返って、彼女の気分を害してしまったのだろうか。


「特に何か気に障ることを言ったつもりはないんだけど。何がいけなかったんだろう」

「遼が悪いことを言ったと思ってなくても、女はそれを悪いと思うことがある。今回はたまたまそれに当たったんじゃないかな」

 アユミは解説してみせたが、それはアユミの解釈に過ぎない。一度結衣と会って話をしなくては納得がいかない。膝の状態が良くなったら、一度彼女と会いたいと思った。


和久が結衣の大好物のシュークリームを持って現れた。恐らく母が買ってきたものを、和久に渡したのだろう。彼は単刀直入に結衣に尋ねた。


「何があったんだよ、遼と」

「別に何もないよ」

「遼と会いたくないって言ったそうじゃないか。叔母さん、首傾げていたよ。突然だったからビックリしているみたい」

「ママが和久に話したのね。また余計なことを」

「心配しているんだよ。あれだけ遼のことが好きだったじゃないか」

「遼には素敵な女性が側にいるのよ。井上亜由美という最高な女性がね。私よりずっと遼のことを知っている。私みたいな今後どうなるかわからない女性が、アユミさんみたいな女性に勝てると思う?」

 布団を片手に、いじけるように結衣は話した。


「遼はアユミという人と付き合っているって言ったの?」

「ううん、そんな話はしていない」

「だったら諦めることはないと思うけど。今の素直な気持ちを遼に伝えたらいいんじゃない?」

「馬鹿なこと言わないでよ。もし振られたら、どうするの。私、立ち直れなくなってしまうよ。責任持てる?」

「心配しなくてもいいよ。その時はこの僕が支えてやるさ」

 胸をポンと叩いて、和久は言った。しかし結衣は空かした。一体どう話せば、結衣は理解してくれるのだろうか。


「私のことは放っておいて。とにかく今は遼と会いたくないの」

布団を被って、結衣は全身を隠してしまった。やれやれといった様子で、和久は結衣を布団越しに見つめた。

「結衣って男と付き合うの、初めてじゃないよな?」

「うん。高1の時に付き合ったことがあるよ」

「経験あるんじゃないか。だったらその時みたいに接すればいいじゃないか」

「あの時とは違うの。今回は大本命だからね。失敗は許されないの」

 ようやく顔だけ出して、結衣は答えた。


「大本命だったら、尚更トライしないと。一生後悔するぞ」

「もうしつこいな。会いたくないって言ったら、会いたくないの」

 ついに結衣はブチ切れてしまった。これ以上、和久は何も言えなかった。彼自身もこれ以上問い詰めて、結衣に嫌われては仕方がない。和久は説得を諦めた。

 

結衣は怯えていた。テレビや雑誌で見ていた遼は、結衣の理想の男性だった。彼の話す言葉やプレイに熱狂していた。ただそれは応援する側だったから、気楽でいられた。どうせ話も出来ないし、会うこともないと思っていたから。

 しかし遼が不意のケガで入院することになり、偶然病院が同じになった。そこで出会う機会が生まれた。実際会った遼は、結衣の理想以上の男性だった。とてもカッコいいし、話は上手だ。そして優しい。初めて会った結衣にも親切に接してくれた。

 結衣は以前にも増して、遼のことを好きになってしまった。だから正直怖かった。もし遼に嫌われてしまったら、どうしようと。

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