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 全国大会まであと2週間と迫っているというのに、アユミは練習に集中出来ずにいた。いつもは確実に決まるショットが決まらない。見かねた後輩がアユミの状態を心配した。


「先輩、どうしたんですか。今日の練習だって先輩らしくなかったですし」

 後輩に心配を掛けている。早く立ち直らないといけないのに、アユミはそれが出来ずにいた。それは間違いなくあれが原因である。

「私がしっかりしないといけないのにね。迷惑掛けてごめんね」

「そんなことないです。こんな時こそ私達が頑張らないといけないんですけど。それよりどうしたんですか?ケガでもされたんですか?」

 

 失恋したから調子が悪くなったと、口が裂けても言えない。自分が弱さを見せれば、チームは沈滞してしまう。だから何があっても、落ち込んではいけないのだ。


「心配しないで。これは私の問題だから。全国大会までには修正してみせるから」

「だったらいいんですけど。ケガでなければ安心です。もしかして恋愛ですか?」

 後輩がドキッとさせるようなことを言う。この子とはざっくばらんに話をしているるから、アユミの気持ちがわかっているのかもしれない。けれどもここで認めるわけにはいかなかった。


「私、恋愛しているように見える?」

「はい」

「そうか、そう見える?でも恋愛を部活に持ち込んではいけないよね」

「やっぱり恋愛ですか?」

 後輩が目を大きく開いて、パチパチさせて尋ねた。

「心配しなくていいよ。恋愛ではないから。ちょっと技術的な問題があるの。今はそこを修正している途中。だから心配しないで」

 話をぼやかしてアユミは切り抜けた。練習を終えて体育館を出て行くと、ちょうど練習へ向かう遼と出くわした。今一番会いたくない人である。


「練習上がり?」

「そう。これから走りにいくところ」

 アユミはすぐに立ち去ろうとした。しかし遼に呼び止められる。

「あのメールのこと気にしている?」

「……」

 アユミは答えなかった。しかし顔にはそうだとはっきり書かれていた。


「やっぱりそうなんだね。このタイミングであのメールを送ったのは悪いと思っている。僕が身勝手だったよ。けれどもアユミと仲違いするのは嫌なんだよ。バスケのことで相談にも乗ってほしいし、他愛のない話もしたい。これは僕のわがままなのかな?」

 遼の目は悲しそうだった。彼は嘘がつけない性格だから、困っていることは確かなんだろう。でもアユミにそんな余裕はなかった。

「私のことは放っておいて。遼の言い分はよくわかった」

 こう話すのが精一杯だった。結局アユミは遼と目を合わすことをしなかった。


 失意のアユミが救いの場として求めた場所は、和久の元だった。なぜかはわからないけど、自然と足が向いた。


「こんにちは」

 和久の病室を開けると、彼はベッドに横たわっていた。容態は以前と比べると、あまり良くないとアユミは感じた。けれども和久は笑顔で迎えてくれた。

「よく来てくれたね。最近誰も来なくなっていたから、とても嬉しいよ」

「橋本さんは来ないの?」

「来ないね。恐らく生活が充実しているからじゃない。いいことだけどね」

 寂しそうに和久は答えた。


「でも今日はアユミさんが来てくれたから、嬉しいよ」

「そう?こんな私でも役に立てるかな?」

「何を言ってるの。アユミさんはとても素敵な人じゃない」

 和久の優しい言葉に、不覚にも涙が出てしまった。それほどアユミの気持ちは弱ってしまっていた。

「何かあったの?」

「ちょっとね。今日はその話を聞いてもらいたくて、ここへ来たの」

 頼れる人は和久しかいなかった。アユミは今回の一件について、すべて話した。


「へえ、そんなことがあったんだ。自分も結衣のことを応援していたから、何とも言えなけど……」

 和久は複雑な表情を見せた。それを見たアユミがすかさずフォローした。

「私は話を聞いてほしかっただけだから。過去のいきさつは気にしないで」

 それでも和久は表情を変えなかった。今は結衣のことではなく、アユミの立場になって考えているからこうなってしまっていた。


「よくわからないですけど、アユミさんはどっしりしていればいいんです。うろたえる必要なんてないですよ」

「へえ?」

 すっとんきょうな声を挙げたアユミ。果たして和久の真意とは。

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