話し合い
和食レストランで結衣は遼と昼食を摂っていた。誘ったのは遼である。もちろん食事が終われば話し合いである。けれども食事の時くらいはゆっくりと食べたい。結衣は病院生活では味わい得なかった至福の時を迎えていた。
「おいしいね。今日はごちそうしてくれてありがとう」
「遠慮しなくていいよ。誘ったのはオレだし」
遼はほとんど手をつけていなかった。どうやら早く話がしたいようである。それでもお構いなしに、結衣は食べ続けた。
約20分の結衣の食事が終わり、いよいよ話し合いが始まった。結末はどうなるのだろう。二人にも予測出来なかった。
「あのプリクラはどういうつもりで撮ったの?」
遼から先に質問する。
「別に、深い意味はないよ。彼は友達の彼氏だし。遼だって女の子とプリクラ撮ることはあるでしょう」
「撮ることはあるけど、わざわざメールで送ったりはしない」
遼の顔が険しくなる。撮ったことより送信したことに、遼は怒っているようだ。
「それじゃ私も話すけど、遼はなぜアユミさんとTDLに行ったの?」
「それは入院の時にお世話になったからさ。約束もしていたしね」
何のためらいもなく、遼は言ってのけた。結衣のジェラシーが高まる。
「行ったのはいいとしても、それをわざわざ私に報告する必要はあるのかな?楽しそうな遼を想像すると、私は切なくなるの」
ストレートな思いをぶつけよう。話し合いの前に、結衣はそう決めていた。
「そんな風に取られるとはね。それじゃ僕はアユミと会ってもいけないし、会話したりすることもできないんだね」
机を叩いて怒りを表す遼。ここまで不機嫌な遼を見るのは初めてだった。訪れた沈黙。しばらく二人は、行き交う人々の群れを見つめていた。
しばらく経って沈黙を破ったのは遼だった。
「悪かった。ちょっと言い過ぎた」
反省を見せた遼に結衣も謝る。
「私も言い過ぎた」
「結衣の気持ちも考えないで、あんなメールを送ったのは悪いと思う。僕の配慮が足りなかった。でも本当に好きなのは結衣なんだ。僕が一緒にいたいのは君だ」
結衣の気持ちが一気に晴れた。雨の後に掛かった虹のように、心が晴れやかになる。この言葉を待っていたのだと。
「正直私もアユミさんの存在に嫉妬していた。彼女は私よりも遼のことを知っているから。でも今日その言葉を聞けて嬉しい」
ガーネットのアクセサリを掲げた結衣。遼も笑顔になる。
「そのアクセサリ、ずっとつけてくれているんだ」
「当たり前だよ。これは私の守り神なんだから」
結衣は幸せを噛みしめていた。本音で話し合えて良かったと思った。けれども遼はこの一言も付け加えた。
「でもアユミと話すなという制限は付けないでほしい。彼女は大切な友人の一人だし、バスケ部のパートナーでもある。結衣の気持ちはよくわかったから、これから行動には気をつけるよ」
遼が一つの結論を提示してくれたことで、結衣の気持ちは軽くなった。これからは自分が遼を支えてあげよう。足を引っ張らないようにしなくてはと。
※
TDLデートからわずか二日足らず。アユミの気持ちを凍らせるメールが、遼から送られてきた。内容を数行読んだだけで、アユミはすぐに消去した。わかっていたことなのに。この行動は自分でもビックリだった。わずかな可能性に掛けていたんだろうか。何か重要なことが書かれていたのか知らないけど、最後まで読むことは無理だった。TDLのデートが楽しかっただけに、落胆が大きかった。