気の合う二人
遼がずっと看病してくれたおかげ?でアユミは二日間で退院することになった。そして退院する時に、会っておきたい人がいた。それは和久だった。
アユミは和久と会った時から、親近感を持っていた。まだ直接話したことはないけど、どうしても会って話をしたかった。遼には待合室で待機してもらうことにして、アユミは一人で和久の病室へ向かった。
「こんにちは」
あらかじめアユミが来ることを知らされていた和久は、歓迎の面持ちで迎えた。
「よく来てくれましたね。ずっと話をしたかったんです」
和久もアユミと話をしたいらしく、間髪を置かずに話が始まった。
「病状はどうなんですか?」
「一進一退だよ。良くなったり悪くなったり。こればかりは自分ではどうしようもない。やりたいことがたくさんあるし、結衣みたいに元気になれればいいんだけど」
「早くよくなるといいね」
アユミは滑らかに言った。彼女はとても話しやすい人だった。
「僕も一つ質問していいですか?」
「何なりと。答えられることなら何でも答えますよ」
「じゃー聞くね。アユミさんは結衣のこと、どう思っている?」
想定した質問と違って、アユミは焦った。
「結衣さん?とても可愛い人だと思う」
「それ以外に何か印象はない?」
熱心に和久は尋ねてくる。確かに結衣のことは気にならないといえば、嘘になる。けれども和久はどうして結衣に関心を持つのだろう。
「ストレートな人じゃないのかな。和久くんはどう思う?」
「僕も見解はアユミさんと同じです。結衣はストレートな人間であると思います」
意見は一致した。二人で話しているのに、結衣のことについて熱く語っているのは妙なことだった。
「和久さん、結衣さんのこと好きなんだね」
「えっ、どうして?」
「だって顔に書いてあるもの」
和久は一気に顔が赤くなってしまった。
「確かに結衣さんは可愛いもんね」
他人事のように話すアユミに和久は驚いた。アユミにとって、結衣は邪魔な存在にならないのだろうか。遼が和久にとってそうであるように。
「アユミさんは遼のこと、好きではないんですか?」
「えっ、私?」
こちらは驚いたような顔を見せた。意外な反応に、和久が面食らった。
「僕はてっきり遼とアユミさんの二人は交際しているのかと思っていた」
「何言っているんですか。私達、付き合ってなんかないですよ」
アユミは和久の右肩をポンと強く叩いた。彼女は笑っていた。顔を真っ赤にした和久とは対照的だ。
「遼は私のことどう思っているか知らないけど、今は私の片思い」
率直な想いを吐露したアユミ。和久はウンウンと頷いた。
「告白はしないんですか?」
「そうね、今はしない。バスケに集中したいから。和久くんはどうなの?」
「僕は無理ですね。体調がこんなだし。それに結衣は僕のことを兄のように考えているんです。僕を恋人して扱ってくれるかどうか」
照れくさそうに話す和久。和久と結衣はお似合いであると思うが、彼女は遼のことで頭がいっぱいのようだから難しいのだろう。
「和久くんって本当にいい人だよね。困っている結衣さんを、助けてあげたりしているし」」
「結衣のこと考えたら、じっとしていられなかったんです」
「いいなあ、そういうの」
このまま二人で話を続けようと思えば、ずっと続けられた。しかし待合室では、遼が待っている。
「またお見舞いに来るから、お大事にね」
「ありがとう」
二人は手を振って別れた。
アユミが待合室へ行くと、遼がスマホでサッカーのゲームをしていた。随分待たされたから、退屈したのだろう。
「荻野と何の話をしていたんだよ」
「さあ何でしょう」
「あいつと俺も話がしたかったな。結衣のことで聞きたいことがあったのに」
「人に頼るな。あんたが結衣さんに聞けばいいことでしょう」
アユミは遼の腕を掴んで、組んだ。自然に出た行為だった。
「今度のデート、楽しみだね。どこへ連れて行ってもらおうかな」
束の間の幸せな時間を、アユミは楽しんだ。