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約束

目覚めた時、アユミは病院のベッドの上にいた。傍には遼が付き添ってくれていた。遼が入院していた時と、全く逆の立場になった。


「私、どうしたの?確かコートに立っていたはず……」

「試合の途中に倒れたのさ。だけど心配することはないよ。医者が明日には退院できるって言っていた。今晩はここでゆっくりすればいいよ」

 目覚めたアユミは重要なことを思い出した。


「ところで今日の練習試合はどうなったの?私、後半の記憶がない。それに遼は?」

「試合のことはいいからさ。キャプテンとして色々と疲労が溜まっていたじゃないか。今晩くらいはバスケのことを忘れて、ゆっくりしないか」

「そ、そうだね」

 遼の言葉にアユミは冷静になる。今日は遼に甘えて、ゆっくりすることにした。


「一つ提案があるんだけど、聞いてもらえるかな?」

「うん、どうしたの?」

「この間の入院生活では、とても世話になった。まだそのお礼が出来ていないと思うんだ。もし良かったら、そのお礼がしたいんだけど」

 思わぬ遼の提案に、アユミは目を大きくさせた。

「いいの?本当にいいの?」

「もちろんさ。二ヶ月もの間、お世話になったんだぜ。何もしないわけにはいかないよ」

 叶えることが出来る範囲で、遼は何かしてあげたかった。


「それじゃ買い物に連れて行って。デートがしたいの」

「デートですか……」

 遼は閉口してしまった。確かに二人きりで出掛けたことはあまりなかった気がする。半年くらい前に確か友達に急用が出来て、一緒に映画に行ってもらった記憶がある。遼からは誘ったことはない。

「ダメかな?」

「いや、ダメってことはないよ。よしわかった、スケジュール合わせて買い物へ行こう」

「やったあ」

 病院に響き渡るような声で、アユミは喜んだ。


「そんな大声を出すなよ。ここは病院なんだから」

「ごめん。デートの日を楽しみにしているからね」

「おお、任しとけ。アユミの好きそうな所に連れっていってやるからさ」

 遼の頼もしい姿に、アユミは感心していた。断れるかもと思ったが、言ってみて良かった。今日の試合は不運だったけど、たまには休養もいいものだと思った。



 和久は夕食を食べ終えて、一眠りしていた。最近の容態は一進一退を繰り返している。状態がいい時は外を歩くことができるが、悪い時は一日中ベッドの上にいることもある。和久は不安な毎日を過ごしていた。


「ねえ、起きて。大切な相談があるの。ぜひ聞いてほしいんだけど、ダメかな?」

 誰かが和久を遠くから呼んでいる声がする。その声に呼応しようとする和久の意識。夢から現実へと叩き起こされる瞬間である。

 朝多くの人が目覚めるのと同じように、むくっと和久は起き上がった。割と目覚めはいい方だと思う。目の前には結衣がぽつんと立っていた。


「ビックリさせてごめんなさい。今日はどうしても和久に聞いてもらいたいことがあって」

「遼のことか?」

 結衣は首を縦に振った。和久はやれやれといった表情を見せる。


「うまくいっているんじゃないの?」

「どうなんだろう。うまくいっていると思っていたけど、そうでもなかったみたい。私の勘違いだったのかも」

「どうして?」

「アユミさん過労で、この病院に運び込まれたの。どうやら状態は問題ないみたい。元気そうな声で話していたし」

「盗み聞きしていたの?」

「変なこと言わないでよ。盗み聞きなんかしていない。今日は和久のお見舞いも兼ねてきたのに、そんな風に言われるなんて」

 アユミは憤慨していた。けれども今日の和久は優しくしなかった。


「アユミさんが入院したんだから、遼が見舞いにくるのは当然だろう。相談に乗って損した。別に大したことないじゃないか」

「えっ、大したことない?」

 和久のクールな対応に、結衣は面食らっていた。


「もっと重要な相談かと思っていた。今日は疲れているんだ。あまり話したくない。用がないなら、帰ってもらえるかな」

 さらに突き放すような和久の態度に、結衣はさすがに怒りが込み上げてきて……

「もういいわよ。私、帰るから」

 ドアをパンと締めて、結衣は帰っていった。和久はやれやれといった様子で、部屋の天井を見つめた。


「あれじゃアユミさんに太刀打ち出来ないな。僕が甘やかせ過ぎたかな?」

 まるで兄のような気分になっていた。結衣は自分に振り向いてくれそうにない。なら結衣のために突き放してみるのもいい。そうすれば彼女は何かを考えるだろう。和久は寂しさを感じながらも、結衣に期待していた。

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