表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/44

憧れの人

『古川遼、ケガで県大会絶望』


 今朝のスポーツ紙を読んでいた結衣は、この記事を見つけて唖然とした。すぐさま母の智子に尋ねる。

「ママ、これどういうこと?」

 智子は昨日、古橋遼が出場していた試合を観戦に行っていたはずだ。だからこのケガのことは既に知っているはずだ。

「ごめんね。私の口からは言えなかった」

「そうか。私に気を遣ってくれたんだね。それにしてもバッドニュースだね。こんな大事な時に……ショックだな」

 応援していた遼のケガに、結衣は落胆した。


「ケガの具合はどんな感じだった?」

「膝をケガしたみたい。担架で運ばれていた」

「それじゃしばらく入院だね。可哀想だな」

 長い療養生活を続けている結衣にとって、遼の活躍は一つの楽しみだった。


「ママ、ちょっと外に出たい」

  ブルーになった結衣は気分転換がしたくなった。外の空気を吸ってみたくなったのだ。

「いいわよ。連れてってあげる」

 ベッドから車椅子に乗り換えて、病室を出て行く。今は体調が優れなくて車椅子だけど、調子のいい時は歩ける。結衣は早く体調を良くして、高校生活へ戻りたいと考えていた。


  一階に下りて、外来の人が多く集まる総合受付へやって来た。外へ出る時、結衣は必ずこの場所に立ち寄る。笑っている人、くたびれている人、そして落ち込んでいる人、様々な人間模様を見ることができる。


「結衣はこの場所が好きね」

「病院で人が集まっている場所は、ここしかないから。ここへ来ると、創作意欲が沸いてくるの」

「そうなの。それはいいことね」

 今朝も結衣は人々を観察していた。もちろん病院なので年老いた人が多いのだが、中には小さな子供もいる。結衣と同じ年齢くらいの人もいる。その人達を見ると、なぜこんな場所にいるのだろうと、想像してしまう。


「あれっ、どこかで見覚えがある人がいる」

 母の声に、結衣は視線を送る。確かに結衣も見覚えのある人物である。背が高くて、スラッとした後ろ姿。あの人物は紛れもなく……


「古川遼じゃない」

 結衣と智子が声を合わせて叫んだので、受付にいた数十人が二人を訝しげに見た。ここは病院である。二人は係員に注意を受けた。


「古川遼、ここへ運び込まれたんだ」

「ひどい様子だったね。包帯グルグル巻きだし」

「可哀想ね。これから大事な試合が続いただろうし」

「無念なのは本人だよ。古川は努力してきたんだよ、毎日毎日」

 結衣の影響で母の智子も、彼のファンになっていた。


「ここの病院にいるということは、古川に話し掛けられるかもよ」

「そんなのありえないってば」

 手を振って否定する結衣だったが、母にけしかけられて顔が真っ赤になった。


「照れている顔を見ると、本当は好きなんじゃない?」

「ちょっとやめてよ、まだ一度も話したことがないんだよ。どんな人かもわからないのに、好きになるなんてありえないでしょう」

 母の智子は確信していた。結衣はこう言っているけど、本当は遼のことを好きでいると。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ