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しらかわよふね  作者: 蚊取線香
僕とじいさん
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11/15

僕のよふねとじいさんのこと3

包んでもらったケーキをぶら下げながら、自宅近くのバス停から歩く。

もうすぐ冬に差し掛かる季節なだけにマフラーだけでは全身が肌寒い。

片手で下げるには重さを感じるケーキを階段を上る時だけ抱えるようにして持つ。

歩く振動で崩れていないと良いのだが。

部屋に入って明かりを点けた。早速ケーキを食べる準備をして、テレビのスイッチを押す。……そうだ、先に風呂に入ってしまってからにしよう。

小さなテーブルに並べたケーキは我が家の狭い冷蔵庫へ引越しさせた。



春美さんは、本当に丸々包んでくれてかなりの量があった。何の記念日だよ、と思いながらザクザクとフォークを入れて食べる。

うまい。無心に食べ続けるうちに昼間のじいさんのことを思い出した。

あの人はあとどれくらいの間生きることができるのだろう。働くことから解放されて、これからだと新しい生活を模索しようとしていた矢先のことだろうに。

世界は誰にも優しくないものだ。干渉しないと決めている僕でもそのやるせなさに苦しくなる。

また明日、と言っていた。あの人に明日は来るのか、来ても明後日は来ないかもしれない。死というものがまるで大犯罪者のように感じる。理不尽な要求だけ叩きつけて平然とさもそれが圧倒的な正義であるかのように未来を奪っていく。

だが姿が見えないので捕まえることも詰ることさえもできない。

何もできない無力さだけを思い知らせて去っていく。

口の中で何度も何度も咀嚼しながら頭の中の感情も噛み砕く。

思ったって僕には何もできないことだ。今回のこともいつもより少し距離が近いだけ、普段通りにすればいい。

そう、それだけだ。

最後に水をグッと飲み干し、寝る準備をしてから布団の中で必死に目を瞑った。

明日も仕事だ。


 

幸か不幸か、昨日のじいさんは昼過ぎに足取り軽くやってきた。

僕の仕込み作業がちょうど終わる頃でまるで見計らって来たかのようだ。

「こんにちは、今日も世話になるよ。」

「こんにちは、いらっしゃいませ。どうぞ、今日はこの店では珍しい日の当たる席が空いていますよ。」

「おお、ありがとうありがとう。――ふむ。では隣の席の奥様方と少し過ごさせていただくことにしようかな。」

その席の隣は少し大きいテーブルの、いわばボックス席のようになっている。お母さんグループたちの指定席だ。

じいさんのオーダーを受けて、コーヒーを届けに来るとそれは楽しそうな顔で彼女たちと談笑しているところだった。

おまけの特製“パンの耳揚げパン”を添えてから静かに下がる。

一応声を掛けたがよほど盛り上がっているようで返ってきたのは生返事。


持ち帰り用のサンドイッチに伝票をつけながらどうしても気になってしまうじいさんを片手間に観察した。

彼は品が良い、とまでではないが自分の分をわきまえているようでまさに話し上手だ。

投げられた言葉に綺麗な切り返しで返す。まるでテニスか卓球のラリーを見ているようだ。その上適度にくだけた言葉遣い。これは奥様方に大いにウケている。

相変わらず彼の背中に【数字】はないが、いきいきとして死の気配などまるでない。

僕はこのパターンに少しの抵抗がある。予兆の感じない死など恐怖以外の何者でもない。

従姉妹のあの子の時だって、結果的に突然ではあったが予兆は確かにあった。

皮肉なことにこの力に慣れてしまっている僕は、死の瞬間に予兆がなくては怖くなってしまうようになっていた。

今回もそうなるのかな。それならば少しでも苦しくないようにと願う。

誰に届くわけでもないがそうしないと僕は押しつぶされてしまいそうだった。


 


「秋也! 頼みたいことができた。さっき新しく注文が入ってな、横山さんの奥さんが旦那を回収しがてらサンドを買い に来るそうだ。おまけ付きで1セット用意しておいてくれ。」

「了解です。奥さん、もうすぐに来ちゃいそうです?」

「いや、あと30分くらい後に来るそうだ。店の方は俺らが回すからそれだけ頼むなー。」

昼間の予約分に使った野菜がまだ残ってたな――。横山さんの奥さんだし、少しだけ豪華にしてしまおう。材料は余った野菜なのだが。

焼きゴテを温める間に、店に持っていった揚げパンを引き上げてくる。変わらないトーンであのじいさんはお喋りに興じていた。呆れるくらい元気だよと思いながら作業を始めた。


豪華に、と言いつつも意外にコンパクトかつ時間も早めに終わったのでついでに厨房付近と裏の材料庫の整理をしておこう。そろそろ小麦粉あたりのストックがなくなる。

そういった物をリストに連ねて発注票に書いておく。

あとで春美さんにチェックしてもらうように言っておかないと。


ホールに戻ったらお母さんたちは帰っていったようで、じいさんが静かに本を読んでいた。……世渡り上手な人。

やっぱり複雑な感情が波のように襲ってくるが、不思議と彼に対する興味が大きくなっていった。
















未熟な話を読んでくださりありがとうございました。

ポイント評価だけでもお待ちしております。

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