ネコがしゃべっとる!…④
「ケージ脱出後21分間で地球人が情報を蓄積、交換する方法を探し出し、コンピュータにアクセスして情報を読み取って覚えた。こんなことが地球人には真似できないことも理解している」
「21分で違う星の言葉覚えられるん? うわ、それはスゴイわ。あたしいまだに火星語ニガテやのに。
ゆーか、あたしその間ずっと迷子でさまよってたんやなあ」
「ようやく分かってきたか? さらにオレたちはどんな環境でも生き延びることができる。ゆえに究極生物と称している」
「せやけど、捕まってしもたんやろ?」
「あれには不覚を取った。しかし衛星軌道からの高出力電磁ビームによるピンポイント攻撃の直撃で一時的に動けなくなった。
その後、絶対零度のケージに捕獲され動きを封じられていたのだ」
「で、電磁ビーム直撃! アカンアカン、それはアカン。へっ? 絶対零度って、ようそれで生きてたなあ」
「生かさず剥製にでもするつもりだったのだろう。しかしそれでも死ぬことはない。
だからこそ究極生物だ。実際に何度もおまえたちが……」
「どうかしたん?」
「地球人には固有の名前があるな? おまえの名はなんだ?」
「あたし? あたしは誠恵。稲里誠恵や。あんたは?」
「オレたちは自分に名前を付けず他人にも付けない。だから名前がない」
「そんなん不便なことないの?」
「ファリアロでは問題ない。しかし地球の文化の中では不便だろう。おまえが付けてくれ」
「あたしが付けてもええん?」
「自分では考えつかない」
「そうやなあ。ほんならなんか考えるわ」
……そやな、ネコやし……ネコには小判やし、ネコはコタツで丸なるし。
「ほんなら、あんたの名前はコバンがコタツや、どっちがええ?」
「コバンかコタツ……コバンとは、はるかな昔に使用されていた通貨で宝の代名詞とも言えるものか。
そしてコタツとは現在もなお根強い愛用者がいる暖房器具……。
地球人の価値基準に関するものより、温まるコタツのほうがいいだろう。コタツと呼ぶがいい」
「うん。ほんならあんたコタツな」
「名前を尋ねたのは、地球人全体を『おまえたち』と呼んでしまうと、誠恵も含まれるため区別したい。誠恵は誠恵と呼び、おまえたちと言う中に入らない。
そしてファリアロにやってくる者たちは密猟者、ハンターと呼ぶのが適切だ。ハンターたちは過去に何度かファリアロにきてオレたちを捕らえようとしたが、もちろん捕まるものはいない。
逆に逃げられないよう宇宙船を壊される者もいたが、もちろんハンターのように武器を使うことはない。そして、ついにハンターは衛星軌道上からの電磁ビームを発射するなどという卑劣な手段を使った」
「ほんまや、ヒドイことするなあ」
「しかしオレで良かった。他のものが連れて行かれていれば、リーダーとして長老たちに顔向けできない」
「え? コタツがリーダーやったん?」
「まあな。しかしオレが連れ去られた時点で次のリーダーが決まる。そういう仕組みだ」
「そんなん、捕まえられた上にリーダーまでやめさされるんて、かわいそうや」
「同情の必要はない。いなくなったリーダーとは追放や転落ではない。
選ばれるものは限られているが、数人による持ち回りであり、場合によっては、気候の変化によって1日に数回交替する場合もある。
つまりおかれた状況に最もうまく対応することができるものがリーダーとなる習性だ。個体自体が強く、種族そのものも柔軟性が高いため、生き残る可能性が高い」
「そんなに強かったら、人間みたいに増え過ぎたりせえへんの?」
「ファリアロの女性は生涯を通じて生める子どもの数が決まっている。
最多で3人。通常は親と同じ数の2人だ。時に1人の場合もあるが、時に3人の場合もある。それで人口はほぼ一定している」
「うまいことできてるんやな」
「オレたちはそうなる自然環境の中に生かされている。地球人もその自覚を持つべきだな」
「よう分からへんけど、たぶんええこと言うてるんやろうなぁ」
「……まあいい。ではさっそくだがオレと一緒にきてくれ」
「行き先分かってんの?」
「この施設内はすべて把握している」
よかった! ほんならコタツおったら迷わんでええやん。
「って、コタツ待って〜!」
「早くこい!」
あたしはあわててコタツのあと追いかけた。