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ロクでなしの魔女  作者: 木介


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鉄仮面のシーラ

かつて十八歳のシーラは町で一番綺麗な女であった。幼馴染みの【ティーダ】と恋仲にあり結婚も約束していたが、それを面白く思わなかったのは町長の息子【フィリア・ライル】である。

彼はシーラの事が好きな訳では無かったが、町一番の美女を手に出来ない事が許せなかった。


ある日運命が変わる出来事が起きる。


町全体で起きた流行り病だ。

この病は長引けば身体が熱を帯び、全身の痛みで息をするのもままならない、日を追うごとに完治するのが難しくなる恐ろしい病であった。

しかしながら発病しても一ヶ月は風邪程度の症状で適切な処置を早期にすれば治る病であり、事前に薬で予防も出来る。

そんな情報を知っていた為、町内で混乱を招く程の事は無かったが

「一気に町民が押し寄せては対応出来ない」

とライルの父親である町長が一日に診る患者の数を制限したのだ。


この制限は町長であるフィリア家に近い者達から優先され、この時すでに病にかかっていたティーダは若く体力もあるが故か順番は後回しにされていた。

最初、異変に気付いたのはティーダの両親であった。同年代の子供達が予防の薬を貰うなか息子は治療をしてもらえないのだ。


「なんで他の子の予防よりも先に治療をして頂けないんですか?」


そう町内の役人に言っても「順番を待ちなさい」の一点張りで追い返される。

日に日に弱っていくティーダを見ていたシーラはその話を聞き、直接ライルへ話をしに行った。


ライルは「どうにかして欲しい」と懇願するシーラをなめまわす様に見つめ、ニヤつきながら言った。


「お前が俺の女になるなら考えてやる」


このように言われシーラは嫌々ライルとの結婚を約束したのだ。


次の日ティーダの元に二つの情報が耳に入った。

一つは病の治療を受けられる事。

もう一つはシーラとライルの結婚である。


これだけでティーダには何が起こったのか理解し

ティーダは直ぐに走った。


既に身体が熱をおびて意識が飛びそうでも。

全身の痛みで息が苦しくても。

結果、死ぬ事になっても。

ただひたすらにシーラの元へと走ったのだ。


ティーダは命を掛けてシーラを奪い返し彼女を連れて逃げた。彼女との幸せを守るために。


だが逃げた先にあるのは病に侵され寝たきりのティーダのみ。シーラは命を掛けて守ってくれたその愛に応える為、魔女の元を訪ねたのだ。


彼女の願いは一つ。


「私の恋人ティーダの病気を治して下さい」


そう言って頭を下げる彼女はとても強く、美しかった。


リリスはそんな彼女を見て思う。

(気持ち悪…)

もう何百年も生きているリリスは人間の言う【愛】などは信じてはいなかった。

故に試したくなる、恋人の病気を治す代わりにリリスが求めたのは顔。

正確にはシーラの首から上を焼き、異形の者として生きる事が代償だ。


その提案に対してもシーラは真っ直ぐ彼女の闇を見つめて感謝を述べる。

この行動はリリスを不快にするには充分であった。


リリスは必要以上に長い時間を掛けて彼女を焼いた。自らの提案を後悔させる為であったが、

彼女はこの痛みに強い心で耐え抜いた。

彼女にはかつての美貌は無かったが、その美しさをリリスが消す事は出来なかったのだ。


代償を払ったシーラは恋人のもとへと戻る。

彼女を見るなり町民達は叫ぶ「バケモノだ!」周りは彼女を避けるが、そんな声など気にせずティーダの元へと急ぐ。

彼の家に着くと病が治り元気な姿のティーダがいた。

再開の嬉しさとその姿にシーラは思わず「ティーダ」と優しく声を掛け近寄る。


振り向いたティーダは彼女を見て驚愕し「バケモノ…」と呟く。

その言葉はシーラの心を強く抉った。


「ティーダ、私よ!シーラよ!」


その聞き覚えがある声にティーダは「お前、まさかシーラを食べたのか」と怒りを帯びた声に変わった。


「違うわ!私よ!シーラ!バケモノなんかじゃないわ!」


そう言って近寄るシーラに彼は近くにあった石を投げ「近寄るなバケモノ!」と罵倒を浴びせてきた。


(こんな見た目じゃ会話にならない)


そう思ったシーラは町民が追いかけて来ないよう魔女の森で状況が変わるのを待つ。

自らの服を破り顔を隠し、寒さと恐怖に怯えながらこの暗い森で一晩を過ごした。


次の日の夜シーラは人目を避けティーダの家へと向かった。

(私だと分かってくれれば必ず守ってくれる)

ライルから守ってくれた必死な彼の姿を信じてドアを叩いた。


ティーダがドアを開けると顔を隠して服がボロボロの女性が立っている。

彼女は喋らずこちらの言葉を待っているようだ。


「シーラ?」


恋人である直感からかそんな言葉が自然と出る。


すると目の前の女性はティーダに抱きつき泣いた。その匂いと泣き声で彼女だと確信し一体何があったのかと考える。


ティーダは彼女を家に入れ話を聞こうとするが「待って」と拒まれてしまった。

「どうしたの?」と彼は疑問を口にしたがシーラは黙ったままだ。


しばらくの沈黙の後、彼女は言う。


「私、顔に傷が出来てもうあなたの恋人に相応しくないかも知れない」


「そんな事…」とティーダは話をしようとしたが彼女は手で言葉を遮る。


「私の顔を見てから判断して」


そう言った彼女は顔を見せた、昨日【バケモノ】と罵られた顔を。

それを見たティーダはすかさず距離をおいた。

物理的に離れた訳では無い、彼の反応から心の距離をおいた事が分かってしまったのだ。


泣きながら去っていくシーラの事をティーダが追う事はなく、ドアの閉まる音だけが響いたのだった。


それから彼女は無意識に魔女の森へと再び足を踏み入れ奥へと進む、それは死を望んでいたからでは無い。

その理由は屋敷に着いた彼女のみ知る事である。

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