暗殺者レアルタ
かつて戦争孤児であった十歳のレアルタは【フィリア・アーク】という野心家に拾われる。
彼らの生きる時代では毎日争いが絶えず、戦争を繰り返していた。
そんな中アークの掲げる野心それは自らの土地を持ち自分の帝国を築く事である。
戦後を見据えた彼の行動に従う者達が増え続け中、レアルタは目立つ事などせず五年間、影ながら組織の一員として暗躍をしていた。
そんなある日アークから任された仕事は【俺の妹を守れ】というもので、他人と関わらず人を殺める事ばかりしてきたレアルタにとって向いていない仕事であった。
アークもその事は百も承知の上でレアルタに任せる事にしている。
というもの現在は隣町のクライ家と抗争中である為、彼女に護衛を付けてはいるが、見知った顔が来るといつの間にやら逃げ出す事があり、危険極まり無い状態であった。
だからこそ信用がおけて、なおかつ腕が立つ人物であるレアルタに保険としての役が回ってきたのだ。
遠目から彼女を見守るそんな平和な日々をしばらく過ごしていたが、そんな毎日も銃声一つで終わってしまう。
護衛に当たっていた身内の裏切り、突然の出来事に仲間達は次々と息絶え、気付けば残りは彼女一人となってしまった。
「ほら、殺さないから大人しくしろ」
まるで犬でも宥めるかのように接してくる男に「近寄るな卑怯者!」と彼女は強気な姿勢でいた。
「流石、アークの妹だけあるな…」
「人質として価値があればいいからな、ちょっと痛い目にあってもらうぜ」
そう言って銃を男が構える中【キィッ】と扉が開く音がする。
「やっと来たか遅いぞ」と仲間が来たと思って振り向いた男は相手を確認する前に首を切られ倒れた。
「……貴方は誰?」
「私が誰か等今はどうでもいい事です、新手が来ない間に逃げましょう」
レアルタは強引に彼女の手を取り逃げ出した、これが【フィリア・ソテリア】との出会いである。
「どこに行くの?」
「アークさんの所へ行って保護してもらいます」
この返事を聞いた彼女は「それはいや!」と手を振りほどいた。
あんな目にあったというのに拒否する彼女の事を理解出来ず首を傾げる。
「嫌だって…ではこれからどうするんですか?」
「もう自由に暮らすわ」
「自由に暮らすってそれは無茶では?」
「分かってる、でも兄さんは過保護すぎるわ」
過保護すぎるという言葉は的を得ている、数日彼女を見ていて思うのは、何をするにも何処へ行くにも誰かの許可を得る、そんな監視のもとで過ごしていた彼女は生きずらさを感じずにはいられないであろうという事だ。
その彼女の気持ちは確かに理解出来るがアークの守りたい気持ちもレアルタには理解出来る。
もちろんソテリアもアークの気持ちを理解した上での発言であった。
「…わがまま言ってごめんなさい、行きましょう…」
「…」
「君の無事は手紙で伝えればいい、これから身を隠して自由を得る事は出来るが堂々と出歩く事は難しい、毎日気を張り隠れて過ごす事になるぞ?」
あの時、何でこんな提案をしたのか自分でも不思議であった。
あのまま彼女を連れて帰れば全てが丸く収まった、今改めて考えればそう思うがこの時の彼女を前にしたら同じ選択をしていたに違いなかった。
ここから彼女と各地を転々としながら隠れて暮らす事になる。
共に暮らすとは言っても彼女のやる事成す事に口を挟む事はなく、あくまで傍観者としてレアルタはいるつもりであったが、自由を欲した彼女は事ある毎にレアルタを連れて歩く、そんな二人が親しくなるのはごく自然な事であった。
~半年後~
クライ家と和解し抗争の終了、レアルタとソテリアが逃げている間に話はそこまで進んでいたらしくアークの住む屋敷へと呼び戻された。
このまま逃げ続けるという選択を彼女がしなかったのは唯一の家族に会いたいという気持ちが勝ったからである。
「ソテリア、クライ家の嫡男と結婚するんだ」
久しぶりにあった兄から言われた言葉である。
アーク自身に後ろめたさがあるのか、ソテリアの顔は見ずに半年の間に一体何があったのかを話始め、両家の信頼関係を築く為だとまるで自分に言い聞かせているかのように淡々と話を進める。
「分かったわ兄さん、私結婚する」
その言葉にレアルタはショックを受けた。
この半年の間で彼は彼女を愛しており、彼女も同じ気持ちであると思っていたからだ。
「今までありがとね」
最後の別れの日泣きながら笑顔で彼女が言った言葉である。
もう会う事はないのだと直感し、最後まで彼女に自由は無いのかとレアルタは悔しい気持ちで見送った。
何故この時また彼女を強引に連れて逃げなかったのかと自分の行動をいまだに後悔している。
ーーー
数ヵ月後、彼女は男の子を産み亡くなった。
この事態に激昂したアークを見てまた抗争へと発展するかに思えたが、クライ家の嫡男にそんな度胸はなくソテリアの子供をフィリア家の子として受け渡すという条件で和解した。
彼女の子供すら道具として利用している日常にほとほと嫌気が差し、拾ってくれた恩こそあるがこの世界で生きていくのは難しいとレアルタは考え始めていた時、アークに呼ばれて引き取った赤子を見せられる。
ソテリアの子供だと認識出来る程、その笑顔は彼女に似ている、それにもう一人似ている人物を考えた時レアルタはこの場に呼ばれた意味を察した。
赤子を見た時にアークも同様の事を思ったのであろうレアルタの顔を一発殴った後
「お前をこの子の教育係に任命する、責任もって育てろ」とだけ言い残しこの場を立ち去るのだった。
その後ソテリアが亡くなってから五十年
年老いたアークはレアルタに車椅子を押されながら魔女リリスの元を訪ねていた。
「私に何か用かしら?おじいさん」
私達よりはるかに歳をとっている筈の魔女リリスは美しく、一見すれば若い女性にしか見えなかった。
「あんたに願えば何でも叶えてくれるという噂は本当か?」
「何でもというのは嘘ね、ただ人間より出来る事は多いわ」
「わしを若返らせる事は可能か?」
「出来るわよ、ただし何を代償にくれるのかしら?」
年老いたアークが欲したのは若さだ。
魔女の「出来る」という言葉に一緒に歳を重ねてきたレアルタは複雑な気持ちであった。
そんな感情を抱きながらアークの事を見つめていると次のアークの言葉に衝撃を受ける。
「わしの子孫や部下達の命をやろう」
そこにはもうかつて野心を持ち生きていた男の姿はなく、ただ死を恐れるだけの老人がいた。
「ふーん、で貴方は?」
「私ですか?」
「そう、貴方の願いは何?代償に何をくれるのかしら?」
「私は…」
「おい、魔女コイツの事なんてどうでもいいからわしの条件はどうなんじゃ!」
大声で怒鳴り散らかす老人を無視してレアルタは応える。
「私は身近な人達を守る武器が欲しいです」
「代わりに貴女に一生尽くしましょう」
「…そう困ったわね、じゃあ貴方達の二人の願いを叶えると矛盾してしまうわ、叶えられるのは一人の願いだけよ」
魔女とはよく言ったものでこの後どうなるか分かった上で発言している。
レアルタは持っていたナイフをアークの胸に躊躇なく突き刺すのだった。
「レアルタ…お前…」
「リリス様、このレアルタ貴女に忠誠を尽くします」
老いた恩人の最後を見届ける事はなく、早々に魔女へ片膝をつき頭を下げる。
「そう、じゃあ貴方の使ったこのナイフに魔法をかけてあげるわ」
そう言ってリリスが刺さっているナイフに触れるとその形が消えていく。
レアルタはその光景に驚いていると「ナイフが手にあるイメージをしてみて」リリスからの指示にレアルタはイメージをしてみた。
するといつの間にやら先程のナイフが手元に現れた。
「それは貴方にしか見えず、貴方が望めば出す事の出来るナイフよ、それをどうやって使うかは貴方なら分かるでしょ?」
不適に笑う魔女リリスは恐ろしく、人としての一線を越えてしまったのだとこの時レアルタは感じた。
「リリス様、早速ですが一つご提案がございます」
「なに?」
「リリス様に尽くしながら私の守りたい人達を守る為、フィリア家の屋敷に来ては頂けないでしょうか?」
「まぁそうなるわよね、案内して」
こうしてリリスは現在の屋敷へ移り棲むのだった。




