向けられた殺意
【登場人物】
・ハウス
魔女に会うため屋敷を訪れる。
コシネロの協力を断った為、彼の裏に潜んでいた人物の怒りを買う事になる。
・リリス
屋敷の魔女。
ハウスを気に入り屋敷での滞在を許可する。
ハウスの行動によって使用人達の心情に大きな変化を感じているが傍観に努めている。
・レアルタ
屋敷の執事。
ハウスより少し身長が高い白髪の老人。
ハウスを殺害する宣言をリリスにしている。
何かしら計画があり、ボンドと話をしていた。
・コシネロ
屋敷の料理人で常に体調が悪そうな人物。
ハウスの魔女殺しに協力の提案をするが断られる。
ハウスは早足でエントランスまで来ていた。
汗は既に引き、どっと疲れが込み上げてくる。
厨房に向かう時には気がつかなかったが、広く暗いエントランスは気味が悪く、先程までとは違った居心地の悪さがあった。
耳を凝らせば自らの足音が聞こえる。
昼間とは違う静寂した時間だ。
(帰ろう…)
この空間の不気味さも相まってか自然とそう思う。
二階へ続く階段まで来た時、突然、首元に冷たさを感じた。瞬間、ハウスは即座に察し身を翻す。
首元に鈍い痛みが走った。
そうハウスは切られたのだ。
間一髪で避けられたのは先程までの緊張感があったせいか危険を察知する力が高まっていたに過ぎない。
すぐさま短剣と銃を抜きハウスはあの独特な構えをして臨戦態勢に入った。
だが視界が悪く頼りにならない状況で相手の気配は無く、音もしない。
先程まで近くにいた事を考え階段を背にして目を凝らして警戒する事が精一杯の対策であった。
首が熱く、自分の血の流れが分かる。
(ひゅんひゅん)
僅かながらに音が聞こえる。
瞬間ハウスは来る方向が分かっていたかのように拳銃を撃ち、飛んできた物を避ける。
飛んできたのは二つのナイフでありそれは床に落ちた。だがハウスは左腕に鈍い痛みを感じ思わず声が漏れる。
「ッ!」
ナイフは三本あったのかと左腕に刺さった物を確認するがそこには何も無く傷口を確認出来るだけだった。
(一体何だ?俺のジャケットを貫くなんて)
【ヒュンッヒュンッ】
間髪入れずにまたナイフが飛んでくる。
今度は隠すつもりなど無い速度で頭と腹目掛けて二本飛んできた。
頭は死守し、腹に当たったナイフは刺さらない。
だがまたしても三つ目の何かが左足をかすめて傷付ける。
「クソッ!」
ハウスは見えない何かに苛立ちながら体勢を整える。
体を傷つけられ相手の位置はだいたい把握している。
体勢を整えれば相手の行動に対処が出来る。
その確信のもとハウスは待った。
(ここだ!)
そう確信を持ちハウスは目視では確認できない空間へ目掛けて拳銃を放った。
「ぐっ!…なぜ!…」
相手の驚く声と共に命中したという手応えを感じた。
(さて次はどうする?ここまま退いてくれるか?)
ハウスとしてはもう相対したくはなかったがそんな甘い考えを捨て身構える。
続けざまに起きていた相手の攻撃は止み、静寂を取り戻す。
こちらの予期せぬ反撃で相手も攻めあぐねているのが分かった。
(さて一体何処からくる…正面か!)
【ヒュンッヒュンッ】
またしても二本音が聞こえる、あの見えない何かを警戒し今度は先程と違って大きく避ける。
カランッカランッと二本のナイフが落ちる音が聞こえた。見えない何かは飛ばしてないのか、はたまた飛ばしたが音がしないのか、判断がつかない。
(次は何処だ右か左か正面か…)
そんな事を考えながらも警戒している限り、もう当たらない自信が出来ていた。
「イッ!」
突然の痛みに驚く、ハウスは後ろから右脇腹を刺されていた。
そしてハウスの頭では走馬灯のように考えがまとまっていく。
最初は音も無く近づき首を切られそうになった事。
ナイフを二回目からわざと大きな音を出して投げていたのは見えない自分の存在を大きく見せ警戒する方向を定めさせる為で狙いはこれであったのだ。
『油断しすぎだ』
ボンドの言葉が頭に響き渡る。
ハウスは階段から離れよろめきながら距離をとり片膝でうずくまる。
目の前には黒いスーツに身を包み、黒のグローブをしたレアルタが立っている。
そしてその手には何も無い。
「一体どうやって…」
ハウスは精一杯の言葉を絞り出したが、レアルタのハウスを見下ろす冷めた目は応える気などなく、あとは止めを刺すだけだと詰め寄ってきた。
そのレアルタの行動にハウスは笑みを溢した。
レアルタが怪訝な顔を浮かべたその時、ハウスは足に力を込めて跳び上がる、その身体は宙に浮き二階の壁へとぶつかっていた。
「なっ!」
レアルタは一瞬驚きはしたがすぐさまハウスの後を追う。
相手がレアルタだと確認した時、この後どうするのかは決めていた。
ハウスは再度足に力を込めて自分の部屋とは反対の方向へ跳ぶ、また壁にぶつかり意識が飛びそうになるが諦める訳にはいかない。
着いた場所の扉を拳銃で撃ち、鍵を壊して中に入った、すると部屋の主が早速声を掛けてくる。
「…あら?こんな夜更けに来るなんて強引ね」
リリスは部屋に入ってきた死にかけのハウスに向かって相変わらずの口調で話しかける。
「…」
「返事も出来ないなんてずいぶんとこっぴどくやられたのね」
リリスはいつの間にやら意識がはっきりしないハウスを抱き起こし、壁に寄り掛からせて耳元で囁いた。
「助けてあげましょうか?」
「…」
「まぁ、代わりに貴方の心臓を貰って毎日奴隷のようにこき使うけど」
「…」
無反応のハウスを見てリリスはダメだと諦め離れようとした時、ハウスが口を開く。
「そばにいてくれ…」
うつむいたまま呟き、その表情は分からなかったが声だけでその寂しさが伝わった。
リリスはハウスの隣に座り手を握るのだった。




