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第1話「先生、あなたをどこかで見た気がします

はじめまして。

この作品は、異世界で悲恋を経た二人が現世で再会する年の差ラブストーリーです。


前世の記憶に縛られる大人の男性と、無邪気な小学生──倫理的には危うい二人ですが、物語の中心は「過去と現在の自分をどう受け止めるか」です。


コメディ要素と切なさのバランスを意識して描きました。

一話目では、主人公の心情と再会の衝撃を中心にお届けします。


読んでいただき、少しでもドキドキや笑い、そして切なさを感じてもらえたら幸いです。

夜の闇に、赤い月が浮かんでいた。

風が荒れ狂い、神殿の鈴が鳴る。


俺は──ツキトと呼ばれていた。

禁を破って巫女を愛した神官。

そして、最期の夜。


「ツキトさま、私たちは罰を受けますね」

彼女は泣きながら笑っていた。


「ならば次の命で、もう一度出会おう」

「……ええ、必ず」


血のような月光に包まれて、俺たちは同時に消えた。


──その瞬間で、いつも夢は終わる。


目を覚ますと、見慣れた天井。

35歳、独身、夢見がちな小学校教師。

名前は月戸慎吾(つきとしんご)


「……はぁ。今日もアマネの夢か」

身体を起こし、俺はため息を吐いた。

初めてこの夢を見始めてから二十数年。前世の記憶なんて、普通なら“妄想”で済むはずだった。

けれど俺には、それが確かな記憶として焼き付いていた。


だから、ずっと探していた。

あの時の彼女──アマネを。


もう一度出会うために、彼女以外とは付き合わず、

気づけば三十五歳。


「……さすがに、俺ヤバいのでは」

誰に言うでもなく、苦笑いが漏れた。

それでも、心のどこかでまだ信じていた。

今日、もしかしたら──。



**********



四月の始業式。

新任教師として赴任した小学校。

担任するクラスの名簿を見て、胸が妙に高鳴っていた。


(なあアマネ、もしかしたら君もどこかで同じ空を見てるかもな)


そう思いながら教室の扉を開いた瞬間、

俺の時間が止まった。


「はい、今日からこのクラスを担当する月戸慎吾です。よろしく──」


そこにいた。

窓際の席で笑っていた少女。


──真白雨音(ましろあまね)


(うそだろ……?)


茶色のくりくりとした大きな瞳と、肩の辺りで切りそろえられた黒髪。

髪の色も瞳の光も違うのに、ひと目で分かった。

この子だ。アマネだ。


けれど現実は、あまりにも残酷だった。


俺は三十五歳。

彼女は──どう見ても、ランドセルが似合う小学四年生だった。


(いやいやいやいや……! どうなってんだ神様!?)


喜びより先に絶望が来た。

奇跡の再会のはずが、倫理的に完全アウトである。



**********



自己紹介を終え、教室を見渡す。

心臓が早鐘を打つ。

雨音はにこにこと俺を見つめている。


「先生って、どこかで会ったことありますよね?」


その無邪気な一言で、俺は心臓を止めかけた。


(やめろぉぉぉぉ!! “なんか懐かしい”とか言うな!)


生徒たちの前で取り乱すわけにもいかず、無理やり笑顔を作る。

「そうか? 先生は初めましてだぞ!」


「うーん……でも夢で見た気がするんです。先生に似た人」


(うわああ、絶対それ俺だぁぁ!!)


教壇の裏でこっそり拳を握る俺。

教員としての理性と、転生者としての動揺が大乱闘中である。



**********



一週間後。

俺は完全に“怪しい教師”と化していた。


「月戸先生、また真白さんを褒めてましたね」

同僚の高梨先生が眉をひそめる。


「いや、その、あの子が……いや違う! 俺は公平に──!」

「作文、ラミネートしてましたよね」

「……雨の日対策だ」


(防水とか言っちゃったよ俺!? どんな言い訳だ!!)


職員室で冷や汗をかきながら、

俺は内心で土下座していた。


(神様、何これ。前世の罪の罰ですか?)


でも、目の前の少女が笑うたびに胸が痛む。

懐かしさと、焦がれるような愛しさ。

俺はこの感情をどう扱えばいいのか分からなかった。



**********



放課後。

帰り支度をしていた雨音が、ふと校庭の空を見上げて呟いた。


「先生、月って好きですか?」

「え?」

「見てると、少し悲しくなるのに、安心するんです」


俺の中で、時間が止まる。


その言葉は、前世のアマネがいつも言っていた言葉だった。


──“月は神様の涙です。でも、優しいから好きなんです”


雨音は何も知らない。

けれど、確かにアマネがそこにいる気がした。


(ダメだ。嬉しいのに、泣きたくなる)


「先生?」

「いや、ちょっと……懐かしくなっただけだ」


その時、校庭の上に白い月が浮かんでいた。

春の昼に見える淡い月。


俺はそれを見ながら、そっと胸の中で呟いた。


(アマネ……今世の君は、俺よりずっと先を歩け。

 俺はもう、君を“待たせる”ことはしない)



**********



その夜。

夢の中で、またあの声を聞いた。


──「ツキトさま、次の命でも、きっと」


月は真っ赤に染まり、

巫女の姿が光に消える。


目が覚めると、胸の奥が熱くて、涙が出ていた。


「……俺、どうしたいんだろうな」


彼女を見つけたのに、何もできない。

けれど、それでも構わない気がした。


また出会えただけで、

今度こそ、守れるだけでいい。


窓の外、白い月が静かに光っていた。

まるであの日の約束を、

今もどこかで見守っているように。

お読みいただきありがとうございます。


今回は慎吾目線で物語を描き、前世の断片と現世の出会いを中心に構成しました。

コメディ要素も盛り込みつつ、彼の葛藤や胸の高鳴りを丁寧に描くことを意識しています。


まだ物語は始まったばかりです。

次回以降は、二人の距離感や日常のやり取り、さらに切ない感情の深まりを描いていく予定です。


もし楽しんでいただけたら、ぜひお気に入り登録やコメントで応援していただけると嬉しいです。

今後も慎吾と雨音の物語を、どうぞよろしくお願いします。

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