007 これくらい大丈夫だろ
「ここが喫茶店? 綺麗なお店ね」
「そうだね」
幸いにも、マリーのゴブリン面はすぐに直った。今ではパッケージに描かれていた通りの素朴そうな美少女だ。
そんなマリーを連れてやって来たのは、王都の大通りに面する喫茶店だ。落ち着いた雰囲気があり、お茶のいい匂いが立ち込めている。
「さて、さっそくだけど王様から貰ったお金を確認しよう」
「そうね」
マリーは目を輝かしてオレの持つ大きな革袋を見ている。
そうだね。これだけ大きな革袋だ。それに重い。中にはギッシリお金が入っていることだろう。マリーじゃなくてもわくわくするよ。
「じゃあ、開けると」
ゴクリと唾を飲み込んで、オレは革袋を開いた。そこには黄金の輝きが――――!
「え?」
黄金じゃない?
これ、銅貨だ! しかも、銅貨の半分の価値しかない半銅貨! それがびっしりと詰まっている。
「何が入っていたの? え……?」
あまりのショックに固まってしまったオレの手元を覗くマリー。
しかし、マリーも予想外の光景に目を見開いている。
いやいやいや、オレって勇者だよ? この世界を救うんだよ?
そんなオレへの餞別が半銅貨って……。
「ヒイロ、これって……」
マリーの絞り出すような声に、オレも声を絞り出して返す。
「期待されてないんだろうな……」
オレはこの世界のことを何も知らないが、魔王の討伐ってことは、一国の王様の暗殺に近いと思う。たしかに、ゲームではできるかもしれない。だが、この現実世界でそんなことが可能なのだろうか?
オレはとても難しいと思う。
それに、メタ的な読みをするなら、序盤で大金を手にするのはゲーム的にもちょっとしたバランス崩壊を起こしかねない。
やっぱり最初は王都周辺でモンスターを倒してレベル上げをしつつ、お金を貯めて装備を強くしていくのがセオリーなのだろう。
「そんな……」
マリーが言葉を失ったように絶句する。
まぁ、気持ちはわからないでもないけど、ヒノキの棒一つで放り出される勇者よりマシだと思って頑張るしかない。
「そういえば、マリーって戦えるの?」
ここでオレは疑問に思っていたことをマリーにぶつけてみた。
マリーは十代中頃の普通の少女にしか見えない。旅に付いて来たということは戦えるのだろうが、オレはマリーの戦闘方法を知らなかった。
「え? ヒイロは知らないの? あたし、魔法が使えるのよ?」
「そうなの!?」
まさか魔法使いキャラだったとは。魔法か。いいなぁ。オレも魔法使いたい。
「得意なのは水と火の魔法よ。二属性も使えるのってすごいことなんだから!」
そう言ってマリーがえっへんと胸を張る。育ち盛りのふくらみがタプンと揺れた気がした。
「あたしよりヒイロこそちゃんと戦えるの?」
「うーん……。そこなんだよなぁ」
一応、馬車での旅路で騎士の人たちに稽古をつけてもらった。だが、大剣の扱いはまだ慣れないのが本音だ。見た目のわりに想像以上に重たいんだよね、大剣って。
「ステータスオープン」
マリーに聞こえないように小声で呟くと、目の前にステータスウインドウが現れる。このウインドウはマリーたち現地の人には見えないみたいだ。
そこにはオレのレベル1の文字と低いステータスが並んでいる。こんなので魔王に勝てるのか?
まぁ、レベルを上げたらどうにかなるのかもしれんが……。
「ん?」
気が付くと、いつの間にかマリーのステータス欄のタブもできていた。なるほど。これでマリーのステータスもわかるな。
ポチッとマリーのステータス欄を押すと、装備品やステータスがわかる。
「レベル3……」
どうやらマリーはいつの間にかレベル3になっていたようだ。物理攻撃のステータスはオレの方がまだ高いが、ステータスの数値も全体的にオレよりも高い。
もうマリーが勇者でいいんじゃないかな?
「お?」
もう一つ気が付いたのは、マリーの装備欄を動かせることだ。
試しにマリーの装備している銀の髪飾りを外すと、目の前のマリーから銀の髪飾りが消えた。
「おいしい……」
本人は気が付いてないのか、ティーカップのお茶をズズズッと飲んでいた。
もう一度、今度はマリーに銀の髪飾りを装備する。
すると、目の前のマリーにも銀の髪飾りが着いた。
ということは……。
オレの手がマリーの平民服に伸びる。この平民服を外したら、マリーが裸になるのでは?
「いや、ダメだろ……」
さすがにお店の中とはいえ人目がある所でマリーを引ん剝くとか最低だ。
でも、いつか試してみよう。
そう心に決めて、オレはお茶をすする。
紅茶が近いかな? なんとも華やかな香りだ。渋みもちょうどいい。
たぶん大通りに店を構えているから高級店なのだろう。オレたちの他にも客がいるのだが、みんな豪華な服を着ている。むしろオレたちが場違いなのだろう。
「お会計足りるかな……」
オレもまさか革袋の中が半銅貨とは思わず、これくらいは大丈夫だろうと高級店に入ってしまったことを後悔し始めていた。
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