006 初めてのゴブリン
「勇者、この世界を救ってくれ。頼んだぞ!」
王都まで送ってくれた騎士リーダーとも別れ、王城を出たオレとマリーは、王都の大通りを歩いていた。
「おっきい家! 何人ぐらい住んでいるのかしら? 庭も綺麗に手入れされてるし……。あ! あれってメイドさんじゃない? すっご、本当にいるんだ。初めて見た」
隣を歩くマリーは謁見の緊張から解放されたのか、いつも以上に饒舌だ。
「王城の近くは貴族やお金持ちの家みたいだね。そりゃメイドだっているよ」
「そ・れ・よ・り! 王様にお金貰ったんでしょ? いくら貰ったの?」
「もうちょっと落ち着いた所で確認しようよ。さすがに大通りのど真ん中でお金を数えるのは危ないよ」
「それもそうね。でも、どうしようかしら? このあたりに良い感じに日陰になってる木とかなさそうよ?」
そっか。イナカ村にはお店がなかったから、マリーはお店の概念を知らないのか。この調子だと、喫茶店とかも知らないだろうし、ここはオレがリードしよう。
オレは文字を習った経験はないが、この世界の文字は幸い、日本語だ。だから、オレでも読み書きはできる。数字も十進法だし、ファンタジーな街並みだけど困ることはなかった。
しばらく大通りを歩くと、大きな店構えの大店が見えてくる。この辺りは裕福な商人の縄張りみたいだ。
できればこじんまりとした喫茶店なんかあるといいんだけど……。
「ねえ? お店みたいだけど、入らないの?」
「たぶんこの辺りは高級店だろうから、できればもうちょっと小さい店に入りたいな。喫茶店とかあれば最高なんだけど……」
「きっさてん……?」
やっぱりマリーは喫茶店を知らないみたいだ。
「喫茶店って言うのは、お茶を売ってる店のことだよ。椅子やテーブルも使っていいお店があれば最高なんだけ……どッ!?」
その時、いきなり路地裏から小さな人影が現れた。
頭には小さなツノと、体の大きさに見合わない大きな耳。ヤギのように瞳孔が横長の金色の瞳は間違いなく人間のものではない。
ファンタジー世界の定番モンスター、ゴブリンだ!
粗末な腰布と棍棒を装備したゴブリンが三体、こちらに向かってくる。
オレは反射的に背中に吊った大剣に手を伸ばした。
だが、オレと同じ景色を見ているはずのマリーはのほほんとしている。
あれはテクスチャーバグなのか?
「マリー、目の前の三人組だけど……」
「え? あの子どもたちがどうかしたの?」
「子ども……」
なるほど。じゃあ大丈夫か……。
でも、腕輪の力を使うかどうか悩むなぁ。
べつに子どもたちがゴブリンに見えるのはオレだけみたいだし、一度腕輪を使うと一日使えなくなっちゃうし、まぁ、いいか。
オレがそっと大剣から手を離し、ゴブリンたちとすれ違うその時だった。
トンッとゴブリンの一人がオレにぶつかる。
「すみません」
「べつにいいよ」
途端に軽くなる腰。喪失感。
瞬時にオレは腰に手をやる。革袋がない。やられた!
そのまま走っていこうとするゴブリンの一体の首を後ろから鷲掴みにする。
「わっ!?」
「なんだよ! 離せよ!」
「兄ちゃん!」
ゴブリンたちが騒ぐが、オレは声を低くして言う。
「革袋を返せ」
「え? 何? この子たちスリなの?」
マリーも今気が付いたようだ。
危なかった。もし、革袋がそんなに重たくなく、この子たちのテクスチャーがゴブリンじゃなければオレも気が付かなかったかもしれない。
認めたくはないが、今回はバグに救われた形だ。
「なんだよ! こんなに持ってるなら少しぐらいいだろ!」
子どもたちのリーダーなのか、革袋を持ったゴブリンが叫ぶ。
「こいつと革袋、交換だ?」
「うぐッ!?」
オレはゴブリンの後ろ首を掴んだ手に力を入れて持ち上げた。
「や、やめろ!」
「なら、革袋を返せ」
「わ、わかった……」
オレはゴブリンから革袋を受け取ると、右手で掴んでいたゴブリンを解放する。
「うご!? げほ! げほ! げほ!」
「大丈夫か?」
「これが大人のやることかよ!」
ゴブリンリーダーがオレを睨みながら吠える。
「ヒイロ、さすがにやりすぎじゃない?」
マリーまでゴブリンを心配そうに見ていた。
いや、見た目はゴブリンだけど、この子たちは普通の子どもだってことはわかってる。でも、どうしても見た目がゴブリンだから手荒くなっちゃうんだよなぁ
「ほら、失せろ」
「くそっ! これだから大人は嫌なんだ」
ゴブリンリーダーがそんな捨て台詞を吐くと、オレに捕まっていた仲間を庇うように裏路地に消えていった。
しかし、このゲームにはスリなんているのか。今後も気を付けなくっちゃな。
「あの子、大丈夫かしら……?」
「だいじょ……え?」
マリーの方を見たら、マリーの顔だけゴブリンになっていた。
どんなバグだよ!
てか、ヒロインでこれはない!
「どうしたの、ヒイロ?」
「いや……。マリー、だよな?」
「何言ってるの? むしろ、あたし以外の誰に見えるってのよ?」
ゴブリンだよ……。
マジか。こんなバグもあるんだ……。
一瞬でもバグに感謝した過去の自分を殴ってやりたい!
「どうしたの、ヒイロ?」
「なんでもないよ……。じゃあ、喫茶店を探そうか……」
「あ、ちょっと!」
オレは少しだけマリーから距離を取ると、目的地である喫茶店を探すのだった。
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