040 歓声
ホーンラビットは数値でもホーンラビット並みの防御力しかなかったのか、一撃で真っ二つになった。
オレの目の前には、左右二つに分かれたホーンラビットの死体がある。
しかし次の瞬間、真っ二つになったホーンラビットの死体は、真っ二つになった紫色の肌をした大男の死体に変わった。
「なるほどね」
シンと静まり返った戦場にオレの声が響く。
紫色の肌をした大男。ねじくれた大きなツノ、手足に填めた豪華な造りの具足。白い腰巻。オレはこいつに見覚えがあった。いつだったか、ホーンラビットに貼られていたテクスチャーの持ち主はこの男だったらしい。
初めてホーンラビットを見た時は、死を覚悟したものだ。なるほど。こいつが敵の首魁だったのか。そりゃ強いわけだ。
そんなことを暢気に考えているのは、たぶん現実逃避なのだろう。
オレはたしかにガルシムを一撃で倒した。だが、目の前にはオレ一人では倒せない魔物がうじゃうじゃといる。一斉に襲われたら詰みだ。
自分たちのボスを倒されたわけだから、仇討ちに出てもおかしくない。
だが、オレの予想に反して、オレよりも強い魔物たちは静かに後退る。オレには魔物の顔色なんてわからないが、怯えているような気配がした。
もしかして、オレがガルシムを一撃で倒したから、オレの強さを過大評価しているのではないだろうか?
試しに一歩踏み出してみる。
「GYWAWAWAWAWAWAWA!?」
「UGIGIUGIGI!?」
「HYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
すると、オレよりも強いはずの魔物たちが我先に争うようにして森へと逃げていく。
振り返ると、これまで手強く戦ってきたゴブリンたちも逃げ出し、冒険者たちがオレに注目していた。
人の視線って重たいんだね。なんだか穴が開きそうだ。
「ヒイロ!」
まるで時間が止まったかのような中、動き出した者がいる。マリーだ。
「ヒイロ!」
マリーはまるでオレに襲いかかるように抱き付くと。腕を回してオレの背中をバシバシ叩く。
「痛い! 痛いって!」
「すごいわヒイロ! まさか、あんな強そうな魔族に勝っちゃうなんて!」
「運が良かったんだよ」
「何よそれ!」
いや、本当に運が良かっただけだ。ガルシムがバグってホーンラビットになっていなければ、オレは勝てなかっただろう。
「まさか、お前がこれほど強かったとは……。いつかの非礼は申し訳ないことをした」
「支部長……」
マリーとじゃれ合っていたら、いつの間にかエミリアとアリューシアに支えられた支部長がオレに向かって頭を下げていた。
「気にしないでください。本当に、運が良かっただけなので」
「運だけでどうにかなる相手ではない。儂はそれを身をもって知っている」
そう言うと、支部長はオレに促すように言う。
「さあ、ヒイロ。勝鬨を挙げるんだ」
「勝鬨? オレが?」
「敵の首魁である魔将を討ち取ったんだ。当然だろ」
「えぇー……」
周りを見れば、冒険者たちが何かを期待するような目でオレを見ていることに気が付いた。
なんだか恥ずかしいけど、やらないわけにはいかないらしい。
オレは決意を固めると大剣を天高く掲げた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
オレが勝鬨を挙げると、追従するように冒険者たちが武器や拳を突き上げて叫ぶ。
その光景を見て、オレはようやく勝ったんだと胸にストンと落ちるように納得した。
「治癒魔法を使える者は怪我人の治療を頼む。教会にも応援を頼んでくれ!」
支部長が号令を出すと、テキパキと冒険者たちが動き出す。
一番の大怪我は、あの黒い全身鎧の『黒風』のリーダーだったが、幸いにも死者は出なかったようだ。そのことに安堵する。
「凱旋だ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
王都に向けて冒険者たちは歩き出す。その足取りは誰もが自信に満ちていた。
オレたちは支部長のすぐ後ろ。一番良い場所での凱旋となった。なんだか照れてしまうね。
冒険者たちが魔物を追い払ったのを見ていたのだろう。跳ね橋が少しずつ下がっていく。
「うおおおお! 冒険者万歳!」
「万歳! 万歳!」
「よくやってくれた! 王都の誇りだ!」
「僕も大きくなったら冒険者になるんだ!」
跳ね橋の向こうでは、多くの人々が歓声を上げてオレたちを迎え入れてくれた。
「ヒイロ? どうしたの? なんだか痒そうな顔をしているわよ?」
「なんだかヒーローになった気分だなって。ちょっと恥ずかしいんだ」
そんなことを言ったら、隣を歩くマリーに背中をバシバシと叩かれてしまった。
「ヒイロは勇者でしょ? これからもっとすごいことをするんだから!」
「そうか……。そうだったな」
オレたちの目標は魔王討伐だっけ。魔王を討伐したら、これの比じゃないくらい人々が褒めてくれるんだろうなぁ。
そんなバカなことを考えながら、オレたちは歓声の中を突き進むのだった。
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