037 始まる戦争と伏兵
勇ましい声と共に跳ね橋を渡る冒険者たち。オレたちも冒険者たちに押される形で跳ね橋を渡っていく。
「あれは!?」
冒険者たちの頭が邪魔でよく見えないが、どうやら敵はゴブリンを主体にした軍勢らしい。その軍勢が横に並んでいる。半分くらいはいつも見るような子どもの背丈ほどのゴブリンだ。だが、もう半分は違う。
それはたしかにゴブリンの特徴を備えていた。だが、デカい。普通のゴブリンの三倍はありそうだ。あれがアリューシアの言っていたホブゴブリンか?
これはアリューシアの予想は当たっているのかもしれない。
「国軍を待つまでもない! 突撃! 一気に蹴散らすぞ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
支部長の声に一層走るスピードを上げる冒険者たち。
こんな簡単に戦争を始めてしまっていいのか?
オレの中で迷いが生まれる。それはこれから始まる戦争への恐怖から逃れるための現実逃避だったのかもしれない。
だが、一度走り始めた冒険者たちは止まらない。その中でも中央付近にいるオレたちに立ち止まることは許されない。もし立ち止まれば、背後の冒険者に押されて倒れ、次々と踏まれて死ぬだけだろう。
戦争ってもっと陣形や戦略とか練ってからするんじゃないのか?
こんなの、ただのギャングの抗争。ただの暴力だ。
だが、そんな暴力がこの場合は優位に働いた。
「うらああああああああああああ!」
支部長の振るったハルバートがゴブリンを纏めて五体も薙ぎ倒す。
敵の数は多いとはいえ、主体はゴブリンだ。ゴブリン相手に手間取る冒険者はいない。順当に片付けていく。
オレも背中に吊っていた大剣を構え、ゴブリンを斬り伏せた。そして、次の敵を求めてパーティ単位で動き始める。
「ヒイロ!」
「ああ!」
そのままアリューシアと協力して二体、三体とゴブリンを倒していく。
「あーもー! こんな状態じゃ魔法なんて使えないってば!」
マリーの苛立つ声が微かに聞こえてきた。
たしかに、もう戦場は混戦状態だ。こんな状態じゃあ同士討ちが怖くて魔法なんて使えない。
「やっぱり陣形とか考えた方がよかったんじゃないかなッ!」
「ゴブリン相手には不要と考えられたのだろうッ!」
アリューシアと話しながら、さらに二体のゴブリンを倒す。
このまま一気に片付けられる。
オレもそんなことを思い始めた時だった。
「うわああああああああああああ!?」
「なんだあ!?」
これまでの勇ましい声とは違う狼狽えるような声が右の方から聞こえた。
「どうしたんだ?」
「何かトラブルか? いや、あれは!?」
それは長い体躯を持ち上げるルビースネークの姿だった。その数三十を下らない。
それだけじゃない。ジャイアントスパイダーやジャイアンセンチピード、ブラックアントなど、森に住む魔物たちが突然軍を成して冒険者たちの右翼を襲い始めたのだ。
突然、横腹を突かれた冒険者たちはたちまち大混乱になる。
「軍を分けていたのか……!?」
オレがなんとなく感じていた不安。それが現実のものとなった。
「ただのゴブリンにそのような思考が!? 後方に回られたらマズい!」
アリューシアも驚いている。
魔物軍がオレたちの後方に回る。それは挟み撃ちを意味するし、退路がなくなることを意味する。かなりマズい状況だということは素人のオレにもわかった。
「どうすれば……」
「狼狽えるな!」
その時、支部長の声が響き渡る。この混乱した状況の中でもよく通る声に驚きだ。
「『黒風』、『ドラゲキン』はこっちに来い! 右翼を鎮めるぞ!」
「おう!」
「そうこなくっちゃな! 行くぜ!」
冒険者の中でも実力者を使っての足止め、いや、敵の撃破を考えているのか?
「ヒイロ、我々も右翼に回ろう」
「なんでさ!?」
右翼と言えば、今襲われて一番危険なところだぞ? なんでそんな所にわざわざ行かなくちゃいけないんだ!
「右翼から冒険者たちが逃げ出している。支部長たちが全力で戦えるように雑魚魔物の相手を引き受ける者が必要だ」
右翼を襲った魔物軍。その中にはオレたちでも倒せる魔物がいるだろう。その相手を買って出て、支部長たちには敵の首魁の首を取ってもらう作戦か。
貴族だからか、それとも本人が好きだからなのか、アリューシアには戦機を見る目がある気がした。
アリューシアが必要と言うからには、本当に必要なのだろう。
正直、怖いよ? 死ぬのは怖い。それは誰だってそうだろう。
右翼が負ければ、オレたちは包囲され、一人残らず殺される。ここはアリューシアを信じて勝ちを拾いに行くしかない!
「オレはシアを信じるよ。オレたちは右翼に行く」
「ありがとう、ヒイロ!」
「もー! やってやるわよ!」
「それでこそヒイロです!」
「オレたちはこれから右翼に行く。支部長たちを援護するぞ!」
オレたちは右翼から逃げ出す冒険者たちの波に逆らって、右翼を目指して走り出した。
「勝ちを、勝ちを拾うんだ……!」
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